Psittacideaの腫瘍に就いて
発行年・号
1959-01-02
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
(On the Tumours of Psittacidea.)
所 属
名古屋東山動物園,名古屋大学環境医学研究所
執筆者
佐藤晴久,浅井 健,千葉胤孝
ページ
36〜38
本 文
広島市安佐動Psittacideaの腫瘍に就いて
名古屋東山動物園 佐藤晴久・浅井 健
名古屋大学環境医学研究所 千葉胤孝
On the Tumours of Psittacidea.
Haruhisa Sato,Takeshi Asai(Nagoya Higashivama Zoo)
Tanetaka Chiba(Research Institute of Environmental Medicine,Nagoya University)
緒言
オオム目は他の種属の野鳥と比較して、腫瘍が多く発生することはFox1)に記載から明瞭である。私達は最近、タイハクオオムの腺癌と、セキセイインコの腎臓の腺腫を経験したから、その所見に就いて記述する。
症例
タイハクオオムKatakoe alba Muller
長期間飼育された例である。
昭和34年9月25日剖検。急激に下痢を起し、水様便を排す。羽は逆立し、痩削が目立つ。
外部所見。胸腔。体格は尋常で、筋肉は赤味を帯びていて、萎縮乾燥し、皮膚はうすい。
内部所見。胸腔。心臓は小形で淡赤色、肺臓は左右共に暗赤生で質度が硬い。
腹腔。平滑で、腺腎形態は小。粘膜は淡い。筋胃は小型で筋組織は委縮する。結膜は硬く緑色で粗雑。筋胃と十二指腸漿膜とは繊維様物質で癒着し、十二指腸の下行部は拡張、粘膜内に不正形状を示す隆起が認められ、上行部から小腸にかけて小さな結節様物が散在し、小腸から5種下方には不正形な潰瘍があって、この部分の漿膜は肥厚し、この部では巾が1.7糎で、この下方には小さな潰瘍や不正形な隆起が多数にあり、該隆起は淡い黄赤色である。壁は肥厚し、腸管漿膜が口に癒着する。腸間膜はこのために捲縮する。肝臓は小型で萎縮し、黄褐色で脆い。脾臓は小型で淡黄色である。腎臓は灰白色で溷氵虫する。卵巣は小卵胞から成る。
組織学的所見。
肝臓。肝細胞は配列が乱れ、細胞が膨化を示すものと姿縮するものとあり、■細胞は活性化し、黄褐色々素を多数に認める。間質の血管の周■には美麗な顆粒を有する好酸球を多数に認め、門月永枝の近くには変性した肝細胞の小結節がみられるが、この周辺に淋巴球と形質細胞が多い。門月永壁は■である。脾臓。被膜は厚い。脾髄には淋巴球、形質細胞、好酸球が多い。処々黄褐色の色素細胞が集積する。洞は明瞭である。腺胃。粘膜は線維化し、一部は破壊せられ、この下方に存在する腺体は破壊されて、隙管が一部萎縮する。
十二指腸。粘膜が板状となっていて、ここは淡明な細胞から成る腺型構造の腫瘍で占領され、間質は殆んど認めない。絨毛は大きくなり、或るものは腫瘍で占められ、又粘膜内に腺型を示す腫瘍塊がある。しかし作ら一般的に粘膜は萎縮し、腺管が腺状となって僅かにその形態をとゞめ、筋層もうすくなり、漿膜に軽度の漿膜炎を認める。小腸。粘膜が剥脱して潰瘍をなし、この部分には表面が僅かに繊維様組織で覆い、その下層は腺管が1個認められ、周囲に淋巴球が浸潤し、粘膜下織に明るい細胞から成る腫瘍を形成し、胞巣状構造を示す。この部分と接する粘膜は腺管が胞厚し、この間質に腫瘍が小結節として存し、腺管の或るものは腫瘍におきかえられる。絨毛は萎縮繊維化するが、このなかに小さな胞巣状構造を示す腫瘍があり、これが癒合するものもある。絨毛には肥厚するものもある。筋組織の間質、漿膜にも、大小のに胞巣状構造を示す腫瘍がみられる。要するにリーベルキニーンから発生し、粘膜下織の部位が原発■で、ここから粘膜固有層内、筋層、漿膜へと波及したものである。
肺臓。肺組織は一部が姿器、圧迫された程度で、大小の胞巣状を示す腫瘍で占められ、腫瘍細胞は大型で、明るいが、変性する。気管枝の粘膜は姿縮し、一部こわれている。大脳。浮腫を認める程度である。
セキセイインコ Melopsittacuo undulatus(Shaw)飼育された期間は不明態である。
昭和34年11月13日剖検。体格は中等で栄養が悪い。
外部所見。皮膚はうすく、筋肉は赤味をおびる。
内部所見。胸腔。心臓の形態は尋常で、淡黄色。肺臓は鬱血、泡沫をいれ浮腫がある。腹腔。腺胃、筋胃は小型である。脾臓。淡黄色。肝臓は淡黄色で脆弱。腸管は、萎小し、壁がうすい。睾丸。左右共に尋常。この下方に1.7×1.5×0.7糎の大きな腫瘍塊を認め、淡黄色、弾力性がある。割面をいえると大きな■死部と出血竈ある。
組織学的所見。肺臓。萎縮する。心筋。萎縮する。肝臓。肝細胞は萎縮し、離解、核は消失し、濃縮、空胞を認めるものがある。洞には好酸球を多数集積する処がある。腫瘍は大きな壊死巣で占められ、辺縁に塊状の腫瘍があって、腫瘍は乳嘴状を示し、腺腫の像を示し腺型をなし、腫瘍細胞の核は濃い紫色に染り、原形質に空胞を認める。核の周囲は明るい。表層に近い処に小さな腺様を示す管や糸球体を思わせるものがある。又小さな血管が散見され、内皮も存在し、均一な物質を充す。又別の標本では乳嘴状腺腫と、これが変性崩壊する処と、表層に近い処に骨様組織と骨髄様構造を示す処があり、顆粒を有する好酸球が散財する。小腸。姿縮する。粘膜は破換されるが腺管は大きいものがあり、筋層は萎縮する。
考察
鳥類腫瘍の研究は古くから行われていて、鶏の腫瘍に就いては研究し尽された感があるが、その他の鳥類に就いては比較的甚少い。鶏の腫瘍は、卵管、卵巣、腸管が多く、あらゆる臓器に発生するが野鳥の場合は多少相異するようである。しかし、Fox l)は動物園飼育の鳥類で1.23%に腫瘍の発生を認めているが、特にオオムやインコのに多くみとめて16例を記載し、腎周囲組織、副腎に多発し、このほか肝臓、脳、卵管、甲状腺に認めている。腎臓腫瘍に就いて、Fox l)は5例のとキセイインコの例をあげ、肉眼的に不規則な結節状か又は分葉状で一つの葉から発生するために他の部分が退縮するといふ。私共の例は大きな塊状であって、腎組織はその形態が不明確であった。組織学的にFoxは、乳嘴状腺腫、乳嘴嚢腺腫、乳嘴嚢腺癌、腺癌の形態であると説明しているが、私共の例は乳嘴状腺腫の形態を取る。又、Ratclffe 2)はオオムの或る種類のものに腎腺腫、腎腺癌が多発するという。次に腸管の腫瘍は、Foxは鳥類では比較的甚少く、憩室の腺癌をアオボウシインコに認め3例の乳嘴腫(フクロウ、キンクロハジロ、アメリカダチョウ)を記しているのみであるが、鶏では潰瘍癌の形態を取ることが多く、硬性癌の像を示す。私共の腸癌の例はリーベルキユン腺に由来する癌腫で、明るい細胞で大きく、腺型を示す所と、単純癌の様相を示す所とあるが、粘膜下織から、粘膜内、或は筋層、漿膜えとひろがり、血行を介して、肺に結節様の転移を起したものである。この時の組織像は腺型を取り、あたかも肺の上皮細胞から発生したような像を示したことは興味ある処である。
腫瘍の発生が不自然な飼育によるという考へは甚だ疑問で、その食性によるものと解すべきであろう。オオムやインコの類は時に、腫瘍を多発する傾向があるから注意すべきである。
結語
1)タイハクオオムは腸の腺癌で、肺臓の転移を形成した。
2)セキセイインコは腎腺腫で、転移の形成はない。
3)インコやオオムの類は腫瘍が多発する。
-写真説明-
Fig1 セキセイインコ 睾丸の下方に大きな塊状の
腫瘍形成
Fig2 タイハクオオム 小腸の漿膜繊維性癒着粘膜内に於ける腫瘍結節の形成。潰瘍形成あり。
Fig3 セキセイインコ 乳嘴状腺腫腎、細尿管に類似する。
×150
Fig4 セキセイインコ 乳嘴状腺腫腎、細尿管に類似する。 ×150台上方に僅かに腎組織をみとむ
Fig5 セキセイインコ 骨様組織を示す。 ×150
Fig6 タイハクオオム 小腸、粘膜内に於ける明るい細胞から成る癌組織を認む。(右方) ×150
Fig7 タイハクオオム 肺臓、肺小葉は全く腫瘍とおきかえられている。左上方に萎縮した気管枝を認める。×150
文献
1) Fox.,H;Diseases in captive wild animals and birds.Rippincott. co.1923.PP.220.284.333.462-482.
2) Ratcliffe.,H.L.;Incidence and nature of tumors in captive wild animals and birds.Amer.J.Cancer.17.116.1933.
3) Willis.,R.A.Pathology of Tumours.Butterworths.1953.pp 95-105.
4) 森茂樹.実験腫瘍学.昭和10年,南江堂.52-60pp.
5) 大島福造,家鶏肉腫の病理,日病会誌,40.1-12.昭和26
6) 千葉胤孝,家鶏に於ける原発性腫瘍に就いて,39.昭和26年,地方会号,276-277.
7) 千葉胤孝,家鶏に原る卵管癌に就いて,癌,53.350-351.昭和26年