上野動物園の新熊舎について
発行年・号
1960-02-03
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
(THE NEW BEAR GROTTOES OF THE UENO ZOO LOGICAL GARDENS)
所 属
上野動物園
執筆者
古賀忠道・三橋伊三郎
ページ
61~64
本 文
広島市安佐動上野動物園の新熊舎について
上野動物園 古賀忠道・三橋伊三郎
THE NEW BEAR GROTTOES OF THE UENO ZOO LOGICAL GARDENS
Tadamichi Koga and Isaburo Mitsuhashi, Ueno Zoological Gardens
上野動物園の従来の熊舎は、非常に古く、しかも運動場は径25mmという大きいボルトで囲こまれた小面積のもので、扉も2重式となっていないなど、種々不都合の点が多かったので、新に放養式の運動場をもった熊舎が建設され、次の4種の熊を収容して1960年5月1日より一般に公開しました。すなわちヒグマ (Ursus arctos lasiotus) 4頭(♂♀及び1月13日産れの子2頭) マレーグマ(Helarctos malayanus) 2頭 ナマケグマ (Melursus urstnus) 2頭 メガネグマ(Ursus ornatus) 2頭
運動場は4個(東に1個増設の予定)で、前面の濠は運動場の北側にあり、その前は観客の通路となっていて、運動場の脊部、つまり疑岩の壁の後には、飼育係の通路があり、その下は、動物の通路に利用され、この通路の更に後側には9個の寝室が設けられています。(第 1図参照)。すなわち運動動と寝室との間に飼育係通路(Keeper Passage)及び動物通路 (Aminal Passage)が設けられています。これは本園の類人猿舎の動物通路が、飼育係の頭上を通っているのに対して、本熊舎は、飼育係通路の床下を通っているのです。
この方式は、もちろん、動物の脱出防止に役立つとともに、飼育係は、何時でも、自分の欲する寝室あるいは運動場に、飼育通路より直接はいれることと、動物が、運動場間、または寝室間、あるいはまた、どの運動場からどの寝室へも、自由に移動できるという特徴を持って います。
動物通路から寝室あるいは運動場への動物の出入口の戸は、上方の飼育係通路で操作でき、これを閉じた後は開かないようにする留め金が設けられています。動物通路には所々に遮断扉が設けられていて、必要に応じて、動物の通行を遮断することができ、これにより、飼育係は、動物を特定の室に誘導することが可能です。
前記の動物の出入口の戸は、すべて上下のスライディ ングドアで、重錘を付けた、Counterweight式となっています。(第3図参照)。また、飼育係通路の廊下の床面には、ボルト製の窓が設けられ、動物の行動は上から観察され、その1部は開閉できるようになっていて、必要な時は、ここから動物通路に入ることができます。飼育係通路の有効巾員は1.1m、動物通路のそれは1mで、その高さも1mであり、動物の運動場や寝室への出入口の戸は高さ1m、巾60cmです。飼育係通路より、運動場及び寝室への出入口の扉は 195 cm ×54cmであって、その上部にはのぞき窓を付しました。
観覧通路の動物側、つまり濠の方には、巾60cmの植込みが設けられ、ここにはツツジなどの灌木が植えられているので、観客が、その濠に落ちる危険を防止するとともに観覧者に安心感を与え、またこの植込みは濠が観客に目立たないことに役立つています。この観覧通路は巾 4.28mであって、その両側には、それぞれ高さ90cm と120cm(動物側)の鉄柵が設けられています(第2図参照)。
この観覧通路は、既設のホクキョクグマの観覧通路に連らなっていて、地上3.5mの高さとなっています。つまり動物の脱出を防ぐための隔濠(moat)は、深さ3.5m、巾は底部で3.5m です。ここの観覧通路の下は、将来、倉庫として利用する予定です。運動場を囲んでいる疑岩の高さは、どこでも 3.5m 以上で、運動場の後の部分の壁には、1部に植込みを作り、植物を植えることとし、疑岩の施行に際しては、動物の爪がかからないよう注意 しました。
動物の寝室の脊面は南面しているので、そこには窓を設けて光線を入れるようにしました。寝室の床の高さを飼育係の毎日の操作に便するために、飼育係通路の床より50cm下げる程度としたので、動物通路の床より50cm高くなり、寝室の中に、飼育係の利用するものと動物の利用するものとの2個の階段が設けられる結果となりました。
この熊舎のある場所は、水道の水圧がひくいので寝室のそばに貯水用タンクを作り、これに自動加圧の自家用水道施設を設けて清掃用の水圧を上げ、また悪物入れの小室2個を設け、その中の糞などは、外部より取り去るようにしました(第1図)。
動物の出し入れのために、動物通路の一番端に上下戸を設け、ここに移動箱を押しつけて熊を出し入れするようになっていて、ここより入れた態は、前記の通り、どの寝室へも運動場へも誘導できます。
排水系統については、寝室の水は南側に、運動場と隔濠、及び運動場のプールの水は、moat を通じて外部の下水に連絡されています。尚飼育係通路からは、運動場にも寝部屋にも、覗き窓が設けられ、飼育係通路と寝部屋には電燈を設けたまし。
動物たちも最初に運動場に出す時は、それぞれの運動
場に誘導しなければならないが、すぐに間違いなく出入いりするので、動物通路に設けられている仕切は、平常は使用されません。
この新熊舎は旧熊舎に比べると、面積は約3倍ですが、作業の関係では割合に時間を要せず、また動物の脱出や観客に対する危険などは殆どなくなり、しかも非常に見易すくなったので、入園者の関心と興味をひくことは、以前に比して数倍になったものと思われます。
本熊放養場の建設は昭和34年12月17日着工し、翌35年4月竣工しました。寝室等の総面積60m2 飼育係通路55m2、運動場並びに隔濠の面積は436m2、観客通路の面積は500m2で、計1041m2 となり、ことに観覧通路を高くし、且つその下を倉庫に利用したので、割合に多額の建設費を要しました。その経費の概算は次の通りです。
動物舎建設費 ¥ 9,975,000
付帯施設費(電気・水道等)¥385,000
植物費¥20,000
計 ¥10,380,000となっている。
総括
1. 1960年4月、上野動物園の新熊舎が完成し、4種の態が収容されました。
2. 本熊舎は4個の放養式運動場と9個の寝室を備え、飼育係通路はその間にあって、その下は動物の通路となっています。
3. 放養場の濠(moat)の深さは 3.5m、底部の巾は3.5mで、後方及び側方の壁(疑岩)の高さも3.5mであります。
4、観覧通路の中は4.28mで、その動物側つまり、隔濠と通路との間に狭い植込みを設けました。
5、飼育係通路の後には、加圧ポンプ付きの水槽を設け水圧をあげ、また汚物入れの室を設けて清掃を便利にしました。
6. 本熊舎は観覧通路500m2をのぞき、運動場、隔濠、 寝室等の面積は551m2で、総工費約¥10,380,000を要しました。
参考文献
動物と動物園昭和34年9月 (No. 116) P.P.6-11
動物と動物園昭和35年6月 (No. 125) P.P.14.15
SU M M A RY
1. The new bear grottoes, with 4 outdoor and 9 indoor cages, were completed in April , 1960 in the Ueno Zoological Gaidens, and -four kinds of bears were shown hete since lst May, 1960.
2. Between outdoor and indoor cages, runs a keeper passage and underneath of it, an animal passage.
3. The area of the bear grottoes is 551m2 and that of visitor passage is 500m2 and the cost of con
struction was about ¥10,380,000.
4. One more outdoor cage and two indoor cages will be added in the future.