動物池の汚染が動物の健康に及ぼす影響に就いて
発行年・号
1960-02-03
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
所 属
別府ケーブルラクテンチ
執筆者
小野新市・三代康二
ページ
68~70
本 文
広島市安佐動短報
動物池の汚染が動物の健康に及ぼす影響に就いて
別府ケーブルラクテンチ
小野新市・三代康二
(1) アシカ
昭和26年11月購入以来昭和33年3月迄の斃死数は次表のとおり
アシカの死亡率甚だ高く、購入後1年乃至3年間に胃腸病、呼吸器系統の疾患にて斃死.其の大部分が強度の角膜■濁症を時々併発するので是が原因を種々探究の結果、アシカ池南方6mの地点に公共便所があり、便所裏の下水溝の汚水(1cc中大腸菌3.840、細菌数算定出来ず) が池水中に浸透しつつあることを確めたので、その中央に深さ80cm 巾30cmの排水溝を作り汚水の絶対浸透を防止 し、池水の鮮度を高める為注水量を増し、落差10m勾配 30度の水圧にて口径4cmの鉄管で年中放水し、池水は1週2回換水することにした。
其の後S.3.4.20.S.33.5.4.S.34.3.2購入せる3頭は健全にて、極めて軽微な角膜■濁が伴う程度で今日に至る。 (2) インド産カワウソとウミウ
カ ワ ウ ソ
当園カワウソ及ウミウの池は、巾1m、横 1.4m、深さ 0.9m、三方硝子張りで、注水口は底より35cmの個所口径2cmの鉄管にて落差10m、勾配30度の水道水より圧 力低きタンクに水を注入、排水口は上方より4cmの個所 ■円孔を設けてあり池狭く池水の汚染度の高いのが死因である事を確めたので、生存ウミウは普通水禽舎に移した所、約2年健康状態を保っている。
(3)動物池水の汚染度
参考の為本年2月21日調査せる当園各種動物池の汚染調査表を次に挙げる。
摘要
1.細菌数は24時間普通寒天培養
2.大腸菌数はデメキシコレイト平板培養24時間の赤変菌集落をEMBにより定型的大腸菌を判定せる数(水質検査は別府保健所国広技師に依頼せるものであ る。)
本調査表は細菌数大腸菌数を挙げたものであり、細菌数及大腸菌数の増加は水中有機質の含有量の多い事を示すもので、水中有機質が増せば有機質分解の為酸素の含有量が減少し、従つてアンモニア外蛋白質の亜硝酸化が防げられ、動物に有害なる分解産物が出来る事を証明するもので池水の汚染が動物の保健上有害なる事を知らねばならぬ。
毎年の問題で今日なお解決しておらないアシカの角膜 ■濁症る池水汚染が大なる原因の一つである事が、当園 のアシカ池の汚染と罹病関係で知ることが出来る。
カバの育児について
別府ケーブルラクテンチ
小野新市、三代康二
当園のカバは昭和29年8月入園(当時推定年令2才) した。
第1回分娩は、昭和33年12月1日午後5時分娩予備陣痛を起したので舎内水槽を減水し、舎周囲に席を張り、♂
、♀の興奮を避け、午後8時頃分娩したので、2時間余りして水槽の水を増水したが、母獣任を愛撫哺乳せず夜中再び水を減水し、仔に人工哺乳を試みたが吐出し■下せず、再び増水。親♂♀¥口角にて仔カバを追突するので、♂カバを室内に中隔を作り、分離しようとしたが、♂カバ産児を温湯管に間隔30cm 囲ってある鉄棒の間に追込み斃死せしめた。
第2回は昭和34年8月。腹部膨満し、陰部緩み粘液の状況等により妊娠と確認されたので、♂カバ舎 18m2 桁下2mの寝室を増築し、夏期水槽(露天水槽)に温水を引き、18°C 内外の温度を保ち、周囲に板を張り、天井はビニールを張って保温設備し♂を♀と分離す。
飼料は平常の2割方増加し、蛋白質飼料として大豆粕を日量 400 9給与。腹囲、外陰部は日に増して緩み、粘液粘稠度を増す。乳鏡部■襲漸次大きさを増し、昭和34年12月6日分娩せり。母カバ産児を愛撫す。
昭和35年1月に今まで給与せる青刈燕麦が品切れとなったので、北海道産チモシーを給与せるも食べず、笹を主とした干草、大根、菜等を給与、母獣には豆乳2ℓ、 牛乳2ℓを給与して来たが、昭和35年3月26日、食欲不振、後肢跛行を伴ひ3月27日 起立不能、食欲全欠、骨軟症及蛋白過給によるケトージス、大腿部の炎症の想定の下にペニシリン、ヘキサメチオニン注射等を4日継続した所、食欲出て飼料を3分の1食する様になり、起立し水槽の中にも入る様になり、その後もピスラーゼ、トレスアルミン等の内服を行い、5月1日全快し、目下母仔共健全に生育しております。
カバの繁殖を計るには、寝室2室、冬用水槽2個、夏用水槽2個が必要と思れます。
トラの歯牙疾患
神峯動物園
本獣は本年2月購入したもの未成獣である(生後1年1ヶ月)。
入園時、被毛光沢なく歩様も後肢は這う如き肢勢であり、下顎下辺部の皮膚に渋紅、脱毛部が2ヶ所あり、犬歯は3本折損し下右の1本はう歯である。下顎の脱毛部は丘しんとなり、開口してび爛せるしっしんとなる。この頃眼下にも丘しんを生じ濃汁を排するび欄を生じ、瘻管を形成する。
はじめ単なる皮膚病と考え、加療したが効果なく、歯との関係によるものと考え、ペニシリン 120万単位30日間連用する事により歯瘻を治療せしめ、現在経過を観察中であります。根本的治療としては抜歯を行わねばならないと考えている。
なお、同様疾患をスカンクにも認め現在治療中であります。過去スカンクを三匹歯牙疾患から斃死させて居る事からして、飼育法、特にビタミンADの給与量を再検討する必要があると考えます。
歯瘻の治療は抜歯による以外、根本的療法がないが一応ペニシリンの高単位を運用する事により治療可能と考えます。又腫脹を単なる皮膚病と考えた事につき、病因追究の不足を痛感した次第です。
ニホンザルの妊娠診断例について
神峯動物園
前言
動物に触れずに簡単に行うことが出来、費用も安く、且つ診断が適確な方法の一つとして筆者は月報1956年6月号にキヨンに対するマイニニ氏反応の例を報告したが、この度はニホンザルについて行ったので報告する。
原理
無尾目睾丸に作用する絨毛性ゴナドトロピンを証明する法でCarlos Galli-Mainini :1947が初めて雄ヒキガエルを用いて人について行った反応である。被検尿を無尾目♂に注射して数時間後にトノサマガエル♂の尿中に精子の遊走が見られるか否かを鏡検する。遊走があれば反応は(+)で妊娠と判定する。
試験
前日捕獲したトノサマガエル Rana nigronmaculata Hallouell ♂数匹について自然排精のないもののみを使用した、尿はろ紙でろ過したのち用いた。
考察
季節的にPHが上昇し易いので尿のPHを修正す必要 のあること。トノサマガエルは20~60grを使用することに
なっているが大きいものが捕獲出来なかった。反応(-)
というのはカエルの未成熟によるものと考えられ、事実これらの精巣は長径2㎜以下で発育不充分であった。
ニホンザルは近日分娩する。
キョンの試験ではカエル生体重13~20grを用いて1~3 ccを注射し明瞭な(+)の判定を得たが殆んどが注射後5~10時間でへい死したので、本試験は 0.5㏄ に一定して注射を行った。
コビトカバという和名について
上野動物園
1960年7月14日、コビトカバの♀が1頭、上野動物園に到着しました。これは日本での初渡来にあたります。ところで、その名称ですが、戦前には、「小型河馬」 すなわち「コガタカバ」という名称が用いられていたよ うです。これが、いつの間にか、というよりは、上野動 物園での言い出しで、「コビトカバ」となったわけです。
英名でもPigmy HippopotamusとよびLesser Hippopotamus とはいわないところから、「コビトカバ」とよぶ方が妥当のようにも思われます。現物があるという のは強い(?)ことで、新聞などでも、「コビトカバ」で紹介され、今さら「コガタカバ」と先取権のある名にもどるわけには参らなくなりました。「コガタカバ」と命名した方には失礼ですが、日本動物園水族館協会の統一和名は「コビトカバ」にして頂きたいと思います。
動物の大小をいいあらわす場合、「オオ」、「コ」という接頭言のほか「オニ」、「ヒメ」というのもありま す。学者によっては、最大を「オニ」、次に大きいのを「オオ」、小さいのを「コ」、最小を「ヒメ」とよんでいる方もあるようです。英語でもgreat, little のほかに、goliath, giant, pigmy または、比較級を用いてgreater lesser を使っていることもあります。後者に対しては、日本でも「オオガタ」、「コガタ」と使いわけするむき もあります。さしずめgoliath及びgiantは「オニ」 pigmyに対しては「ヒメ」となるところでしょうが、 Pigmy Hippoに対して「ヒメカバ」では、お姫様もうかばれますまい。