ホンドギツネ(Vulpes vulpes japonica) の初期発育について

発行年・号

1970-12-04

文献名

ホンドギツネ(Vulpes vulpes japonica) の初期発育について
(ON THE GROWTH OF EARLY STAGE OF FOX (Vulpes vulpes japonica) Part 1. It's progress of growth from the view point of somatometry MITSURU TAKEDA & FUMIO SUZUKI : Sendai Yagiyama Zoological Park AKIO SHIMADA & YOKO HAYAKAWA : Mishima Gakuen Women's College )

所 属

仙台市八木山動物公園 三島学園女子大学

執筆者

武田 満,鈴木 文雄,島田 彰夫,早川 陽子

ページ

69~70

本 文

ホンドギツネ(Vulpes vulpes japonica) の初期発育について
第1報 身体計測値からみた発育経過(1971.2.27受付)
仙台市八木山動物公園 武田 満,鈴木 文雄
三島学園女子大学 島田 彰夫,早川 陽子
ON THE GROWTH OF EARLY STAGE OF FOX (Vulpes vulpes japonica)
Part 1. It's progress of growth from the view point of somatometry
MITSURU TAKEDA & FUMIO SUZUKI : Sendai Yagiyama Zoological Park
AKIO SHIMADA & YOKO HAYAKAWA : Mishima Gakuen Women's College
はじめに
野生動物の各部位毎の発達のしかたについては,多くは知られていない.そこでホンドギツネ(Vulpes vulpes japonica Gray)の成長期における身体各部の発達を約3カ月にわたって観察したので,その経過を報告する.
方法と材料
計測の対象となったキツネは,生後2週間と推定される保護された仔獣,♂1・♀2,計3頭である.保護当初は,エスビラックによる人工哺育を行ない,成長と共に,ひき肉にエスビラックを混ぜたものを用い,更に肉のみの飼育にきりかえていった.
計測については,斎藤1)を参考にし,器具はMartin式人体計測器・布製巻尺・乳児用体重計を用い,20項目について1970年2月16日から5月6日にかけて毎週1回行なった.
表1 出生時の推定値とその後の変化
計測結果
各期の計測値は表1の通りである.
<体重> 図1にみられる通り,計測期間中,2ヵ月目頃に体重 増加が停滞した時期を除くと,ほとんど直線的に増加していて,3カ月目頃には計測開始時の約8倍になった.1日当り増加量の3頭平均値は,始めの1カ月が25.0g,2カ月目は41.9g,3ヵ月目は33.2gであった.なお計測期間中においては,性差はみられなかった.また出生時の体重は2009前後と推定される.
<体長>
図2-②にみられる通り,計測開始時から6週間は,ほぼ直線的に増加しているが,その後は徐々に増加量が少なくなってくる.計測期間中では,性差はみられなかった.出生時体長は140mm前後と推定される.
図1 体重の発育
図2 身体各部の発育
図3 頭部の発育
図4 脚部の発育
<体高>
図2-③に示した通り,計測期間中においては,ほぼ直線的に急な発育を示すが,計測期間の終り頃から次第に停滞のきざしがみられる.
<胸囲・頚囲>
胸囲と頚囲とは似た発達を示しているが,その割合は 頚囲は胸囲よりも小さい.発達は7週頃までは大きな発達を示し,それが徐々に停滞していくという型をとる(図2-,④,⑤)ここでは♂は♀に対し小型であるが,これは性差ではなく,個体差と考えられる.
<尾長>
図2-⑥のごとく,3週間目頃までは,ゆるやかな発達を見せているがその後は直線的に発達して3ヵ月目には出生時推定値に対し約5倍の値を示す.尾長についてる性差はみとめられない.
<耳の大きさについて>
耳高と耳幅について計測した.図2-⑦,⑧にみられるように,計測開始時と計測終了時において,耳高と耳幅とは似た値をとるが,発育のスパートは耳幅の方が早く急な形で現われる.耳高の方は徐々に増加してゆく.計測期間中の発育総量はほとんど等しく,その期間中に約2.8倍になっている.
<頭の大きさ>
頭部については,最大頭長・脳頭蓋長・頬骨弓幅・頭幅・下顎編・内眼角幅,の6項目について計測した.図3に示した通り,最大頭長・頬骨弓幅が直線的に増加,他の部位はゆるやかなS字カーブを描いて増加している.脳頭蓋長は5週目から9週目にかけて,頭幅と下顎幅は2週目から3週目にかけて急な発達を見せている.内眼角幅は9週目以後計測期間中の増加はみられなかった.
<脚部の大きさ>
前膊長・上膊長・手掌長・下腿長・上腿長・足底長の6項目について計測を行なった.図4の通り,前膊長・下腿長は,ほぼ同じ時期にスパートしていて,その時期は2~4週目と7~9週目にかけてである.そして上膊長・上腿長はそれぞれ前膊長・下腿長のスパートより1~2週間早い時期にスパートがみられる.
手掌長は性差らしきものがみとめられ♂と♀で発達のスパートの時期にずれがあり,♂がややおくれる.足底長は性差はみとめられない.どちらもゆるやかなS字カーブを描いており,足底長は9週目あたりから停滞のきざしがみられる.
結語
今回の計測結果より,ホンドギツネの初期成長について検討を加えた.ここに示された計測値は,前述のように,保護された仔獣をエスビラックにより人工哺育を行なったもので,自然状態のままのものと同じであるとはいいえない.
今回の計測期間内における成長は,体重(図-1)で7.5~8倍,図-2に示した身体各部の発育では,頚囲(約1.6倍)を除き,3倍以上となっている.図-4に示したように脚部の発育は3~3.5倍となっている.これに対し,図-3に見られるように,頭部の発育では,最大の発育を見せた最大頭長でも2倍にならず,各項目とも1.5倍前後の発育にとどまっている.
以上のことから,出生時における身体のプロポーションと,成獣のプロポーションとの相違が示唆され,発育初期における頭部形態が,ヒト等におけると同様,極めて大きな割合を占めていることが知られる.
参考文献
(1)斎藤弘吉:(1963),Ostometrie der Caniden,東京