上野動物園に発生した鳥類の腺癌について
発行年・号
1959-01-01
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
(On the papillary-adeno-carcinoma of birds in Ueno Zoological Gardens.)
所 属
上野動物園
執筆者
朝倉繁春,中川志朗
ページ
2〜4
本 文
広島市安佐動上野動物園に発生した鳥類の腺癌について
上野動物園 朝倉繁春 中川志朗
On the papillary-adeno-carcinoma of birds in Ueno Zoological Gardens.
Ueno Zoological Gardens
Shigeharu Asakura.Shiro Nakagawa
§はじめに
当園で飼育している野生動物の内でコウライキジ(Phasianas c.formosanus)、トモエガモ(Querguedula formosa)、及びオシドリ(Aic galericulata)、に発生した腺癌Papillary-adeno-carcinomaについて報告する。
例1コウライキジ
臨床所見:コウライキジ(Phasianus c.formosanus)雄1羽は昭和30年10月初旬よりやや元気不良、食慾減退、呼吸数の増加、二段呼吸等の症状を呈し漸次瘠痩し10月9日に斃死した。その間検便等を実施し、オーロフアック2A等の飼料強化剤を与えたが効果はなかった。
剖検所見
外景検査;栄養相不良、羽毛状態不整、肛門部より褐色泥状の排泄物を見る。
内景検査:気管;気管、気管枝内には漿液性の分泌物の付着を認め粘膜は軽いカタール状を呈す。
肺臓;両葉共圧迫萎縮を起し、肺胞内には多量の漿液を含み水腫状を呈す。右葉の下辺縁部は一部黄白色の壊死性の病巣をみる。
気嚢;胸部気嚢、頸部気嚢は黄白色チーズ様の物質で充満す。
心臓;心嚢付近はやや固い腫瘍組織の増生があり心嚢内の漿液潴溜が著しく、心筋のやや萎縮が見られる以外は心内膜、弁膜等に変状を認めない。
肝、脾、腎;色調、光沢に異状を認めないが実質は脆弱である。
胃腸;胃腸内容は少く、小腸粘膜にはカタール性の変状がみられる。又盲腸内には偽膜性炎症による病変を認めた。
組織学的所見
気嚢;乳嘴状に増殖した腫瘍細胞は円柱上皮或は腺細胞様の構造を示めし、基質部に接する細胞は核は比較的小さいが、上皮に移行するに従って細胞の核は明るく大きく核小体を認める。基質と思われる結合織も加成り増殖が著しく、不規則に並び線維腫の様相を呈し、核は大きくて明るい。増殖した基質の間に上皮系細胞と考えられる腫瘍細胞の増殖がみられ、核は明るく核小休が認められる。血管内には腫瘍細胞による栓塞もみられ、又基質部には反応性と思われる円形細胞の浸潤や赤血球の滲出が見られる。
肺臓:気管支、血管周囲に転移性の病巣を認め、大きな転移巣は径2mm程度になりその他栗粒大の転移病巣を認める。該部の細胞は原発性と考えられる気嚢由来の腫瘍細胞に酷似し腺腫状を呈し細胞の核が明るく、核小体を認めるものと核が小さく塩基性色素に濃染する細胞とが認められる。処々肺胞内に腫瘍細胞と思われるものが散在し、又円形細胞の浸潤層も認められる。
肝臓:肝細胞索間の充血が著しく、肝細胞は圧迫され退行性変性が認められる。グ氏鞘部には円形細胞の浸潤と胆管上皮細胞の分裂増殖像を認める。
脾臓:赤髄内には赤血球が少なく腫瘍類似細胞、大単核円形細胞を見ると共に白髄内に淋巴球以外の腫瘍類似細胞の滲出が著しい。脾洞内にはカタール性の変状を呈し、大単核円形細胞や核の大きい原形質の明るい腫瘍類似細胞の診出が認められる。
例2 トモエガモ
臨床所見:分園不忍池のフライングケイジ内で飼育されたトモエガモ(Querguedula formosa)雌は昭和33年5月10日に斃死した。臨床的所見は特に見るべきものがなかった。
剖検所見
外景検査;栄養相不良、羽毛状態不良、天然孔に異状を認めない。
内景検営;気管;気管支内にはカタール性分泌物を認める。
肺臓:左右共に肺炎を呈し特に右葉は胸部気愛と癒着し化濃性症炎の病変を起し、拇指頭大に球状の隆起を形成している。この組織の割面は白色膿様性或は斃死様の物質で充満している。
心嚢;心震やや肥厚し心嚢液の増量を認め心筋の軽い変性を認める。膵、肝、腎臓:色調、硬度、割面に特に異状を認めない。
脾臓;軽度の腫脹及び割面はやや脆弱である。
気嚢;腹部気護は胸腔に見られたと同様な白色膿様物質の増生が一部に認められた。
胃腸;内容は殆んど認め難く少量になっており粘膜面及び漿液膜面共に殆んど変状を認めない。
組織学的所見:肺実質の肺胞部は充血著明で処々に出血が見られ、肺小葉の毛細気管支を中心に核が明るく核小体を有する上皮系細胞と思われる腫瘍組織の増生が見られ、小葉辺縁部には充出血が著しい。肺胞部より乳嘴状或は索状に増生した組織は腺腫様の構造を示めし、処々に癌蜂巣を形成す。腫瘍細胞の核は比較的大きくる明く核小体を明瞭に認める。原形質は円形成は紡錘形を呈し網状をなす。基質は余り増生が著しくなくス基質に近い細胞の核は小さく、ヘマトキシリンに濃染し原形質も小さく染色性が良くエオジンに好染する。比較的健康な部位も気管支上皮細胞が乳嘴状に増生し、細胞は加成り異型性が強く出血も認められる。
例3オシドリ
臨床所見:昭和34年2月3日不忍池にて飼育していたオシドリ(Ais galericulata)は腰部、背部に亘って膿瘍様のものを形成し同居の鶴の咬傷が更に化膿性炎症を起したものと考えらえれ入院した。局所の切開排膿を行なうと共にオキシドール、リバノール洗迷を行った。膿汁は黄白色選死性の変性物が皮肪、筋肉組織に浸潤しオキシドールの消毒にも泡沫は出ないので癌腫の疑があり、治療は一応外科的洗滌にのみ止めて中止したが翌朝には斃死した。
剖検所見
外景検査;栄養相中等度、腰部から乳白色のものが分泌されており腹部の腫大を認める。
内景検査;肺臓:軽度の水腫状を呈するも辺縁部は気腫を形成すると共に貧血の様相を呈する。
心臓;心筋の萎縮が著しく心房内に凝固血液の潴溜を見る。
肝臓:萎縮しやや硬変がみられる。
脾臓;萎縮するも割面はやや膨隆を認める。
腎臓:黄白色腫瘍組織内に埋没し割面の膨隆はないが、色調褐色を呈する。
胃腸;胃内容は殆んど認めないが腸内容は中等度なるも小腸漿液膜面に小豆大の組織の増生を認める。直腸部は腫瘍組織で圧迫され狭窄を起し、大腸内容は充満す。
腫瘍:腫瘍の大さは7.5×5.0×2.0cmのもので乳白色讓死性の塊をなし、腎臓付近では比較的硬いが背椎部から筋肉、皮月夫に浸潤し漸次軟組織となっている。
組織学的所見;腫瘍;上皮細胞系と思われるものよりなる腫瘍はPapillary-adeno-Carcinoma或はCyst-aden omaを形成し腫瘍細胞は核は明るく大きく核小体を認め、原形質は少なく細胞が多く何れも染色性に乏しい。
基質は乳嘴状或は索状に増生し塩基性色素に染む。
腎臓;包膜或いは上皮細胞よりPapillaryeadeno-CarciNoma或はCysteadeno-Carcinomaを形成している。腎臓の絲球体は変性がみられ、エオジンに一様に染む硝子化、或は空胞変性や滲出物等がみられる。細尿管内には充血が著しく管腔内にカタール性物質、硝子様物質の滲出を認める。間質には充血と腫瘍類似細胞及び円形細胞の浸潤を認める。髄質、腎蓋部には腺腫様の変化も認める。
肝臓:肝細胞の脂肪変性、空胞変性等がみられ、核の崩讓等の退行性変性がみられる。肝細胞索間は充血しグリソン氏鞘には円形細胞の浸潤を認める。
肺臓:充血著明で肺胞内には大単核細胞、紡錘形細胞の充血が著しい。毛細気管支上皮細胞の剥脱、軽度のカタール性変状をみる。血管内には細胞の遊走と■管性の細胞浸潤を認める。
腸;粘膜の剥脱著しく粘膜下織に円形細胞、多核白血球の浸潤が著しい。
心臓;心筋の間質には周管性の細胞浸潤を認め、又血管内にエオジンに染む栓塞を認める。
結論
1、コウライキジ雄とトモエガモ雄、オシドリ雄はPapillary-abeno-Carcinomaで繁れた。
2、オシドリとコウライキジには転移病巣が認められた。
3、臨床的所見は殆んど見るべきものはなかった。
終りに種々御指導、御鞭達をいただいた古賀園長、福田室長に深謝すると共に御鏡検して頂いた、東大教授、山本脩太郎博士、日本医大教授木村哲二博士に衷心より感謝します。
文献
1.W.A.D.Anderson:Pathology 1957
2.Smith & Jones:Veterinary Pathology 1957
写真
1、オシドリに発生した腺癌 腎附近の組織
2、オシドリ:腎及び腫瘍組織で境界は荒い結合織で分けられている。 ×150倍H&E
3、同上 ×150倍H&E
4、トモエガモ:腺癌 ×150倍H&E
5、トモエガモ:上別肺に転移 ×600倍H&E
6、コウライキジ:気嚢の腺癌 ×150倍H&E
猿の結核症診断法についての写真説明(7頁のつぶき)
第一図 保定具
第二図 M13DV写真
第三 M13 6cm断層写真
第四図GM 1DV真写