平成19年度繁殖表彰 −受賞動物の記録資料(1-16)−
発行年・号
2008-49-01
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
所 属
執筆者
ページ
21〜28
本 文
広島市安佐動平成19年度繁殖表彰 −受賞動物の記録資料(1-16)−
(39件中16件掲載)
趣旨:飼育下の野生動物の繁殖に成功し、それがその種におけるわが国最初の例であった場合に表彰し、希少野生動物の繁殖技術の向上に資することを目的として、昭和31年度から実施している。
(表)
1.ミナミコアリクイ Tamandua tetradactyla(自然)サンシャイン国際水族館
今回繁殖に成功したミナミコアリクイは、2004年1月29日に来館した個体である。来館当時の推定年齢は生後4ヶ月程度と思われた。どちらも幼獣で離乳していないような状態であり、餌付けに長い期間を要した。様々な種類の餌を与え、個体の反応が最もよいものをベースの餌とした。栄養面を考え、そこに粉末状にしたキャットフードやリーフイーター等を少しずつ混合していった。餌の好みに個体差がみられたため、母獣は子猫用粉ミルクがベースに、父獣はヨーグルトがベースになった。両頭共通して冷凍アリ、アボガドを与えていた通常本種は他個体との闘争が激しく同居飼育は困難とされるが、このペアは幼獣期から一緒に飼育をしていたためか闘争がなく、同居飼育が可能になったと考えられる。日中、展示する際には当館の展示施設にて度々2頭同時に放飼していた。初めて交尾が確認されたのが2005年5月17日で当時のペアの推定年齢は1年8ヶ月程度である。しばらくして母獣のプロポーションが変化してきたため、妊娠判定として血液検査を実施。プロジェステロン値などから妊娠の可能性が高いと判断し、出産間近には母獣をバックヤード内に設けてある繁殖用ケージに移動した。同年11月27日早朝に体重253gのオス1頭の出産を確認した。妊娠期間は最終交尾から計算して153日間であった。出生翌日には仔が母獣の背中によじ登る行動が確認された。生後60日頃から仔は母獣に与えていた果物や冷凍アリに興味を示し、少しずつ自力摂餌を始めた。この頃で体重は900gを超え順調に成長していた。餌付けを始めた結果、父獣と同じくヨーグルトがベースの餌となった。生後265日で体重2800gにまで成育、2007年1月17日現在、生後400日を過ぎ、体重は4900gにまで成育している繁殖の成功に至ったポイントとしては、親個体が大変人馴れしていたため周囲への警戒がなかったこと、困難であるとされる餌付けに成功したことなどが挙げられる。
2.ミナミバンドウイルカ Tursiops aduncus(自然)沖縄美ら海水族館
沖縄美ら海水族館では、1999年4月14日にミナミバンドウイルカ(Tursiops aduncus)の出産が認められた。2007年1月31日(生後7年9ヶ月)現在、体長285cm 体重152kg 摂取量9kg/日、現在の健康状態は良好である。
両親は、1974年6〜10月の間に奄美大島の大島海峡で捕獲された個体で、1975年5月1日にヘリコプターで空輸された。母親の出産時体長235cm、体重180kg、父親は体長234cm、体重189kg。飼育日数は共に11,050日である。飼育水槽は、ショー専用水槽で容積1,239㎥、長径25m、短径15m、水深4m、の楕円形で、出産に至るまでの年間気温(平均24.7°C,最高35°C,最低11.5°C)。水温(平均24.6°C,最高29.6°C,最低20.9°C)である。妊娠は1998年6月のプロゲステロン値の上昇と、9月の腹部超音波画像診断で確認した。1999年4月14日、食欲が不安定となったことで出産間近であると判断しショーを中止した。14:50生殖孔より出血を確認、15:10分娩を開始、15:49娩出した。出産から7時間36分後授乳が観察された。本個体は1993年、新生児の浮上呼吸を妨げ水槽底に押し付ける行動による繁殖失敗例があることから、係員の水槽への接近に当たっては最善の注意を払った。ショーは約1ヶ月間中止し、再開に当たっては、母子の動きに注意を払いショー種目を選択し行った。母親の妊娠前後の餌料はシシャモ、キュウリウオ、ムロアジを9kg/日、出産後はムロアジ、サバを13kg/日給餌した。出産後抗菌薬の予防投与を7日間行った。
仔イルカは30日齢からシシャモを咥える動作が見られ、90日齢から摂餌する様になった。100日齢から0.5〜1kg/日(シシャモ)の給餌を開始した。以後、摂餌状況を見極めながら給餌量を増加した。
3.バイカルアザラシ Phoca sibirica(人工)新潟市水族館マリンピア日本海
2006年4月18日にバイカルアザラシが飼育下繁殖し、人工哺育を行った。
母獣は1990年7月2日に推定年齢0歳で搬入された雄1頭と雌2頭の内の1頭で、搬入当時より同居飼育を行っている。2001年より交尾行動が観察され、2004年に死産の経験がある。出産時16歳で、11月頃より体重増加が見られ、経過を観察した。
飼育環境は、総面積44㎡、水量50㎥、水深1.5mの水槽に14㎡の陸地が付属した屋内施設で、天窓により採光し、冷却機を用いて室温・水温を調整している。飼育水は水道水を原水とした淡水で、開放重力式濾過槽による循環を行っている水温は9-18°C、室温は8-19°Cで変化した。
仔獣は2006年4月18日朝に展示室の陸場で発見された。胎盤は陸場に排出されており、490gだった。育仔行動がみられなかったため隔離し、人工哺育を開始した。授乳はビニールホース(内径5mm,外径7mm)を使用してミルクを胃内に流し込む方法をとった。母獣より採取した乳汁2㎖を初回に与えた。ミルクは4-6回/日、340-1080㎖/日、526-3007kcal/日(0-36日齢)を与えた。市販の子犬用ミルクと水生哺乳動物用粉ミルクを用い、段階に応じてマグロ肉、マアジ肉を混合し、その後はマアジを与えた。仔獣飼育室の温度は15-21°C、水温は14-19°Cの範囲にあった。出生時の仔獣の体長は約63cm、体重は3.86kgであったが、15日齢で7.88kg、36日齢(断乳時)には11.9kgに達した、新生仔毛の換毛は10日齢頃から始まり、25日齢頃に終了した。39日齢より自力摂餌が可能となり、52日齢より展示室へ移動し同居飼育を開始した。
4.アカカワイノシシ Potamochoerus porcus(自然)横浜市立よこはま動物園
横浜市立よこはま動物園では、2004年12月にアカカワイノシシ(Potamochoerus porcus)1ペア(雌雄とも2002年生まれ)を、米サンディエゴ動物園より国内で初めて導入した。
飼育は、モウコノロバ舎内の2つの寝室(4.2×3.2m)と小展示場を利用し行った。日中は2頭を展示場で同居させ、夜間および繁殖後は個別の寝室に隔離した。飼料は1頭あたり、野菜と果物(リンゴ、ニンジン、サツマイモ、ハクサイ、コマツナ、ゴボウ)1.75kg、マズリーADF16ペレット1kg、フスマ0.08kg、スーダン乾草1kgを1日2回に分けて給餌した。
最初の交尾は入園後まもなく確認され、2005年5月に雌1頭を出産したが、子は翌朝に死亡した。2005年12月には再び交尾が確認され、2006年4月18日に雄3頭、雌1頭の子が誕生した。雄1頭は生後4日で死亡し、雌1頭は4週齢で人工哺育に切り替えたが、残りの雄2頭は自然哺育を続けた。妊娠期間は1回目が137日、2回目が117日だった。3頭の子の体重は、誕生時は約800g、4週齢で1.9〜3.3kg、8週齢で5.0〜6.7kg、12週齢で8.8〜10.5kgと、個体によってばらつきが大きかった。
自然哺育では授乳が1〜2時間おきに見られ、1回2〜3分程度だった。子は母親が横取した後、乳首の周りを鼻で押してから乳首に吸い付いていた。子によって吸い付く乳首が決まっており、異なる乳首に吸い付くことは少なかった。
誕生時の子の体色は濃茶にクリーム色の縞模様で、これは体重が6kgを超えると薄くなり始め、10kgになった頃に消失し褐色味の強い体色へと変化した。
寝室には、子が親から離れて休息や採餌をするための箱(クリープ)を設置した。しかし子の使用頻度が低く、母親に鼻で突き飛ばされることが時々見られた。次回の繁殖に向けて、子が使用しやすい設置場所や形状に見直していきたい。
5.インドオオアレチネズミ Tatera indica(自然)埼玉県こども動物自然公園管理事務所
繁殖ペアは、2006年3月7日に東京農業大学、野生動物学研究室より受贈した。
飼育ケージは、受贈時の実験動物用の飼育ケージ(45×26.5×15.5cm)をそのまま使用した。ケージ内には床材として、滅菌したチップを敷いた。シェルターなどの隠れ家は、特に設けなかった。飼料は実験動物用マウスペレット(日本クレアCE-2)のみを不断給餌した。飲水ボトルも使用した。
ペアは寝る時など一緒にいることが多かったが、2006年6月27日の出産当日はオスメスが離れていたため、メスの腹部の下を探ったところ4頭(オス2,メス2)の繁殖を確認した。それ以前に交尾等の繁殖行動は特に確認できなかった。出産後、メスがオスに対して激しく威嚇を行なっていたのが観察されたが、仔に対しての干渉等は確認できなかったため、同居のままにした。
巣材は特に必要としなかったが、メスが仔から離れる際に床材のチップを仔の上に覆い隠すため、乾草を足した。
育児中の飼料としてドッグフード(日記ビタワン)を少量加えた。
6.クロツラヘラサギ Platalea minor(人工)東京都多摩動物公園
今回、繁殖に成功した親は雄雌共に1991年7月朝鮮民主主義人民共和国の平安北道にて雛の状態で野生の巣より捕獲された個体で、1991年10月に朝鮮大学校から譲り受けた。1996年に他ペアが自然繁殖したが、翌年から雛の衰弱死が続いた。両親による給餌行動は見られたが、雛は餌を受け取っていなかった。このため2000年より自然・人工を並列して行った。
2000年の繁殖は3月に入り1ペアが形成され、3月下旬より営業行動が見られた。4月中旬に産卵が見られ5月上旬に孵化したが、雛は1週間で衰弱死した。その後すぐに産卵が見られ再び孵化したが、その雛についても衰弱が見られたので、5日令で取り上げて人工育雛とした餌は、煮ドジョウをミキサーにかけて液状にしたものを使用したが、便秘になり腸重積で死亡した。
5月中旬に更に2ペアが形成され、6月中旬から下旬にかけて、合わせて3ペアが産卵した。雛の衰弱死が続いていたため、産卵後各ペアに1卵を残して合計4卵を採卵し孵卵器へ入卵した。孵卵条件は、温度37.2度、1日2回放冷し、湿度を調整するため放冷後に霧吹きをした。7月に入り全ての卵が孵化した。孵化翌日、雛が餌の要求をはじめたのを確認して給餌を開始した。初期飼料は煮ドジョウに消化を助けるための消化酵素(パンクレアチン)と生理食塩水を添加して孵卵器内で加温したものを給餌した。ある程度成長しドジョウ・ワカサギ・アジが飲み込めるようになれば、消化酵素を添加しそのまま給餌した。30日令前後で自力採食した、育成に成功した2羽のみで3ヶ月間飼育し、その後他個体と同居した
人工育雛は、2000年2羽、2001年1羽、2002年2羽、2003年2羽、2004年1羽、2005年8羽、2006年4羽成功している。並行して、3〜10日間人工育雛を行った後に雛を親へ返す方法を2001年よりとり、この方法でも生育に成功している。
7.マガン Anser albifrons(自然)浜松市動物園
今回、繁殖に成功した個体は1999年3月24日に動物業者より搬入した4羽(♂2羽♀2羽)の中のペアである。当園の「水禽舎」においてアカリュウキュウガモ2羽、アメリカオシ3羽、コガモ2羽、トモエガモ2羽、ヒドリガモ1羽、ホオジロオナガガモ2羽、モモイロペリカン2羽と混合飼育している飼育舎は直径7m、高さ6mの八角形で全面金網張り、床はコンクリート(一部土)、水深10cm〜50cmの池がある。
2001年より産卵が始まり2003年にも産卵はあったが抱卵しなかったので人工孵化にした。2005年は抱卵し2羽が自然孵化したが、当日1羽死亡、もう1羽も衰弱していたので人工育雛にした。
2006年は草を植えたり木製の棚でシェルターを作り、4月下旬より適当にワラを置いておいたところ集める仕草がみられた。5月16日に第1卵があり18日、20日に第2卵、第3卵を確認し24日には第4、5卵を、更に25日には第6卵を確認した。26日まで雄雌ともに巣の近くに居て他の鳥に対して威嚇行動をしていたが抱卵の気配は見られなかった。しかし、26日になると雌が抱卵を始めた。抱卵中、雄はより攻撃的になりモモイロペリカンや飼育者に対しても攻撃することがあった。6月21日朝、両親が1羽の雛と巣の外に居るのを確認した残された卵の内3個は無精で2個は初期中止であった。孵化後、両親はより一層攻撃的になった。飼料は日常のエサ(フラメンフード,鶏用配合飼料,パン,菜類(白菜,キャベツ,体菜))に鶏用育雛飼料を混合し1ヶ月間給与し2ヶ月目からは日常のエサのみを給与した。
今回、他の鳥との混合飼育という環境の中で営巣場所を外部から見えにくくしたことと、前年に比較し親鳥が抱卵・育雛に対し、より積極的であったことが成功の要因と考えられる。
8.アカハシオナガガモ Anas erythrorhyncha(自然)東京都多摩動物公園
2000年2月21日にオランダより6羽のアカハシオナガガモが来園した。来園時の年齢は不明である。同日に来園したアカハシコガモとともに動物病院で約40日間の検疫を経た後、フラミンゴ舎での飼育を開始した。
翌年の2001年の繁殖期には、この6羽のうちの2羽がペアとなり産卵し、これについては人工孵化・育雛により繁殖に成功した。
2002年以降、同居していたアカハシコガモに営巣場所を奪われ、卵を産み捨てる個体が出始めた。このため、2003年に飼育場所であるフラミンゴ舎内の植栽(キショウブ等)を刈り取り壁際に積んでおいたところ、L0-513(オス親)とL-0514(メス親)がペアとなってこの場所を営巣場所として利用し、2月中旬より産卵を開始した。この巣より3月20日に4羽、翌21日に4羽が孵化した。
雛用の飼料は船橋農場のカモ用ペレット、オリエンタルの新世界ザル用ペレット、オリエンタルのトキ用ペレットを粉末にしたものを1:1:1の割合で混ぜ、これと日本配合飼料の幼雛飼料を1:1にし、細かくしたオキアミとともに水で溶き、浅いバットに入れ与えた。45日齢以降は親と同じ飼料とした。3月20日に孵化した個体が20日、22日、24日にそれぞれ1羽ずつ肺炎で死亡したが、5羽が生育した。
9.カワアイサ Mergus merganser(人工)富山市ファミリーパーク
親鳥2羽はバードハウス・メインゲージ水鳥ゾーン(465.50㎡)内で他のカモ・サギ類13種29羽と同居飼育を続けた。雌は1995年より同所で飼育し2度の自然繁殖を経験しており、雄は2005年7月に井の頭自然文化園より同所へ搬入した個体である。他にカワアイサは雌1羽が同所にいたが今回の繁殖には関わらなかった。2006年4月までにつがい形成が完了しているのを確認したため、木製巣箱を地上に3基設置した。そのうちの1つに6卵を産卵し5月6日に抱卵を開始した。5月22日に抱卵放棄したため6卵全てふ卵機に移した、6月11日と13日にそれぞれ1卵ずつ孵化、体重はそれぞれ49g、46g、残りは中止卵であった。ヒナ2羽は木製の育雛箱(横90cm×奥行50cm,高さ50cm,床面人工芝敷き)に保温電球・パネルヒーターを設置し、保温しつつ飼育した。保温と餌付け、鳴き続けることによる衰弱防止のため当初からヒヨコ2羽を同居させた。1日3〜4回、捕定した状態でドジョウ活魚・メダカ活魚をピンセットを用いて強制給餌した。6月14日には育雛箱内のバットからドジョウ活魚を自力採食するのを確認した、6月15日にヒヨコとの同居を終了した。6月20日に遅生まれのヒナが死亡した。残りの1羽は自力採食が安定したため、6月22日に強制給餌を終了した。7月9日より換羽が始まった。同日の体重は285gであった。7月31日繁殖棟の個室に移した。この際、保温用にパネルヒーターの床を一部に設置したが、全く利用しなかった。同日の体重は391gであった。8月23日には585gとなり、9月14日に換羽が終了した。9月26日には初飛行が確認された。以降も体重は増加を続け、10月15日には845g、12月8日には1,048gを記録した。12月11日に生後6ヶ月齢となった後、12月16日に肺炎で死亡した。
10.ミミキジ Crossoptilon mantchuricum(人工授精)姬路市立動物園
メスは2005年3月に国外より導入し、オスは2005年7月に両脚の全趾が重度に曲がり交尾が不能な個体であるが、人工受精による繁殖を目的に国内より導入した育舎は横1.8m、奥行き3.8m、高さ2.5m、床は真砂土を敷いた。餌は、キジ用ペレットZPC、養鶏用カキガラ飼料、白菜、小松菜、リンゴ、ミルワームを給餌した。
2006年4月21日初産卵の確認にあわせて、オスより腹部マッサージ法で採精を行い、良好な精液を得ることが出来た。採精した精液は生理食塩液、レーク液及びBLT液で希釈し、精子運動の検査を行った。その結果生理食塩液が最良であり、希釈液には生理食塩液を用いた。産卵確認の当日又は翌日に、メスの総排泄腔を反転、露出させた卵管開口部に、2〜4倍に希釈した新鮮精液を吸引したシリンジを挿入し、反転を戻すのと同時に注入した人工授精は採精後15分以内に終了する様にした。この方法で、良好な精液が採取できた4月26日から5月29日の期間に10回の人工授精を行った。人工受精に用いた精子性状の検査は注入後行い、1回の採精量は0.01㎖〜0.02㎖、精子生存率は70.7%〜85.5%、精子運動指数は26.25〜61.25、形態正常精子率は67.9%〜78.5%であった。
人工授精後33個の産卵があり、温度37.5°C、湿度55%〜60%の孵卵機へ入卵、一部はウコッケイの仮母へ抱卵させた。8個の有精卵が得られ28日の孵化日数でうち6羽が孵化した。育雛は、温度約35°C〜37°Cの横61cm、奥行き90cm、高さ36cmの育雛箱で行い、初期の餌は幼雛用SXにゆで卵の黄身と小松菜などを、細かく切り、混ぜ合わせた物を与えた。以後は、徐々に親鳥と同様の飼料に切り替えていき、4羽が生育した。
自然繁殖が困難な個体の遺伝子の保全に、人工授精は動物園で有効であることが示唆された。
11.ヤンバルクイナ Gallirallus okinawae(自然)ネオパークオキナワ
オスは1995年6月24日、メスは1999年7月3日にそれぞれ国頭村楚洲ならびに奥で事故に遭い、自然への復帰ができず当園に保護されていた個体である。
2005年5月30日から国際種保存研究センター施設内の隣接する禽舎(3m×3m×3m)に別施設で飼育していた雌雄を移動し、見合い期間を設け、2006年3月21日からペア飼育とした。この際、2禽舎の間仕切りの金網部分の一部を撤去、禽舎内空間を広くし(3m×6m×3m)、コンクリート床に砂と大量の落ち葉を敷き詰めるとともに、止まり木と鉢植え樹木やシダ類を植栽し、水場も設けた。また、この繁殖舎と隣接する両側面金網部分に遮光ネットを張り、両隣の他種からの干渉を緩和した。
3月30日から4月3日にかけて最初の4卵を産卵したが、産卵場所が開放的な空間だったため、食卵を懼れ、この4卵については採卵し二回に分けて人工孵化を試みたが、1羽孵化したものの3日後に死亡してしまった。(孵化所要日数:21日4時間25分)
本施設は、通常は一般公開されているが、4月15日から入館を閉鎖し、クイナがより落ち着ける状況とした。この頃から間仕切りコンクリート土台(高さ30cm)と樹木やシダ類の植え込みの狭い空間に、雌雄で巣材を運び込む行動が頻繁となり、4月29日から5月2日にかけて3卵産卵し、5月3日から抱卵に入った、抱卵は雌雄交互に行われ、5月24日、2羽が孵化(孵化所要日数:20日18時間30分,20日20時間50分)し、1卵は死ごもり卵であた。
雛への給餌は両親のいずれかが行い、雛が直接採餌するようになったのは6日後からであった。育雛中は通常与えている飼料を全体に増やすとともに、特にミミズ・バッタ・カタツムリ・ミルワームなど生餌を多く給与した。
孵化した2羽のうち1羽は6月3日に事故で死亡したが、残り1羽は順調に生育中で、2007年1月29日(250日齢)現在516gと両親とほぼ同様の体重にまで成長している。
12.クイナ Rallus aquaticus(自然)東京都多摩動物公園
今回繁殖に成功した親は、雄雌共に2004年オランダのブリーダーにて繁殖した個体で、2004年12月4日に8羽を導入した内の2羽である。1.8x4.5×2.4mのケージ内にて飼育したが、個体群が非常に落ち着かず、人影を見ただけで暴れるため、ケージ内に隠れ場所兼巣箱として40×50×20cmの箱を2個設置した、餌は、ワカサギ、オキアミ、トキ用ペレットを与えた。
2005年5月交尾、営巣行動が見られたが産卵はなく、すぐに繁殖行動はなくなった。2006年1月よく鳴くようになり、1月下旬から追尾・威嚇・攻撃が見られ、2月上旬にはペアが形成されたようである。ペアとなった雌雄が他個体を激しく攻撃したため、ペアのみの飼育とした、3月上旬に追尾・交尾を確認したが、突然繁殖行動が見られなくなった。3月23日に新たに雌1羽をペアと同居したところ、4月3日にペアと思われていた雌が攻撃された。攻撃された雌を分け、新しいペアにて飼育したところ、追尾・交尾・営巣行動が続いた。
4月26日に巣外に食卵された卵を発見、この後食卵が続いた。食卵の原因がストレスと栄養不足であると考え、ケージ内への立ち入りを控え、餌にゆで卵を加えた。
6月に入りケージ内に草が生えると、巣箱内の巣を放棄して、草の中で新たに営巣を始めた。6月16日に巣内に1卵を発見した。食卵される様子がないのでそのままにすると、翌日より雌が抱卵姿勢をとり計4卵を産卵した。主に雌が抱卵したが、7月14日に放棄され全ての卵が食卵された。7月24日から再び産卵が始まった。1日おきに産卵し計5卵を抱卵した。8月18日に1羽の雛を確認した。孵化しなかった4卵は食卵されていた。育雛は雌雄で行い、孵化後1週間程度、日中は親子とも巣を離れるが、夜間は雌親と雛が巣に戻り雌親が抱雛した。雛は10日令で自力採食・水浴びを確認した。10月21日に突然雌親が子を攻撃したため、親子を分離した。
13.オオミカドパト Ducula goliath(自然)横浜市立よこはま動物園
親鳥は、雌雄いずれも2001年にニューカレドニアで捕獲された野生由来の個体で、ニューカレドニアでは別々のケージで飼育されていた。2001年12月4日にニューカレドニアから横浜市立よこはま動物園・繁殖センターへ来園し12月21日に初めて同居させた。
このペアを飼育した鳥舎の大きさは、屋外が幅4m、奥行き6m、高さ5m、屋内が幅4m、奥行き6m、高さ3.1mであった。屋内と屋外の間仕切りは終日開放とし、屋内には冬期間暖房を入れて8°C以上に保った。餌は、細かく刻んだ果物類とミルクに浸したパンで、2005年2月からはこれらに脱脂大豆の粉末とマイナーフード、ハト餌を加えた。
このペアに、2005年4月8日、初めての産卵が見られた。産卵したのは巣台として設置した木製の台の上で、堅い板の上に直接産卵したために卵に細かいヒビが入ってしまい、発生が中止した。5月10日、餌を置いている台の上に2クラッチ目の産卵が見られたが、この卵に同様にヒビが入り、発生が中止した。この餌台の位置が産卵場所として大変気に入っているようだったため、この位置に巣台としてプラスチック製の箱(40×50×高さ10cm)を設置したところ、6月11日に、この箱内に3クラッチ目の産卵が見られた。産卵からすぐに抱卵を開始し、30日後に雛が孵化した雛は孵化から28日目の8月8日に巣立ったが、9月中旬頃になると親鳥から追いかけ回されるようになったため、孵化後70日目の9月19日に親鳥と離して別飼いとしてた。
なお、抱卵開始から巣立ちまでをビデオカメラを用いて観察した結果、昼間は雌雄が交代で抱卵を行い、夜間は雌のみが抱卵していることが分かった。孵化した雛を抱くのも夜間は雌で、昼間は雌雄が交代で行っていた。雛への給餌も雌雄が共同で行っていた。
14.カンムリエボシドリCorythaeola-cristata(自然)井の頭自然文化園
井の頭自然文化園では、カンムリエボシドリを2000年から飼育し、2006年自然繁殖に成功した。
飼育場所は、床面積1576㎡、高さ約15mのガラス張りの温室で、冬期でも15°C前後を保てるような加温設備がある、熱帯鳥温室として本種のほかパラワンコクジャク等、18種の鳥を混合飼育し、また、植物は、樹高約15mのビロウ等が生い茂り、種ごとに好みの環境を選んで生活している。本種は樹冠部分を好み、地上から10mほどのブーゲンビリアの茂みの中に設置したザル(直径50cm,深さ18cm)に営巣した。
混合飼育のため採食量は特定できないが、リンゴ等果物類、煮甘藷、ゆで卵、小松菜、食パン、ドッグフード、マイナーフード、トキ用ペレット等を与えている。本種はブドウ、バナナを特に好み、植栽のガジュマルやゴムの若葉、ビロウやパパイヤの実なども好んで採食する。
当該ペアは、共に2001年に成鳥でギニアより野生由来として来園した2006年2月、雄から雌へのプレゼンティング行動が観察された。4月に交尾、就巣を確認したが、この時は3日間で巣を離れ、産卵の有無は不明であった。5月13日に改めて巣に座り始めたため、以降は親鳥への刺激を避けるため、ビデオカメラによる観察とした。また、卵やヒナへの食害を防ぐため、カンムリコサイチョウのペアを別室へ隔離した。抱卵中は朝と夕に雌雄が交代していた。抱卵開始から30日後の6月12日、親鳥の巣への出入りが頻繁になり孵化したものと推定した。7月9日には巣の近くでヒナを確認した、ヒナは1羽で、その後のDNA鑑定で雄と判明した。翌10日には親鳥と共に樹上へ移った。2007年1月現在、嘴に少し黒い所がある以外はほぼ親鳥と同じ大きさに生育した。
今回の繁殖成功の要因としては、巣の周囲の環境を整え、親鳥への刺激を少なくし、また競合する他種の分離が上手くいったことが挙げられる。
15.イソヒヨドリ Monticola solitarius(自然)豊橋綜合動植物公園
イソヒヨドリは、スズメ目ツグミ科に属し、留鳥として日本全国に分布している。当園では、2004年より現在のペアにて繁殖に取り組み2006年、3羽の繁殖に成功し
2002年に捕獲したオスと2004年に捕獲したメスの個体を2006年4月下旬にペアリングを行った。尚、捕獲に際し、環境省の許可を得て捕獲した。ここでは、ヒバリ、カシラダカの各1ペアの混合飼育とした。餌は、4月から6分の摺餌を使用し、ミルワームも約30匹与えた。また、コオロギも与えタンパク質の強化を図った。孵化後は、ミルワーム約100匹、コオロギ50匹与えた。ペアリング時、以前に見られたメスがオスを追い回す行動は見られなかった。28日、メスが営巣を開始し、5月7日から産卵、12日には抱卵に入ったと推測した。25日、雌雄でコオロギを運ぶ姿を確認したことから孵化と判断した。8日齢時、巣内に4羽の雛を確認した。16日齢時、4羽の雛が巣立ちしたが、そのうちの1羽が池で死亡していた。体長135mm、体重60.2gであった。24日齢時、コオロギの自力採食を確認した。40日齢時、摺餌の自力採食となった。90日齢時、下胸の一部に栗色が認められた。これにより、オス2羽、メス1羽と判明した。102日齢時、親鳥のオスが雛を追い始めたため、別の部屋へ1羽ずつ移動した。現在も順調に生育している。
今回、繁殖に成功した要因として、ペアリングの際オスの高音のさえずりに対して、メスがそれに応対するようになったことを確認してから行ったこと、オスのいる部屋にメスを移動したことが考えられる。
6分餌とは、きな粉1.5(9.3%)、米粉2.5(15.6%)、米ぬか6(37.5%)、魚粉6(37.5%)の割合で配合した摺餌に、リンゴ、山東菜、ニンジン、トマトをジューサーで攪拌したものを混ぜた。
16.クロジ Emberiza variabilia(自然)豊橋総合動植物公園
当園ではクロジの繁殖を15年ほど前から試みているが、産卵・抱卵まで行ったが成功には至らなかった。2005年に現在のペアにて繁殖に取り組み、2006年1羽の繁殖に成功した。
床面積約44㎡の展示室にクロジを含め全11種、25羽の混合飼育をしている。エサは小鳥用飼料(アワ,ヒエ,キビ,シード)の他、麻の実、ヒマワリ、すり餌(6分餌)、ミルワームを使用しているが、5月から約1ヶ月間卵黄、ミルワームでタンパク質を強化した、他の同居する冬鳥の繁殖地も考慮して、北緯60度の日照時間になるように60wの電球4灯を設置。
6月2日に地上60cmに設置した皿巣に営巣を確認。5日にはほぼ完成したようで、この頃から交尾もよく見られるようになる。20日抱卵開始、25日には雛用の餌として体長1cmのコオロギと、脱皮ミルワームの入った餌入れを3カ所に設置。7月1日孵化。2時間おきにコオロギと、脱皮ミルワームを雛に運ぶ事が確認出来た。雛は3羽確認できたが、7月4日、5日と1羽ずつの雛の死体を親が運び出すところを確認、同居の鳥が多く、ヒナ用のコオロギ、ミルワームを不断給餌する事が大変になったためと、巣立ちしてもオシドリに捕食される危険があったため、7月8日(孵化8日目)残りの雛1羽を取り上げた。
雛は弱っていて動きも悪く、糞も軟便で量も少なかった。雛を内巣ごと春に入れ、保温用電球で31°C程に保温した。7時から18時まで1時間毎にコオロギ、クモを給餌した。7月10日(10日齢)には糞の状態も良くなり、すり餌も与え始める。また巣立ちをしたため竹かごに移す。徐々にクモ、コオロギを減らし、28日(28日齢)にはすり餌のみとなり自力採食になる。10月1日からは小鳥飼料を併用し、12月20日現在では小鳥飼料が主で、すり餌は殆ど食べなくなった。
成功の要因として卵黄、ミルワームによるタンパク質の強化、照明による発情効果が考えられる。
またペアは追い回すこともないので、昨年のペアリングから同居している。