臨床と剖検

発行年・号

1959-01-02

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期

所 属

執筆者

ページ

48〜54

本 文

広島市安佐動臨床と剖検

チンパンジー(♀)の胃潰瘍 德島動物園

〔臨床〕10月1日起立不能にして横臥したまま、食欲全く無く、血便を混入加療するも増々元気沈衰、10月6日19時斃死する。
〔剖検〕外景:栄養状態悪く、極度な痩削、皮毛光沢無く、脱毛部数ケ所あり。
内景:幽門部に胃潰瘍、大小腸部に炎症、其の他の臓器具変を認めず。
所見:入園前より胃腸弱く、時折下痢を起しこれがため胃潰瘍を併発したことと漸次栄養失調に陥り斃死したものと診断する。

クモザル(♀)の結核症 神戸王子動物園
〔臨床〕胸膜に栗粒大の結核結節が密発し、一部乾酪変生及びせんい素性に肥厚する。肝、脾にはいずれも転移巣があり、大豆大、小豆大、粟粒大の結節が散在する。肺門、肝門、脾門、リンパ節はいずれも肥大硬結する。

アナグマ(♂)のジステンパー 豊橋動物園
〔臨床〕死亡1週間位前より飼料の残存多くなり鼻端の乾燥及結膜炎を見る。特に1頭は全身湿疹の如き観を呈し最初に衰弱し隔離した。他は元気良く、食慾のみ惡い。飼料にダイアジン、ぺニシリン錠を混ずるも食せず、網を使用してペニシリン及ドミアン、獣医用アリナミン注を使用するも狂躁ひどい。症状の良好なものにはテンパーリン使用。
〔剖検〕脾臓黒暗褐色で腫大、濾胞腫大等見る。肝臓表面は帯黄褐色、断面は血量に富み膨大し、内2頭は門脈根部より肝表面に凝血塊あり、5例共、腸間膜の膵臓上端に固い瘤状の桜実大からクルミ大の結節を見、中に線虫1~1.5cm多数見る。気管支粘膜、肺の充血、出血斑点等。

スカンク(♂)の急性肺炎 日立市神峯動物園
〔臨床〕斃死体発見まで病状は全く見られなかった。
〔剖検〕外景:皮毛光沢あり、栄養状態可なり。尾根部より尾端部にかけて脱毛、皮月夫病(疥癬)をみる。
内景:胃腸内容物全くなし、左右両肺全般に暗赤色を呈し、うっ血を認める。肝腫脹、肺門淋巴腺腫大、口腔においては左右上下歯の象牙歯が侵蝕され溶解、崩解し、表面より歯根にいたるまで化膿炎を起し、歯槽骨膜に蔓延し顎骨及び観骨を侵蝕して骨髄の化膿炎の誘発をみる。

ライオン(♂)の慢性腸カタール 小諸市動物園
〔臨床〕33.7.くる病、骨軟症の徴あり33.11.便秘(毛毬症)33.12マンソン裂頭条虫1匹(1.6m)排泄34.9.17.午前やや残詞を認め、次第に食細くなり元気消失34,9.22食癈絶、すい弱はなはだしく蛔虫をたまに排泄するのみ、体が重く歩行困難となる。34.9.25上野動物園に検体依頼の結果、蛔虫卵陽性と判明、更に慢性腸カタールの疑いあり、第一に体力快復を目的として常食として与えている熊肉をやめ、山羊肉、内臓、馬肉、肝臓、心臓、兎肉による特殊な献立表を作り特別飼育に入る。34.9.30整腸剤、栄養剤投薬(ミネビタール、グロンサン、ミヤリサン)以後連続投与34.9.30多少体力快復の徴あるため駆虫(アジベート11g)上記併用34.10.19蛔虫排泄まだ食欲はややある。34.10.21高度晒粉を使用舎内清掃34.10.22前日清掃時飲水を切り腸カタールの根本治療の必要性を感じゲンノーショーコの煮剤を与えることにする。34.10.23飲水なきため飲用、便が黒色を帯びる。34.10.25以後食欲もつき歩行時も肢が軽くなり便はやや軟かったりするも毎日あり順調に見えるので34.11.2常食に近くする。特別飼育後約30日にてほぼ良好結果を見ることができたがグンノーショーコとミヤリサンの併用に負うところが多かつたと考えます。

ライオン(♂)の毛毬症 上野動物園
〔臨床〕10月上旬、佝僂病の症状甚しく後軀不自由なので10月16日入院し、ラボナ錠の麻酔を実施し精査するに、後肢の挫傷甚しく脱毛し、左側股関節の可動悪く不完全脱臼を思はしめた。その後ビガントール2cc.其他栄養剤の多給に努め保護を計ったが、10月26日に到り食慾不振、腹部稍膨大し排糞がないので翌27日、グリセリン水浣腸、自律神経興奮剤等を処置し毛毬を泄したが、病勢悪化し29日、長鉗子を使い開肛保定して毛毬を少しづつ排除したが同夜斃死した。
〔剖検〕外景:栄養不良、前後肢ェ間、後肢には擦傷著明。
内景:直腸部に巨大な毛毬16×5cm栓塞し該部は異状に膨大し内壁また充出血が著しい。小腸部に蛔虫少数の寄生を認める。膀胱、異状に膨大し内容血様物存在。胃腸の大部分は横隔膜を通り胸腔内に侵入する。肋骨左右15本目に珠数様変性あり。

チーター(♀)の線維素性肺肋膜炎 上野動物園
〔臨床〕7月4日突然下痢便を排泄し、7日には食思消失、排泄物も黄褐色水様性便に変じ、クロロマイセチン、パルミテート及サイアジン等を投与したが翌8日には横臥すること多く元気及食欲なく、12日午後突然嘔吐物を見た。内容には繃帯片を混じ夕刻急激に活気を損じ4時15分斃死した。
〔剖検〕外景:栄養比較的良好、尾部中途に骨折部がある。
内景:皮下脂肪に富み、筋肉の発達は良好。肺、心嚢は胸肋膜と数ヶ所において癒着し、右尖葉部心嚢に黒褐色の異物が附着している。心、心筋の萎縮著しく其他に著変は認めない。肝、肉荳蒄肝を呈し、下縁部の腫帳甚しく、胆汁は充満、胆嚢は膨大する。肝実質には米粒~大豆大の結節が数個存在する。脾、包膜下に斑状出血があり、米粒~大豆大の結節が肝同様認められる。膵、腎、著変はない。胃腸、胃内容は空虚、粘膜面には変化なく、又腸内には寄生虫其他異物の存在は認めない。

トラ(♂)の出血性腸炎 日立市神峯動物園
〔剖検〕可視粘膜貧血、肛門周囲は排泄物附着。皮下は比較的に乾燥している。腹腔を開くと大網膜の血管は怒張して暗赤色を呈す。脾は小豆色で稍腫脹し、断面では濾胞が腫大脾材不明際。肝、黄褐色で広範囲に亘ってやや褪色した部分あり又他の部分では表面、断面とも肉荳蒄模様が明瞭にみとめられる。又斑状に黄色を呈する部分あり、一部に針尖大灰白色の結節が数個づつ集団をなしている。全体としては腫脹はみられない。腎、包膜剥離は容易、断面三層の境界明瞭である。やや腫張をみとめる。
消化管、食道内に胃内容と思われる緑色粘稠な小塊がみられ内面やや充血、潮紅をみとめる。胃、粘膜面ややカタール様で極く少量の緑色粘稠なる内容物あり。小腸、十二指腸から空腸上部にかけて粘膜面、充出血顕著、腸壁はやや肥厚をみとめる。空腸から廻陽にかけて粘膜面は容易に剥れる偽膜様の附着物で被われている。大腸内容は血様流動状、腸管全長に亘って漿膜面に樹枝状充血、或は擦過傷様の出血をみとめる。腸間膜淋巴腺は顕著に腫大潮紅を呈する。心、右心室内凝固血液充満、左心室内血液殆んど空、心内外膜異常なく、心筋も肉眼的著変なし。肺、右各葉の辺縁部に出血梗塞と思われる病巣をみとめる他著変なく、肺門淋巴腺、暗赤色、腫大明瞭。

ホッキョクグマ(♂)の出血性腸炎 上野動物園
〔臨床〕5月26日突然元気及食思消失し、運動量減少、泉鏡干燥、開口呼吸、赤褐色の出血性下痢便を発し、結膜褪色す。オーレオマイシン1500単位、パンビタン4錠、クロロマイセチン、パルミテイト1800mg等を投与し月末には快復した。6月12日に到り痩削の度が目立ち再び鼻汁を流し、1分間32~58の開口呼吸を行い、排便は依然として赤褐色下痢便を流し、挙動は不活潑で寝舎に横臥すること多く、食餌は牛乳のみを飲む。
6月29日 豚脂を試供するに貪食したがその後は再び生乳のみを摂取するのみで7月3日より遂次容態悪化の傾向を示し、10日には体力の減弱甚しく、保定処置を考慮して接近したが注射不能で最後に到るまで出来なかった。12日斃死せるを発見した。
〔剖検〕外景:栄養相不良にして被毛光沢を失し、外傷其他の変状は認めない。体重198kg
内景:皮下脂肪は痩削していたが、非常に厚くなっていた。心、心筋に点状出血を生じ、右心室底部に糸状虫の寄生1隻を見る。肺、辺縁の気腫は著明で右葉の一部には出血斑が存在する。肝、軽度の腫張と出血斑が存在する。腎、特に右腎は腎片の一部の髄質に化膿性変化が見られる。脾、全体に気腫を生じ沈下試験により浮上する。腹腔内には血様漿液約5ℓをみとめる。胃、内容は空虚、黄褐色粘稠物を含み、粘液は大豆~拇指頭大の出血点を生じ幽門部には鳩卵大の潰瘍あり。腸、小腸は全般にわたり著明な充出血と出血斑あり、特に十二指腸部には小結節を生じ大腸粘膜充出血の変化が著明で直腸には、ヂフテリー性の変化が認められる。腸間膜、全体に著明な充血があり淋巴腺は9時~鶏卵大に腫大して内容は膿瘍状の変化を示し、部分的に包膜脆弱にして破綻し、膿様物は露出する。

ハイエナ(♀)の化膿性膣炎 上野動物園
〔臨床〕9月1日、昨夜半斃死したが特に臨床上の所見はなかった。〔剖検〕外景:栄養相及被毛の光沢良、膣孔より濃厚帯黄白色、くるみ大の膿汁を排出する。
内景:膣腔、黄緑色濃厚な膿塊があり、膣壁は貧血はあるが著変はない。子宮頸部より卵巣にわたる内腔は変化ないが、右子宮角には充出血を認める。膀胱、内壁は部分的な充血があり、内容は溷氵虫尿を含む。尿道には変化がない。膵、全体的に出血を見る。腎、稍腫大するが包膜の剥離は比較的容易である。脾、一部に小出血斑を見る。肺、充出血が著しい。

ゾウアザラシ(♂)の出血性腸炎 上野動物園
〔臨床〕9月13日午後、食欲稍不振、運動不活発を認めたが翌朝、池底に沈んだまま斃死せるを発見する。
〔剖検〕外景:栄養相、被毛の光沢共に良好。鼻腔より多量の鮮血を流下する。
内景:(イ)皮下、左頸部に内出血、左眼上挫滅出血、鼻端より重度の内出血を見る。(ロ)腹腔、血様の腹水を大量貯留する。
淋巴腺、胃門淋巴腺、高度に腫脹し、断面は膿瘍の様相を呈し、質は脆弱、嚢胞の形成が見られ、一部化膿巣を認め、内に淋巴液が鬱滞する。
薦骨淋巴腺と腸間膜淋巴腺、著明に腫大、内部に麻の実大の白色凝固物が散在する。
静脉、腎臓を包む静脉は網状に膨隆、それに連なる門脉も著明に膨大する。
胃、小彎に沿い幽門部粘膜皺襞頂点に斑点状の出血。
数隻の線蟲、数十個の礫が存在する。
腸管、廻腸の所々に充血、漏出性、び漫性の出血を認め、特に十二指腸~空腸に出血が著しく、内容は小豆色を呈する。
肝、肉荳蒄様を呈し、小葉間結合織はよく発達し、殊に第4葉において著しい。淋巴管は著しく努張し表面を蛇行する。
脚、原材は明瞭で、腫張は認めない。
脾、包膜は剥離困難(但し腎は多数の腎片に岐れ、包膜は浅く腎片中に入り込んでいる)。腎表面と包膜の癒着は見られない。腫脹其他の変化はない。
副腎、著変を認めず、副々腎数個存在する。
膀胱、粘膜面は充血、少量の溷氵虫物あり、輸尿管開口部に出血斑がある。
胸腔、血様胸水が貯留、左胸部3~4肋骨部に充血あり、切開するに血液流出する。
淋巴腫、肺門淋巴腺 赤色を呈し小嚢胞を形成
胸腺淋巴腺 腫脹し硬く嚢胞形成
胸腺、点状出血あり。
心臓、表面に皺襞を形成し、心筋層は薄く、左心室の心内膜側の筋層は色調の褪色を認める。両心室には血液を貯留、心膜下に多数の点状出血あり。
肺、両葉共に高度に鬱血状を呈し、小葉間結合織は浮腫を呈する。左肺横隔膜面中央部気管寄りに挙大の血腫を認める。
気管、因頭部より内部に血様の漿液を貯留、気管支粘膜に出血点を認める。特に左側において著明である。泡沫を混ずる血様漿液は気管支枝にいたるまで存在している。
食道、著変を認めない。

立会者東京大学教授
山本脩太郎博士

シマウマ(♂)の腸捻転症 德島動物園
〔臨床〕7月28日、食思絶廃、排糞ないの稟告で便秘症の疑いで浣腸、下剤(主硝350g)腸蠕動薬10ccで治療するも効果なく、翌日同様の加療により排糞少量、体力減退、歩様蹌踉、横臥すること多く、依然として食欲欠く為、栄養剤の投与を試みるも、31日午後より痛症状激甚、腹囲膨大と併合して間歇性短かく横臥、転倒、憂苦、寝返しを行い、呼吸困難、不整脈となり強心剤、ブドウ糖の注射、腹囲膨大により穿腸するも1日午前4時5分斃死する。
〔剖検〕外景:栄養相々悪く、被毛光沢なく、激烈な疝痛による転倒、寝返しによる創傷数個所有り、腹囲膨大、眼球溷濁
内景:腹部…左側結腸捻転、捻転部に炎症滲出物の多量附着と共に結腸全粘膜に於て暗赤褐色となり粘膜も膠様に異変し大腸はガスの充満はもとより砂石の混入、廻腸の中部に炎症充血、小腸部の点状出血が散在腎…粟粒大の灰赤色を呈し、断面稍々質が脆弱、髄質に無数の出血斑を認める。其の他の臓器異常なし。

シマウマ(♂)の中毒症 上野動物園
〔臨床〕10月15日9時頃、泡沫を混じた流涎を甚しく排出するとの稟告あり、視診するに活気なく、便量は少く、舎内に佇立し歩行を好まず、蹌踉となる。
可視粘膜貧血、息癆様呼吸型式を示す。依って腸内容物の排除、大量の浣腸、自律神経興奮剤等を処置した。午後赤色尿を排泄、体温虚脱、脈抑数24、呼吸数32、血尿の出現により伝染性疾患を疑い、ベニシリン100万単位、ストレプトマイシン4g、リンゲル氏液1000cc、パンチオニン200、クロロマイセチン4g、ビタカンファー5ccを投与したが、同日16時頃病性悪化斃死した。
〔剖検〕外景:栄養相中等度、鼻漏及び口腔より泡沫を出す。
内景 胃:内容多くやや膨大する。粘膜特に胃底部充血悲しく各所に出血箇所を認む。
腸、十二指腸には4ヶ所にわたり出血斑あり、廻腸処々に出血甚しく、大腸はやや充血し断面には血点が著明である。腸間膜に分布する血管は怒張する。
心、心外膜前縦溝の右心室側に掌大の出血、心筋、心内膜に出血あり、右心室に凝固血液を含有する。肺、全体にわたり慢性肺気腫を呈し、左右共に小豆大の出血点あり、肋膜面断面にも1cm3ケの血点を散発する。
肝、腎、膵、著変はない。
脳、著変はない。

インドサイ(♂)の踏創症 多摩動物公園
〔臨床〕8月23日、閉園後、放飼場より寝室に収容せる際に右後肢の爪(中指)と蹠部に3寸釘のささっているのを発見しこれを除去したが釘はさびており化膿を防止する意味で局所にヨードチンキを塗布した。更にサイアジン(成人量×15)1回量30g、1日4回、6時間毎投与した。
24日、跛行し歩行困難である。食慾はあり水を良く飲む。ヨードチンキ塗布、サイアジン末1回30g、4回投与。
25日、跛行し昨日と変りなし、右後肢着地せず、良く水を飲むところをみると炎症が起ったものと考えられる。処置同上。
26日、昨日より比較してみると右後肢をわずかに着地する様になった。差程疼痛を感じないらしい。趾蹠部の腫れも引いて来ている。処置同上。
27日、右後肢の跛行は殆んどなし、完全に着地する様になるも重心が右後肢にかからぬ様にして歩行している。処置同上。
28日、歩行は平常となるも、方向を転ずる時右後肢に重心を移行しながら細かに2歩を要した。食慾は旺盛で飲水量も平常と変りなし。処置同上。
29日、歩行は平常に復す。食慾旺盛である。処置同上
30日、完全に右後肢を踏着し歩行する様になった。趾蹠部の腫脹も回復した。ヨードチンキ塗布、投薬中止す。

ヤクシマシカ(♂)の鎖肛症 多摩動物公園
〔臨床〕このシカの生れたのは6月1日で前後して他の親が1頭出産し、この方の子は出産した日の夕方に斃死してしまったため2頭でこの仔をなめまわしていた。ことに胎糞の出た日から、はげしくなり一時は脱肛の状態ともなったが、2~3日でなおり、その後もたびたび見受けられたが元気に他の仲間と放飼場を運動していた。
8月20日早朝斃死しているのを発見し解剖せる結果、肛門部の炎症はげしく鎖肛して腸内より排便を困難ならしめ斃死せるものと思われる。
〔剖検〕外景:体重は7kgにして栄養中程度、外傷なし(6月1日生)
内景:肝、暗褐色にして非薄、質、脆弱、肺、暗赤色、気管枝内に泡沫多数含有、心臓、心筋に点状出血を3~4ヶ所に認む、胃、第一胃内容充満、小腸、粘膜充血、腸間膨大となる、腹膜癒着、大腸、著しく膨大し盲腸より直腸に至る全腸間に便充満、粘膜、剥離容易、肛門、肛門閉鎖して排便なし

ラマ(♀)の肺充血症 姫路動物園
〔臨床〕第1日目 8月3日朝より寝室内にて坐し起立不能、蠕動全々なく心肺には異常を認めず給水を充分ほどこし、ワゴ、アンナカ、人カル等注射並に投薬す。T40.8°R30.P48.
第2日目 症状は前日と同様冷水浣腸を行い、蠕動は微弱ながらも認む。ドミアン、VB1、アンナカ、ワゴ等注射、
第3日目 ドミアン、アクロマイシン、アンナカ、VB1等注射、呼吸状態は余り変化はなかったが8月6日午後10時頃より稍々増加し翌朝2時死亡す。
〔剖検〕頸部の皮下は著しく厚い(皮下注射実施の際も不可能であった)肺は相当度の充血を認め、暗赤色を呈し、其の他各臓器には著変を認めず、当ラマは暑き寝室内にて起立不能、胃腸の蠕動停帯、鼓脹症様経過をとり肺充血を生づ、呼吸状態は斃死数時間までは普通の状態であった。

ヤクシマシカ(♀)の打撲症 日立市神峯動物園
〔臨床〕8月7日 午前8時40分頃寝室より運動場へ追出す際、出入口に向って走り出し後肢を滑らせ運動場と寝室の仕切にある格子に額部、腹部を強打し転倒する、直ちに加療したが加療中に斃死する。
〔剖検〕外景:全然異常を認められない。
内景:全身はく皮し、左上眼瞼2㎠にわたりうつ血をみる。又内部に肺のうつ血も認められた。空腸から廻腸にかけて全般にうつ血し、その中でも廻陽部約20cm程は暗赤色を呈し、極度のうつ血を示す、割腸時に多量の流血を認める。他各臓器には異常を認めず。考察、強激の打撲による腸内出血が著しく、生後20日程度の体力では、それに対する抵抗力がなく斃死するにいたり又肺の異常も死を促す間接的な原因になったと思われる。

トナカイ(♀)の化膿性肺炎 多摩動物公園
〔臨床〕本年2月4日到着、来園時痩削はなはだしく栄養不良を認めたので栄養食の多給につとめた処、次第に快復して来たが、8月下旬より再び寝前を始め、検便その他検査をなしたが、特に異状を認めず、10月初旬痩削著明となり皮毛光沢を失ない、食欲も稍々減退徴候を認めたので、栄養剤の給与注射等こころみたが10月15日午後12時50分遂に斃死した。
〔剖検〕外景:痩削著明、皮毛光沢なし、尾端、肛門、陰部附近脱毛
内景:肺、左、大は鵞卵大、小は鶏卵大の膿胞を形成、機能不全を認む
右、前葉に一掌大の健康部を認める以外は左肺同様の膿胞を認む
膿胞は両肺に約58ケあり、内容物は膿汁様黄白色膿臭を有し、中心核を認めず
心、心膜下に橙黄色液の潴溜を認む、心筋には出血を認めず、右心室は貧血を呈す
胃、第一胃は内容物に乏しくガスが充満す、第二、第三、及び第四胃は著変なし
腸、泥状の内容力を認む、寄生虫、出血その他著変を認めず
脾、質菲薄にして扁平、出血を認めず
肝、質脆弱、左下端に鬱血斑を認む、判然とした分葉界なし
以上の所見により
括:到着時より肺に膿胞あり、これが次第にびまんし呼吸困難となり斃死したものと思考される。

ヤク(♂)急性出血性胃腸炎 多摩動物公園
〔臨床〕10月13日元気消失、食慾絶癈、口腔より舌を約15cm突出、舌面全体腫脹、舌面乾燥、舌背は暗赤色に鬱血、木舌様を呈す。口角も稍々腫脹、舌は口腔内に入らず、眼瞼及粘膜充血、流涙を見る。起立したままで座位姿勢はとらず、体温41.OCを持続、飲水は経口投与によりわずかに飲む。
14日、体温40.0℃(午前)眼瞼粘膜腫脹、貧血の感あり、午後体温38.0℃に下降舌も手で押すと口腔に入れるようになり、夕方は自ら飲水す。
13日、体温37.8℃舌の腫脹もとれ舌を自ら口腔内に入れ飲水す。正午頃糞塊と共に多量の血液を排泄、脈120となり呼吸保促処置を加えたが午後4時頃絶命す。
〔剖検〕農林省家畜衛生試験場にて市川博士の御指導のもとに解剖す。
外景:舌を10約cm突出、肛門より血液漏出、栄養中等度、外傷を認めず
内景:肺 著変を認めず
心、〃
胃、第一胃大湾部粘膜出血、血腫を表している
第三胃粘膜に高度の出血を呈す
第四胃〃
腸、十二指腸、空腸、廻腸に亘り腸粘膜出血クルツプ性偽膜を形成、盲腸、直腸も同様に鮮紅色に出血し腸管内に血液潴溜す
胆嚢、胆汁緑色にして多量に含有、粘膜面に出血を認む
肝、全体黄色を帯び、肥厚、肝実質に点状出血


を多数認む
膵、点状出血を認む
脾、著変を認めず
膀胱、粘膜面に点状出血を認め尿充満
淋巴線、腸間膜淋巴線は実質に点状出血を認む
括:以上の所見により急性出血性胃腸炎により斃死したものと思はれる。

キリン(♂)の慢性肺胞性気腫症 姫路動物園
〔臨床〕当きりんは昭和27年7月19日到着、元気食慾共に旺盛なりしも時々下痢を発する程度なり。
体格も比較的大きく、又寝室運動場等の環境も概ね良好なりしも、昭和34年3月頃より時々連続的なる咳嗽を発し、同年9月頃より腹筋による深大なる呼吸を行うため運動をさけ、滋養高き飼料を充分与えるも11月始め頃より漸次腰背部が衰え、斃死の前日まで飼料は良く食し、12月7日午前9時40分頃斃死す。
〔剖検〕外部 死体は右側臥で、体格大、栄養中等、可視粘膜は稍々貧血、口腔より舌を露出せしむ
天然口には異常を認めず
内部 右肺、 長さ 98cm 巾(最大部) 31cm
左肺 〃 90cm 〃 〃 30cm
両肺共著しく大きく肺胞は弾力性全くなし
肺門淋巴腺は腫脹肺門部1部は充血、其の他肺胞内に膿を蓄積す臭気なし
気管、気管内部中央部まで泡沫を有す、内面は充血す
直腸に於て糞塊と共に粘膜が剥離せるを見る
肝臓、重量17.2kg稍々肥大全体に暗赤色を呈す其の他の臓器には異常を認めず

ハイイロカンガルー(♀)の放線菌症 上野動物園
〔臨床〕7月9日、稍元気なく、流涎ありとの稟告。栄養相不良にして食欲旺盛ならず、保定検査するに下顎部に中指々頭大の腫脹発を見る。バイシリン60万単位、ビタカンファー2ccを処置したが、同月14日に到り兼て菌培養の結果Welchii菌を検出、よってWelchi血清0.1ccを皮内注射して反応を見たが異状を認めないので更に7ccを注射した。11日、バイシリン60万単位、ポリタミン20cc、ビタカンファー2ccを注射。16日には一般状態軽減の傾向あり、局部の腫脹が著しく減退、翌日に到り局部の腫脹を見ず、19日より食欲便状良好となったが念のためポリタミン20cc、バイジリン60万単位、ビタカンファー2ccを処置した。8月10日頃より下顎部の腫脹再現し来り、15日朝、突然虚脱に陥り斃れた。
〔剖検〕外景:栄養相不良、被毛光沢なし、皮月夫表面には外傷其他の変状なし。
内景:下顎前方部、左右とも腐蝕し、門歯及前臼歯は殆んど脱落、右側下顎技また中途より折損、患部周囲の筋肉部また化膿性の変化を示す。
肺、全体として気腫性の変状あり
肝、腎、多汁質
胃、腸、一部カタル性の変化を存する

カンガルー(♂)の腹膜炎 福岡動物園
〔臨床〕昭和34年11月26日食慾減退、腹部稍々膨満す
浣腸、人カル投与、ブドー糖、アリナミン、カンフルの注射を実施、稍々好転す。翌日もあまり食慾なし、浣腸、ブドー糖、アリナミン注、ペニシリン注実施。
28日朝、元気全くなし、カンフル、ブドー糖注実施するもへい死す。〔剖検〕(1)左心室心筋稍々肥厚実質溷氵虫す
(2)左肺全葉肝変化す。
(3)胃噴門部粘膜面に円硬貨大の癌様腫瘍二ヶ所、胃壁は全般に肥厚、大彎部に於て一部相互に癒着せる所あり、粘膜面全般に充血す。
(4)小腸粘膜は出血点散在す。
(5)腹腔内に約3ℓの腹水を含有す
以上よりして、癌様腫瘍により腹膜炎を起し、併せて、肺炎を来し、へい死したものと思われる。

ハイイロカンガルー(♀)の腸捻転症 上野動物園
〔臨床〕9月13日、食欲稍減退し右顎前方に幾分腫脹を認めたので放線菌病を疑いバイシリン120万単位、バンチオニン20ccを処置、引続き同様な投薬をしたが10月18日に到り食欲不振、元気がなく、10月21日斃死した。
〔剖検〕外景:栄養相不良、被毛光沢なし。
内景:廻腸谷部の一部に捻転あり、此部より上部の廻腸、十二指腸は充出血あり、胃は内容有り、廻陽より後方は全く貧血を呈し内容は空虚。肺周縁部に気腫あるのみ。肝、腎、脾、変化はない。右上顎第2~3臼歯は基根部に於て放線菌病様の変化を示すが、程度としては重度ではない。

ヘビクイワシ(♂)の胃潰瘍症 上野動物園
〔臨床〕昭和34年10月22日鼻炎を発し、抗生物質アクロマイシン250mgを連投したが良転せず、左眼角膜溷氵虫し、眼瞼周縁及口角部上皮の硬化、鶏痘様の膿腫形成、口蓋部は紫色を帯び水様鼻漏を発し、極度に痩削する。蟲卵検査は陰性。
11月11日より鶏頭の細切物を比較的採食し、強肝剤グロンサン2錠、パント錠及ウルソ錠各1錠を投与したが同月15日眼賦の分泌増加し閉眼することが多いので化膿性疾患を疑い再びストマイ0.25g、ブリサイ30mgなど抗生物質を5日間1クールとして投与、眼賦分泌についてはアクロマイシン眼軟膏を塗布することとしたが病勢改善されず28日夜脱力、斃死した。
〔剖検〕外景:栄養相不良、羽毛光沢を消失、眼囲及嘴縁は不潔、外寄生虫は存在しない。
内景:食道及腺胃は異状はないが、
胃、筋胃は著明な潰瘍を生じ殊に胃底部皺襞頂点部に激甚胃粘膜また所々剥脱する。
腸、十二指腸部は充血しカタル性変化を生ずる。
心、心嚢部に膠様浸潤が見られ筋壁また軟化を示す
肺、変化はない。
肝、〃
腎、〃
脾、〃

ダチョウ(♀)の便秘症 上野動物園
〔臨床〕7月22日午後、産坐肢勢をとり、動かないとの稟告により診するに、開口呼吸をし1分間50〜60を算し、皮温は頗る高く、体温は43.5にして口腔粘膜は貧血し、総排泄腔を検べると卵はないので、熱射病を疑い7%重曹水100cc、ビタカンファー5cc、ケトクロン15cc、ぺニシリン60万単位など処置した。
翌23日朝頭頸部を伸長し起立不能に陥り体温下降を示して、R54~56、P145を算す。
心機能不全にしてリンゲル氏液500cc、ブドウ糖液cc、ビタカンファー3cc、ケトクロン200cc、ポリタミン100cc.等を注射し其後心機能は一時改善されたが依然開口呼吸をつづけ午後斃れた。
〔剖検〕外景:栄養相良好、気管内に血塊附着す。
内景:脳、貧血が見られた。
肋骨は左右とも全部骨折して血腫を形成、腹腔、腹膜下にも強度の出血を認める他、大腿部及肋部等に多量の内出血を存する。
気管、気管支内ともに血液を充血し、肺は充出血著しく、肋骨々折部には癒着も認められる。
心、心筋の溷濁変性を認める程度、心内膜にはヒブリンを存する。
肝、脂肪変性と富脈斑様の出血斑がある
腎、変化はない
脾、変化はない
膵、変化はない
胃腸、小腸粘膜には点状出血が密発、大腸は結腸部より便秘が見られ、粘膜の内には相当に固い糞塊が直腸へ到るまで充満し、直腸内容物は硬化している。
生殖器 卵巣は褐色を呈し、粘膜稍肥厚、変性を生ずる。輸卵管内には下2/3の部位は漿液膜下の充出血、水腫が甚しい。

ニシキヘビ(♀)の火傷 福岡動物園
〔臨床〕昭和34年11月11日夜寝室内ラヂエーターのカバー間隙より、内部に侵入、翌日ラヂエーター間隙にて身うごき出来ないのをラヂエーターを除き、つかまえて出す。それより数日して、皮膚面、色褪せてくる。脱皮ならんと思われたが、いつもより悪いので保温等注意していたが、11月22日早朝、へい死せり。
〔剖検〕全長4.8m、体重32.5kgにして栄養不良外部皮膚面に於て頭部より1m付近右側面、それより0.6m、及び0.9m右面に浸潤性の出血並びに皮膚の軽きび爛を認む
左肺内部中央に栗粒大の寄性性石灰変性部二ヶ所認む皮膚損傷部内面に於ても掌大の漿液性浸潤及び内出血を認む
胃粘膜稍々充血、内容物殆んど含まず、小腸内には灰黒色混状の内容物を少量含み回虫及び裂頭条虫各十数匹を発見す
その他の臓器には特に認むべき変状なし

フラミンゴ(♂)の慢性腱鞘炎 栗林公園動物園
〔臨床〕本年7月30日入園時既に、右脚関節部に軟腫を発して居た。使用薬剤はインテレニン注、マイシリン注、アリナミン注、ビタミンC注、デルソブロカノン等、治療開始後約1ヶ月にして右脚の腫脹はやや減退したが、其後左脚に発し、次で右脚も再発した。
加療の効果は見られず11月9日斃死
〔剖検〕全般的に削痩して、体色は悪い。
胸骨・肋骨は質脆弱にして粗造である。
両脚関節部の腫脹せる患部は腱鞘に脂肪性或はセンイ素性の膠様物質を包有し、腱鞘軟腫を形成して居る。
十二指腸及直腸にはウツ血部が見られる。