胎生魚ホシナシムラソイの卵発生

発行年・号

1959-01-02

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
(On the Egg Development of a Viviparous Scorpaenid Fish)

所 属

門司市和市水族館

執筆者

藤田矢郎

ページ

42〜43

本 文

広島市安佐動胎生魚ホシナシムラソイの卵発生

門司市和市水族館 藤田矢郎

On the Egg Development of a Viviparous Scorpaenid Fish

Sebastes pachycephalus nigricans (Schmidt)
Shiro Fujita (Moji Mekari Aquarium)

はしがき

ホシナシムラソイSebastes pachycephalus nigricants(Schmidt)はカサゴ科Scorpaenidaeの魚で卵胎生である。筆者は先に水槽中で自然に産み出された本種の仔魚を約1カ月間飼育し、仔魚期について報告したが、卵発生については明らかにすることが出来なかった。1957年冬胎内に卵を持った本種の親魚を採集して水槽中で飼育し、適時親魚の腹から発生中の卵をしぼり出し、同一親魚によって発生の諸経過をほぼ明らかにすることが出来たので報告する。本研究に当り懇切なる御指導を裁いた九州大学、内田恵太郎教授に深謝の意を表する。

材料及び方法

1957年11月12日早朝、1本釣で採集した本種の親魚(全長135mm)を45cm×45cm×80cmの流水式水槽中で飼育し、適時親魚の腹から卵の一部をしぼり出して発生経過を確かめた。この水槽には本魚以外は1尾も収容してなかった。親魚採集後仔魚が産み出された12月11日まで飼育水温は14.5~17.0℃で、飼育中親魚は全く摂餌しなかった。

受精と卵発生

11月12日に採集して11月20日まで卵をしぼることなく放置していたが、20日の午前8時に始めて採卵して観察するとElastula期の発生が見られた。この間の水温は15.4~16.2℃であった。水温、卵の大きさ、其の後の卵発生の速度、他の卵胎生のカサゴ科の魚の卵発生などから考えて、受精後この発生段階に達するまでの所要時間が1.5~2日以上を経過してはいないと推定される。従って受精は18日朝から18日夕方の間に起ったと思われる。この時には既に親魚は採集され、完全に他の魚から隔離されていたから、精子が雌魚の体内に入ったのは親魚が採集される前(少くとも11月12日以前)と考えられる。その時期については不明であり、今後の研究にまたねばならないが、精子は卵が受精可能になる以前に雌魚の体内に入ってある期間生きており、卵が熱した時受精が行われるものと推測される。

Fig. 1 Elastula stage, 1.6mm in diameter with many orange oil-globules.
 〃 2 6.5days after blastula stage, 1.75mm.
 〃 3 12days, 2.1×1.9mm.
 〃 4 Newly hatched larva, 7mm in total length.

11月20日の8時に採卵したElastula期の卵(Fig.1)は海水中に入れると胚質を下、油球を上にして器底に沈下する。卵径は1.55~1.60mmで橙黄色の油球多数を有する。油球の大きさと数は0.30~0.55mmのもの1~3個、0.20~1.60mmのもの2~8個、0.15mm以下のもの25~45個位を有する。卵膜はいちじるしく薄く、卵膜腔は狭い。
11月20日8時最初にElastula期の卵を採卵して後(以下Blastula期後と略す)、約6.5日(11月26日)の卵(Fig.2)は球形で卵径1.7~1.8mm、油球は癒合して1個になりその径0.60~0.70mmであった。胚体はかなりよく発達し、筋肉節28個が数えられ、眼球、耳胞、胸鰭の原基が生じ、心臓は既に鼓動している。色素胞はまだ全然現われていない。Elastula期後約12日(12月2日)では卵の形は球形からやや扁平な卵型に変り、長径2.10mm、短形1.90mm、油球径0.75mm、筋肉節28が数えらた。目と腸管背面に黒色素胞が現われている。卵殻から胚体を取り出して測定すると全長4.5mmであった。Elastula期後約21日で親魚は水槽中に自然に子魚を産み出した。受精後仔魚産出までの所要時間は水温14.5~17.0℃では23日前後と推定される。仔魚(Fig.4)は全長7mm前後で胸鰭が黒く水槽中を自由に游泳する。

参考文献
藤田矢郎、1957:ホシナシムラソイの仔魚期、魚類学雑誌、6、(4、5、6)、91~93.
藤田矢郎、1958:胎生魚タケノコメバルの卵発生と仔魚期、水産学会誌、24、(6、7)、475~479.
Liling,K.H.1951:Zus intraovarialen Entwicklung und Embryologie des Rotobarsches (Sebastes marinus L.).Zool.Jb.(Anat.),71.145~192
Miagnusson,J.1956:Zus Fortpflanzungs biologie des R.ətbarsches. Natturufraedinurium.26,5-22.
内田恵太郎、1943:魚類の生活史概説、海洋の科学、3、(10)、1~10.

Résumé

Sebastes pachycephalus nigricans (Schmidt) is a viviparous scorpaenid fish.
The author kept a incubating female in a tank for thirty days, beginning on November 12. Eggs were periodically expressed from it and the development of the eggs observed, until the time when the fish gave spawning naturally in the tsnk.
The eggs expressed on November 20 were in the blastula stage (Fig.1).
In the course of derelopment the eggs became larger and changed shape
(Fig.1-3).Spawning took place in the twenty-one days after the blastula stage at the water temperature 14.5~17.0 degrees Centigrade.Consequently,the incubation period for this species is calculated to be approxi
mately twenty-three days at the temperature observed.The newly spawned larva (Fig. 4).was 7mm in total length.