動物園水族館雑誌文献

マンボウ類の飼育に関する調査

発行年・号 2010-51-03-04
文献名 マンボウ類の飼育に関する調査 (A Survey of Keeping Molas in Japan)
所属 鴨川シーワールド
執筆者
ページ 62〜73
本文 マンボウ類の飼育に関する調査

鴨川シーワールド

A Survey of Keeping Molas in Japan

Kamogawa Sea World

調查目的
マンボウMola molaは、特異な体形や行動から水族館では来館者の関心が高い魚類の一種である。国内におけるマンボウの飼育は1950年代から始まり(荒賀ほか、1973)、その後、飼育技術の向上や飼育設備の改良にともない、長期飼育が可能となってきた。さらに、近年には大型のマンボウ専用展示水槽を備える水族館も見られるようになってきた。そこで、マンボウの飼育展示の現状と採集や移動などを含む収集状況を把握することを目的として本アンケート調査を実施した。また、日本近海で見られるマンボウ科のヤリマンボウMasturus lanceolatus、クサビフグRanzania leavisの飼育状況についてもあわせて調査した。なお、本調査は第52回水族館技術者研究会で発表され、中坪俊之が取りまとめを担当した。

調査方法
対象動物はマンボウ科魚類で、対象園館は、社団法人日本動物園水族館協会加盟の水族館68園館である。調査はアンケート式とし、その内容は、マンボウ科魚類(マンボウ、ヤリマンボウ、クサビフグ)の飼育歴および現状、マンボウの飼育状況(飼育環境、餌料および給餌、飼育の工夫)、出現状況および収集状況である。

図1 マンボウの月別採集数(2004〜2006年)
図2 マンボウの都道府県別採集数(2004〜2006年)
表1 アンケート回答園館とマンボウ科魚類の飼育歴

調査結果
調査票回収状況
社団法人日本動物園水族館協会加盟の水族館68園館に調査票を送付し、61園館より回答を得た。回収率は89.7%であった。

採集状況
2004年1月1日〜2006年12月31日(3年間)に採集されたマンボウは2004年:88尾、2005年:94尾、2006年:152尾と増加傾向を示し、採集数は11〜3月が多い傾向を示した(図1)。採集方法は定置網が最も多く採集数の95%以上を占めた。
海域別の採集数は、三重県沿岸が最も多く(58尾)、高知県(49尾)、千葉県(34尾)、ほか14海域で1〜28尾が採集されていた(図2)。

マンボウ科魚類の飼育歴および現状
1977年1月1日〜2006年12月31日(30年間)にマンボウ科魚類を飼育したことのある水族館は42園館で、これは回答を得た園館の68.8%に相当する(表1)。

表2 マンボウの長期飼育記録(飼育1年以上、1977〜2006年)
全長は、70個体について記録があり、70〜79cmのものが最も多かった(図3)。
各園館で1日以上飼育された個体のうち最小個体は全長22.1cm(飼育開始時;表3)、最大個体は全長193.5cm(飼育終了時:表4)であった。
ヤリマンボウは43尾(12園館)が飼育されていた。このうちの36個体は飼育日数が1週間未満、1週間〜1ヶ月が5個体、1ヶ月以上が2個体で、最長飼育日数は43日であった(表5)。最小飼育個体は全長20.1cm、最大飼育個体は全長200cmであった(表5)。
クサビフグは1尾が飼育され、飼育日数は1日であった(表6)。
最新情報として2006年1月1日〜12月31日(1年間)の動向を調べた結果、飼育されたマンボウ科魚類はマンボウとヤリマンボウの2種類で、クサビフグは飼育されていなかった。このうちマンボウを飼育した水族館は23園館で、2005年12月31日現在の飼育数は36尾(11園館)、採集、移動による年間増加数は125尾(21園館)、死亡、放流、移動による年間減少数は137尾(22園館)、2006年12月31日現在の飼育数は24尾(9園館)であった(表7)。
ヤリマンボウを飼育した園館は2園館で、2005年12月31日現在の飼育数は3尾(1園館)採集による年間増加数が3尾(1園館)、死亡による減少数が6尾(2園館)2006年12月31日現在の飼育数は0尾であった(表8)。
表3 各園館におけるマンボウの最小飼育個体の記録(全長40cm以下、1977〜2006年)

表4 各園館におけるマンボウの最大飼育個体の記録(全長130cm以上、1977〜2006年)

図3 マンボウの飼育開始時の全長組成(飼育1年以上で記録のある70個体、1977〜2006年)

表5 ヤリマンボウの飼育記録(1977〜2006年)

表6 クサビフグの飼育記録(1977〜2006年)
表7 マンボウの飼育状況(2006年)
表8 ヤリマンボウの飼育状況(2006年)
表9 マンボウの飼育水槽(飼育1年以上)
表10 各園館におけるマンボウの飼育期間の最長個体の飼育水温(飼育1年以上)

マンボウの飼育状況
マンボウを1年以上飼育した経験がある14園館の情報についてまとめた。
飼育環境各園館における飼育期間の最長個体の飼育環境を調べた結果、水槽形状は方形が主体で、その水量は27〜274㎥であった(表9)。飼育水温の最低は15.0°C、最高は24.8°C、平均は17.0〜21.4°Cであった(表10)各水槽とも濾過槽を備え、水温調節がされていた。
マンボウのみの単一種飼育は9園館、エイ類、アジ類、カサゴ類など他種との混養飼育は5園館であった(表11)。
餌料および給餌餌料はエビ類が最も多く13園館、次いでイカ類、貝類、魚類がそれぞれ6園館、キャベツが2園館、オキアミが1園館で使用され、混合餌料を使用する園館が多かった(図4)。調餌方法はペースト状またはミンチ状が最も多く12園館、ゼリー状が1園館、切り身が1園館であった。
1日あたりの給餌回数は、2回が最も多く10園館であった。また、個体ごとに給餌量を決めて与えている園館が多く、給餌率は体重比0.3〜3.0%、給餌量は200〜800gであった(表12)。
飼育の工夫衝突の防止(フェンス設置)に関する記述が最も多く(11園館)、次いで安定遊泳の確保(障害物の除去、8園館)、溶存酸素の安定供給(散気など、4園館)、外的刺激の緩和(照明など、3園館)に関するものが多かった(図5)その他、水流の抑制(循環突出口の分散など)、飼育水の殺菌(殺菌灯設置)、水温の安定化(逆洗後の濾過槽水温の安定化)、遊泳不良個体の補助(ウキ・オモリの取り付け)などが各1園館あった。

マンボウの出現状況および採捕記録
出現状況北海道から沖縄まで、広い範囲で確認されており、出現時期は、太平洋沿岸では、北海道(内浦湾):6〜8月、東北〜北関東:5〜11月、南関東:11〜8月、紀伊半島:8〜6月、四国:12〜5月、鹿児島:1〜4月であった。瀬戸内海沿岸では東部:4〜7月、西部:11〜5月、日本海沿岸では東北:7〜12月北陸・近畿:5〜3月、山陰:10〜6月であった(図6)。
採捕記録全長2m以上のマンボウの採捕記録は87件であった。そのうち、水族館職員により計測されたものは19件で、最大全長は325cm、最大体重は2,300kgであった(表13)。
最小個体の採捕記録は17件がよせられ、このうち全長40cm以下は10件、最小全長は22.1cm、最小体重は0.63kgであった(表14)。

表11 各園館におけるマンボウの飼育期間の最長個体との混養生物(飼育1年以上)

図4 マンボウの餌料
図5 マンボウ飼育の工夫
表12 マンボウの餌料と調餌方法
図6 マンボウの出現状況
表13 全長2m以上のマンボウの採捕記録(水族館職員計測分、1977〜2006年)

表14 全長40cm以下のマンボウの採捕記録(1977〜2006年)

まとめ
1. 1977年1月1日〜2006年12月31日(30年間)にマンボウ科魚類を飼育した水族館は42園館で、マンボウ(飼育1年以上)は116尾(14園館、最長2、993日)、ヤリマンボウは43尾(12園館、最長43日)、クサビフグは1尾(1園館、最長1日)であった。
2. 2004年1月1日〜2006年12月31日(3年間)のマンボウの採集数は334尾で、採集方法は定置網が主で、11〜3月に多く採集されていた。
3. 2006年1月1日〜12月31日(1年間)に飼育されたマンボウ科魚類はマンボウとヤリマンボウの2種類で、2006年12月31日現在の飼育数はマンボウのみ24尾(9園館)であった。
4. マンボウの飼育水槽は方形が主で、水量27〜274㎥平均飼育水温17.0〜21.4°C、単一種飼育が多かった。
5. マンボウの餌料はエビ類、イカ類、貝類、魚類が主で、複数種混合して食べやすい状態(ペバースト状など)に調餌したものが与えられていた。個体ごとに給餌率(体重比0.3〜3.0%)が定められていた。
6. マンボウの飼育の工夫は衝突の防止(フェンス設置)に関するものが主であった。
7. マンボウは、北海道から沖縄まで広い範囲に出現しており、地域により出現時期が異なっていた。

謝辞
本調査にご協力いただいた各園館の皆様に深謝いたします。

引用文献
荒賀忠一、田名瀬英朋、森山惣一、太田 満、樫山嘉郎(1973):マンボウの飼育例とその生態の考察、動物園水族館雑誌、15(2):27-31。
(2009年5月28日受付、2009年12月28日受理)

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