鶴類繁殖とくにその人工孵化育雛に関する研究
発行年・号
1961-03-03
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
(STUDIES ON THE REPRODUCTION OF CRANES,ESPECIALLY ON THEIR ARTIFICIAL INCUBATION AND BREEDING.)
所 属
上野動物園
執筆者
古賀忠道
ページ
53〜68
本 文
広島市安佐動鶴類繁殖とくにその人工孵化育雛に関する研究
上野動物園 古賀忠道
STUDIES ON THE REPRODUCTION OF CRANES,
ESPECIALLY ON THEIR ARTIFICIAL INCUBATION AND BREEDING.
Tadamichi Koga,Ueno Zoological Gardens
序文
上野動物園には、鶴目(Alectorides)中の鶴科(Grand ae)に属する鳥として、タンチョウ、Grus japonensis(P.L.S.Muller)、マナヅル、Grius vipioPallas.クロヅル、Grus grus(L.)、ナベヅルGurs monacha Temminclk.オオヅル、Antigone antigone L,などを飼育しています。
鳥類には、♂♀共同で抱卵、育雛するもの、♀のみで行うもの、♂のみ行なうもの及び♂も♀もこれを行わず、他種の鳥により、または他の方法によって孵化が行なわれるもの等がありますが、上記の鶴類は♂♀共同で行なう種類ですが、著者は1936年にG.japonensisのな冬の抱別の時間的関係について報告しました(1)。
鳥類には、その飛翔羽(Remiges)が長期に亘り次々に脱落して、鳥自信には、全く飛翔に支障を来さないものと(2)、1-2日間の短時日に1時に脱落し、ために飛翔能力を失うものとがあり、鶴類は後者に属しますが、その正確な時期等については不明でした。
鶴類は普通年1回、2個の卵を産みますが、時に2卵の内1個が早期に破壊すると更に1個を生みたすこと、また2個の卵を生んだ後取り上げれば、また産卵することが知られていましたが(3)、著者はGrus japonensis,Grus vipio,Antigone antigoneでこれを繰り返えすことにより、多数の卵を産ませることができました。そして、その大部分の卵を孵卵器により人工孵化し、その雛を人工育雛して、雛の跗蹠その他を測定し、その成長の速度を検し、その成長途上に於ける羽色の変化、その測定値並びに雛の飛翔可能時期等について1955年に報告し(4)、また1956年シカゴにおいて開催された、国際動物園長連盟の総会で、前記発表以後の事項につき報告しました。(5)。
雛の成長途上において、曲趾症その他の異常が発生しますが、その対策について、上記(5)のほか1960年、Gazette誌上に発表しました(6)。
著者は更に、前記の人工孵化に際して、孵卵器内の卵の重量を測定して、その減小率が卵の受精に関係があるか否かを検しました。
従来、鶴類、とくにGrus japonensis等に於いては、その成熟期が非常に遅く、7-8年を要すると言わられていましたが(7)、雛の成長にともない、これらについても、正確に知ることができました。
よって著者は、1947年より1961年に至る間に観察された、これらの事項につき、前記の諸報告で発表したものを除きここに報告します。なお、部分的には、前記の諸報告と重複するものもあるのでご了承下さい。
TABLE 1.MOULTING OF REMIGES OF CRANES.
1.鶴類の飛翔羽の換羽について
鶴類は1-2日の短期間にそのRemiges(Prinaryand Secondary Featlners)が脱落するため、1時的にその飛翔能力を失います。1947年より1956年に至る10年間に観察された、G.japonesis,G.vipio,G.grus,G.monachaの飛翔羽の脱落はTable 1のとおりです。
本表中1949年においては、その記録を紛失しましたが、?で示す部分において換羽が起こったものと推察しています。またGrus.vipioの♂は、1952年に来園したものであり、Grus vipio ♂(2)は、1953年に孵化したものです。
本表で明らかなとおり、前記の鶴類では、隔年、または3年目に飛翔羽の換羽が行なわれていると考えられ、またGrus vipio ♂(2)を見ると、雛は第3年目に初めて第1回目の換羽をすることを示しています。
2.Grus japonensisの抱卵について
既に1936年及び1940年に報告したとおり夜間は主に♀によって抱卵されていますが、♂、♀の抱卵図を更に検討すると、1935年は第1卵の産卵直後より抱卵が認められますが(末尾に付したTable 25参照)、これは殆んど♂によって行なわれ、第2卵の産卵後♀の抱卵が見られ、1937年には第2卵の産卵までは♂♀共に抱卵せず、その後抱卵が見られましたが(Table 26参照)、初期には主に♀によって抱卵されています。以上あまり一致しない観察結果でしたが北海道においてGrus japonternsisが、常に難を1羽だけ連れている(8)ことと関連性があるのではないかと思いますがこれについては考察の項でのべます。
3.Grus japonensis,G.vipio.Antigone antigoneの産卵数の増加について
鶴類は通常年2個の卵を産みますが、これを取り上げると相当多数の卵を産むことは前に報告しましたが、これを実施した動機は、動物園の鶴類の卵には無精卵が多かつたので、採卵により第2回目以後の卵で有精卵を得られるのではないかと推察したからです。
なお採卵をおこなった親鳥は、年令不詳のものが大部分ですが、その入園等に関しては、次のとおりです。
Grus japonensis ♂、1930年頃来園(年令不詳)
Grus japonensis ♀、1937年上野動物園で孵化
Grus vipio ♂は、1952年来園(年令不詳)
Grus vipio ♀、1937年頃来園(年令不詳)
Antigonne antigone ♂、1952年来園(年令不詳)
(8) Literature16.17.
Antigonce antigone ♀、1950年来園(年令不詳)
方法
鶴が1腹2個を産卵した後、これを採卵しました。それらの卵は孵卵器に入れましたが、1954年までは、ある数を採卵すると、最後のものを自然抱卵させたので、彼等の年間の最高産卵数を知ることができなかったので、1955、1956年には、産んだ卵は1腹毎に全部採卵して年間の産卵能力を検しました。また1959年には、1腹すなわら2卵の産卵をまたず、1個産卵する毎に採卵する方法を試みました。結果
前記の方法による産卵を表示すれば、Table 2(G.japonensis),Table 3(G.vipio)及びTable 4・(A.antigone)のとおりです。
Fig.1に示すとおり、1959年の6/1(6月1日以下同じ)の産卵は、G,japonensisの1954年5/22孵化(4/20産卵)の♀の第1回目の産卵であり、1960年の5/12,5/14は、同馬の第2回目の産卵です。また1960年の5/24,6/15の2卵は、1956年6/26孵化(5/27産卵)のG,japonensisの第1回目の産卵です。すなわちこの2例は、G.japonensisは、孵化後満4年と5年で産卵を開始したことを示しています。(FIG.1参照)
TABLE 2.DATE OF EGG-LAYING OF Grus japonensis
TABLE 4.DATE OF EGGLAYING
OF Artigone antigone
次にFig.2に示すとおり、G.avipioに於いては、1953年7/10
化の雛(6/19産卵)は1956年6/20と6/23に第1回の産卵を行ない、1956年7/15孵化(6/16産卵)の雛は、1959年5/21、5/23、6/8、6/11の4個を産み、また1956年6/15孵化(5/17産卵)の雛は、1960年の4/8、4/11、4/15、5/5、5/7、5/21、5/23の7個を産卵していて、G.vipioでは孵化後満3年・で産卵を開始した2例と4年で産卵した1例を示しています。(FIG.2参照)
次にTable 4、はA.antigoneの産卵ですが、1952年までは♀だけ飼育され、産卵後次々に採卵したものです。
1955年と1956年は全然抱卵させず、最高産卵数を検しますと、G.japonensisにおいては8個(4回)G.vipioでは1955年は16個(8回)、1956年は17個(8回)17個の産卵が見られましたが、(Table 2、Table 3参照)後者では第5回目の第1卵が破壊したため1回の産卵が3個となったためです。
TABLE 3. DATE OF EGG-LAYING OF Grus vipio
FIG.1.THE EGG-LAYING OF Grus japonensis from 1946 to 1960 THE EGG-LAYING OF Grus vipio from 1946 to 1960.
1959年と1960年には、1個産卵するごとに採卵しましたが、産卵の間隔は少し変っても、産卵数はあまり変りませんが、この点は尚実験を要するものと思います。
A.antigoneでは、1950年-1952年は、♀1羽のみが飼育されていて、この頃は5月頃より産卵していますが、普通吾が国においては7、8月頃産卵し、採卵しても4個(2回)以上は産卵しないようです。尚1955年以後は隔年に産卵しましたが、これは必ずしもnormalではないように考えられます。
4.鶴類の産卵日の間隔、産卵数並びに産卵期間について
前項にのべたとおり、G.japonensis,G.vipio,A.antigoneの卵を取り上げることにより、normalの状態では見られない多数の産卵を見ましたが、その産卵の間隔その他主題の点につき、次のような結果が得られました。
結果
Table 2,Table 3,Table 4にG.japonensis,G.vipio,A.antigoneの産卵表を示しましたが、更にそれらの卵を採卵し、孵卵器に入れた日をFig.1(G,japonensis)Fig.2(G.vipio)Fig.3(A,antigone)12図示しました。すなわち、鶴たちは、採卵するまでは抱卵を続けているので各回の産卵日の間隔は、単に前回の産卵日より次回の産卵日までの間隔をとるよりも、前回の卵の採卵日より次回の卵の産卵日までの間隔をとった方が合理的であると考えられます。
このような考えの下に、鶴の産卵日の間隔についてTable 5(G.japonensis)Table 6(G.vipio)Table 7
(A.antigone)に表示しました。
FIG.3.THE EGG-LAYING of Antigone antigone from 1950 to 1960.
TABLE 5.DURATION OF EGG-LAYING OFGrus japoniensis
TABLE 6.DURATION OF EGG-LAYING OF Grus vipio
本表で1、2…は、第何回(腹)目の産卵かを示し、その下の数字は、その回の第1卵と第2卵の産卵日の間隔を、A、B……は各回(腹)の産卵日の間隔、すなわち、前の回の第2卵の産卵日と、次回の第1卵の産卵日との間隔を示しています。尚3-5等は、1度の産卵が3個で、その間隔が3日と5日であること、また()内の数字は、前述のとおり、実際の産卵日の間隔に対して、採卵より次の産卵までの日数を示したものです。
これ等のTableにより、G.japonensis,G.vipio,A,antigoneの各回(腹)の第1卵と第2卵との産卵の間隔及び、各回の間隔を知ることができます。
5.G.japonensis,G.vipioの卵の受精率について
方法
前記の方法により採卵した鶴の卵は、主に孵卵器により、1部は仮母鳥(バリケン、鶏など)により、また1部は両親に抱卵させてその受精の有無を確認しました。
鶴卵はその殻が非常に厚く、しかもその表面には、黒褐色の斑点があるので、透視による判別は困難です。よって著者は、ある孵卵日数経過後、卵内のEmbryoが運動を始めた時、それを外部より判定する方法をとりました。すなわち、卵を垂平のガラス板上におくと、卵は内部のEmbryoの運動に従って微動するので、その卵が有精であることを判定しました。
TABLE7.DURATION OF EGG-LAYING OF
Antigone antigone
TABLE 10.FERTILITY OF EGGS OF A.antigone
この方法によると、孵卵第20日位にならないと判別は困難でしたが、その後の、卵内のEmbryの発育中止(死亡)も確かめることができました。結果前述の方法により判明した、卵の受精の有無を表示すればTable 8(G.juponensis),Table-9(G.vipio)及びTable 10(A.antigone)のとおりです。これ等の表中、数字はその年の第1回の産卵より数えた産卵回数であり、Sは無精、Fは有精、Bは破壊を示しています。
G.japonensisは本表中、最初からpairでしたが、G.vipioは1952年までは♀2羽で産卵していたので全部無精であり、A.antigoneは、1953年初めて♂と同居させたので、その以前のものは全部無精なので1954年以後のみ表示しました。これで目立つことは、第1卵及び第2卵(産卵開始後第1回の卵)に無精卵の多いことです。
TABLE 8.FERTILITY OF EGGS OF
G.japonensis
TABLE 9.FERTILITY OF EGGS OF G.vipio
6.鶴卵の人工孵化における重量の変化について
目的及び方法
抱卵中の卵は次第にその重量が減じますが、著者はその減少率が、卵の受持の有無に関連を有するのではないか、また中止卵と孵化卵との間に、重量の減少率に変化が見られるのではないかを検するため、人工孵化中の鶴卵の重量を、おおむね週1回計量しました。
結果
計量に当ってやや計画性を欠いだために、全部の卵の測定が同一でなく、また全孵化日数に亘って計量していないものもありますが、その測定値をカーブで表わすと、次にかかげる図のようになります。(測定表は省略)すなわち、Fig.4(G,japonensis1954年)Fig.5
(G.vipio1954年)Fig.6(G,vipio1955年)Fig.7(G,japonensis1956年)Fig.8(G.vipio1956年)Fig.9(G.japonensis1957年)
Fig.10(G.vipio1957年)Fig.11(G.vipio1959年)Fig.12
(G.vipio1960年)で、図中太線は有精卵、細線は無精卵を表わします。
次に卵の重量減少の一日平均を求めるために、最初の測定値より最後の測定値を引いた残数をその成長期間の日数で除して、その算術平均を求めました。この数値は、計量日が孵卵全期間中ではなかったのですが、おおむね全期間の平均減少値に近いものと思います。その算出表は、Table 11.(G.japonensis,G.vipio1954年)Table 12.(G.vipio1955年)Table 13.(G.japonensis G.vipio1956年)Table 14.(G,japoncensis G.vipio1957年)のとおりです。
これらの表中、Sは無精F(H)は有精で孵化したもの、F(S)は有精であるが孵化しなかったもの(中止卵)を示しています。
これらの図及び表によって、全般的に見れば、重量の減少率は、受精には無関係のようですが、孵卵条件の同一のもの、すなわち、同腹の卵で、1個は有精、1個は無精の卵に就いて比較すると、次のような結果が現われました。(*印のもの)Table 13すなわち,1956年のG.japonensisの1例を除けば、すべて僅かながら、有精卵の減少率が高いことを示しています。これについては、前掲のFig.5、Fig.6、Fig.7、Fig.9、Fig.10、に付してある比較線(Table 15にかかげた卵の最初の測定の点と、最後の測定の点を連らねた線に平行の線を交叉させたもの)にも現われています。なおFig.11(1.2.4)Fig.12(2)で中止卵の曲線が急に傾斜しているのは、特に目立った現象です。
TABLE 11. MEAN OF WEIGHT DECREASE OF EGGS IN INCUBATOR (g)
TABLE 12. MEAN OF WEIGHT DECREASE OF EGGS IN INCUBATOR
TABLE 13.NIEAN OF WEIGHT DECREASE OF EGGS IN INCUBATOR
TABLE 14.MEAN OF WEIGHT DECREASE OF EGGS IN INCUBATOR
TABLE 15.COMPARISON OF WEIGHT DECREASE BETWEEN 2 EGG OF SAME CLUTCH
FIG.4.WEIGHT DECREASING CURVE OF
EGGS IN INCUBATOR Grus japonensis,1954.
7.雛の成長について
本項については、既に1954年(9)及び1956年(10)に次の部位を、おおむね週1回測定し、その測定表を発表しましたが、ここには、これらの測定表によって作られた、各部位の成長曲線(Figs.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26)を掲げることとしました。測定部位は次のとおりです。
1.Tarsus(跗蹠)
2.Middle Toe(中趾)
3.Culmen(嘴峰)
4.Height at Shoulder(脊高)
5.Wing(翼)
なお、Fig.14において1954年の曲線が孵化後26日で切れているのは、その頃から中趾が彎曲して測定不能となったためであり、Fig.17において、1954年のものが孵化後61日に急に上昇しているのは測定の誤りであると思われます。これらのカーブにより、彼等の成長は一般に割合速やかで特に初期に急速に成長する部位と、割合ゆるやかに成長する部位とのあることが明らかとなりました。
8.人工孵化育雛のツルの雛の発育途上に発生する異常とその対策について
本項についても、既に1部は報告済みですが、(11)このような異常は人工育雛中の他種の鳥類の誰にも発生し、吾々はしばしば人工孵化のキジの曲趾、ハクチヨウ、ガン等の垂翼に遭遇します。
(9)Literature 8.
(10)Literature 22.
(11)Literature 25.
FIG.5.WEIGHT DECREASING CURVE OF EGGS OF Grus vipio IN INCUBATOR, 1954.
FIG.6.WEIGHT DECREASING CURVE OF EGGS OF Grus vipio IN INCUBATOR, 1955.
FIG.7.WEIGHT DECREASING CURVE OF EGGS OF Grus japonensis IN INCUBATOR,1956.
FIG.8.WEIGHT DECREASING CURVE OF EGGS IN INCUBATOR, Grus vipio, 1956.
FIG.9.WEIGHT DECREASING CURVE OF EGGS OF Grus japoncnsis IN INCUBATOR,1957.
FIG.10.WEIGHT DECREASING CURVE OF EGGS FO Grus vipio IN INCUBATOR,1957.
FIG.11.WEIGHT DECREASING CURVE OF EGGS IN INCUBATOR Grus vipio,1959.
曲趾症の発生
1954年5月22日孵化したG.japonensisは、孵化第1日に、すでに右側中趾が少しく彎曲気味で、趾骨は非常に柔軟の感じがありました。第6日には右側の各趾は完全に彎曲し、第11日には左側の各趾も愛するに至りました。(12)しかし雛は全身的には全く異常を認めず、食欲旺盛で生長も順調でしたが、これらの証は鳥の成長と共に固定してしまいました。
1955年6月1日に孵化したG.vipioでは、孵化後第73日に右側のが彎曲を始め、5月18日解化のG.vipioの雛は、孵化後第2日に右側趾が彎曲し始め、第3日にはそれが進行するのが認められました。
無翼症の発生
1954年5月9日孵化のG.vipioの雛は、既に孵化後第5日には、翼部の垂下が認めら、その後翼羽が発生してこれが生長するに従って、その症状はますます増進しました(13)。
1955年5月22日孵化のG.vipioの雛では、孵化後第26日頃より翼の垂下が現われ、第38日にはこの症状は大分進行しました。また同年6月1日孵化のG.vipioの雛は第35日に垂翼の症状が現われました。
(2)Literature8.(Fig.24,25,26)
FIG.13.DEVELOPEMENT CURVE OF TARSUS OF Grus japonensis
FIG.14.DEVELOPEMENT CURVE OF MIDDLE TOE OF Grus japonensis
FIG.15.DEVELOPEMENT CURVE OT CULMEN OF Grus japonensis
FIG.16.DEVELOPEMENT CURVE OF HEIGHT AT SHOULDER OF Grus japonensis
FIG.17.DEVELOPEMENT CURVE OF WING OF Grus japonensis
FIG. 18.DEVELOPEMENT CURVE OF TARUSU AND MIDDLE TOE Grus vipio 1954.
FIG.19.DEVELOPEMENT CURVE OF CULMEN AND HEIGHT AT SHOULDER Grus vipio 1954.
FIG.20.DEVELOPEMENT CURVE OF WING OF Grus vipio 1954.
FIG.21.DEVELOPEMENT CURVE OF TARSUS AND MIDDLE TOE OF Grus vipio 1955.
FIG.22.DEVELOPEMENT CURVE OF CULMEN AND HEIGHT AT SHOULDER OF Grus vipio 1955.
FIG.23.DEVELOPEMENT CURVE OF WING OF Grus vipio 1955.
FIG.24.DEVELOPEMENT CURVE OF TARSUS ANI) MIDDLE TOE OE Antigone antigone 1955.
FIG.25.DEVELOPEMENT CURVE OR CULMEN AND HEIGHT AT SHOULDER OF Antigone antigone 1955.
FIG.26.DEVELOPEMENT CURVE OF WING OF Antigone antigonc 1955.
曲趾症並びに垂翼症の療法
曲趾症の原因としては、遺伝説、人工孵化の失宜説、初生雛の歩行地面の構造説等色々ありますが、著者は、Richetが主因ではないかと推察しています。ただ前記の両症状は、必ずしも同時には発現しないようです。
曲趾症に対しては、症状発現の極めて初期に、アルミニューム板または厚紙等の軽量のものを、趾の形に切り込んだ矯正具を作り(Eig.27)これを蹠より患部に当て、各趾をそれぞれ、下の矯正具の枝に、セロテープまたは絆創膏等により固定します(Fig.28)。同時になるべく日光浴を行ない、且つVitamin剤やCalcium剤等を多給すると、2-3日で治癒します。
垂翼に対しては、なるべく広い場所を運動させ、特に走らせると、彼等は必らず翼を拡ろげて羽捜たきをするので、この運動は垂翼の治癒に有効です。また細いゴム輪等により、翼をたたむことに力を貸してやることは効果があり(Fig.29)、また前の場合と同様Vitamin剤その他の投与等につとむべきです。
(13)Literature 8.(Fig.8,9,10)
(14)Literature 2-1.
9.人工育雛により成育した鶴の動物園における展示について
人工育雛により育てられた鶴の鍵は、非常によく人に馴れますので、彼等を時々放鳥することにより、従来見られなかった、鶴の飛翔状況を動物闘において観覧に供することができます(14)。
方法
人工育雛中、雛は時々Cage外に出して運動させます。雛は飼育者の役から走ってついて来るようになり、孵化後1ヶ月位すると、彼等は時々翼を拡ろげて走り歩き飛翔の伸長にともない、この運動は益々強くなりますが、翼が完成するまでは、飛翔は不可能です。しかし、その頃より、飼育者はよく彼等を馴致して、運動後必らずCageに収容して、給餌するよう習慣付けを行ないいます。
元来鳥類は帰巣本能を有するので、この習慣付けは困難ではなく、その内に飛翔を開始しても、必らずそのCageに帰ってくるのです。この方法により、毎日動物園の上空を飛翔運動させることにより、その飛翔状況を観覧に供することが可能となります。
10.考察
鶴類の飛翔羽の脱落はTable 1に示すとおりGrus japonensisでは6月2日(1947年)より7月8日(1950年)の間に、G.vipioでは6月4日(1951年)より7月10日(1951年)の間に、G.monachaでは6月19日(1956年)より7月11日(1951.1954年)またG.griusでは6月17日(1953年)り6月23日(1956年)の間におこっています。すなわちこれらの鶴では、6月初旬から7月初旬にかけて換羽が行なわれています。
FIG.27.CORRECTOR USED FOR TOE TWISTING.
FIG.28.CORRECTOR APPLIED CHICK OF Grus vipio
FIG.29.SHOWING TI-E RUBBER RING APPLIEI) TO THE WING
EIG.30.G1115 vipio FLYING OVER THE TAMA ZOOLOGICAL PARK.
G.japonensisでは、野生の場合は5-6月頃産卵するものと思われる(15)ので、雛は6-7月頃孵化することとなり、前記のとおり親鳥の飛翔羽の脱落は6月初旬より7月初旬なので、丁度その繁殖期にあたり、親鳥たちが飛翔能力を失なう時期に抱卵及び育離が行われているものと考えられます。尚雛は10月頃は飛翔可能となるので、親鳥もその頃は、新らしい飛翔羽が完成して、飛翔可能となるものと推定されますが、この点は将来尚調査を要します。鶴類の換羽は隔年または3年目に起こっていることは興味あることでG.vipioは、孵化後3年目に第1回の飛翔羽の換羽が行われていることが明らかになりました。
次にG.japonensisの抱卵については、著者は既に、割合に♂の抱卵の多い1例と、主に♀により抱卵されている1例を報告したが、共に夜間は♀の抱卵が多く(16)、これらはコクチョウの抱卵の状態と考え合わしても、抱卵は主に♀によって行われ、♂はその補助的役割をなし、特に夜間はほとんど♀が抱卵し、♂は防備に当たるものではないかと考えられます。尚第1卵が産まれた後第2卵が産まれるまでの間は、1例では抱卵されず、1例では抱卵が行われ、その間は主に♂がこれに当たっていますが、このことは、産卵後初期に1卵が破壊すれば産み足す現象並らびに、他鳥と異なり、鶴では、2卵の孵化日が、産卵日の差異と同じように23日異うことの原因となっているのではないかと推定され、このことがまた、北海道における野生のG.japonensisが常に雛は1羽しか連れていないこと(17)に関連しているのではないかと考えます。すなわち、著者は、前に孵えった雛は成育するが、次にかえった雛は成育していないと推察しています。これは、前に孵ったヒナが多く餌を食することや、次のヒナをいじめることなどにより起る現象で、動物園においては、しばしば見られるところです。
次に鶴類は年に2卵を産むものが多いのですが、採卵することにより多数の卵をうみます。全然抱卵させず、1腹産む毎に採卵すれば、G.japonensisでは8個(4回)、C.vipioでは16個(8回)を産卵することが明らかとなりました(1956年には17個を産んだが、これは第5回目に、第1卵が破壊したためこの回は3卵を産んだためです)尚1個産む毎に採卵した場合も、産卵数は同じで、ただ産卵日の間隔に差異を生じましたが、この点は更に将来の研究を必要とします。
次に、1肢毎に採卵した場合は、(1946-1958)各回(各腹)の第1卵と第2卵との産卵日の間隔は(Table 5)3日のもの(間に2日おいたもの)19例、2日のもの6例、4日のもの2例となり、間隔3日が最も多く、その約1/3が間隔2日、稲に間隔4日のものが認められ、その算術平均は2・88日となります。
G.vipioでは(Table 6の1952-1958年で計算)、間隔3日が23例、2日が12例、4日が1例で(表中の3-3の如く、1腹3個の場合は加えず)間隔3日のものが最も多いが、その半数は2日で、4日のものは極めて稀で、その算術平均は2.69日となります。
A.antigone では(Table 7.1950—1952年は♀だけだったので考慮しない)間隔4日が3例、3日が1例で、間隔4日が主で稀に3日があると思われます。
従来ツルの成熟期は非常に遅く、産卵するのに7-8年を要すると言われていましたが(18)、前記のとおり、G.japonensisは孵化後4年、G.vipioは3年目には成熟、産卵するもののあることが明らかとなりました。
次に各回(腹)の産卵間隔を見るとG.japonensisでは(Table 5.)最低8日、最高35日ですが、これを間隔日数別に示せばTable1 6.のとおりで、13-17日の間隔で産むものが大部分で、23例中16例はこの内に含まれ、その他のものも含めて、8-21日の間隔で産むと考えられ、例外的に35日の1例が見られますが、これは採卵日が明でないのですが、ある期間抱卵を行わせたものではないかと推察されます。
(15) Literature 3.15.(16) Literature .5
(17) Literature 16.17.(18) Literature 12.
次にG.vipioにおいては(Table 17)9-13日の間隔で産卵するものが最も多く(87%)全体としては6-18日の間隔で産卵することが明らかとなりました。
A.antigoneでは各腹の産卵間隔は21-27日でした(1953年までは♀のみなので考慮せず)
次に産卵期間については、G.japonensisでは4月上旬より6月下旬、G.vibioでは3月中旬より7月初旬、A.antigoneでは7-8月に行われました。Aantigoneでは、1羽の場合5月より産卵を初めていますが、これはabnormalな状態ではないかと考えられます。その原因は不明ですが、熱帯地方より輸入された当時に起こった現像かと推察されます。なおまた産卵中止は、換羽開始と関連性があると考えましたが、飛翔羽の換羽は毎年は起こっていないことから言えば、必ずしも、直接の関係があるとは言えないようです。
TABLE16.DURATION BETWEEN CLUTCHES OF Grus japonensis
( )内の数字は、産卵日の間隔で、採卵を考慮してないもの(See Table5)
TABLE 17.DURATION BETWEEN CLUTCHES OF Grus vipio(See Table6)
TABLE 18.FERTILITY OF EGGS OF Grus japonensis(See Talile7)
TABLE,19.FERTILITY OF EGGS OF Grus japonensis
既述のとおり、本研究の主要部分、すなわち人工孵化育雛実施の発端は、鶴類に無精卵の多いことと、孵化しても死亡する雛が非常に多いことにあったのですが、Table8.9に示すとおり、特に第1卵、第2期(第1腹目)の無精が非常に多いことが目立っています。これを表示すれば、Table 18(G,japonensis)Table 19(G.vipio)のとおりです。またこれらの表を図示すれば Fig.31.(G.japonensis)Fig.32 (G.vipio)とおりです。
すなわち各年の卵を産卵順に番号を付し、各番の受精率を見れば、Table 18の第9卵、Table 19の第15.16.17卵は産瞬数が少ないので考察より除外すると、Fig.31.Fig.32.に現われているとおり、第1、第2期すなわち1回の産卵(第1腹)の受精率は非常に低く、G.japonensisでは、第3-6卵の受精率は割合に高いが、50%以上のものは第5卵だけですが、G. vipioでは、第4-14卵の受精率は50%以上でした。第1腹に無精卵の非常に多いことは、♂♀の発情 の不一致、特に♂の発情の遅れていることを示しています。上述のとおり、特にG.japonensisの受精率(Fertility )が低いので、将来その向上のために、Holmone の給与等、特別の処置を考慮することが必要だと考えます。
FIG.31.FERTLITY OF EGGOF Grus G japoncnsis LAID BETS WEEN 1946-1960.
FIG. 32. FERTLITY OF EGGS OF Grus vipio LAID BETWEEN 1953-1960.
人工育雛は、雛を感染病よりふせぎ、その死亡率を非常に低下させましたが、これは人工育雛により、雛を病原より遠ざけること、薬物の投与並びに栄養の補給が充分に行われることに起因ていると考えます。1958年自然孵化したG.vipioの雛は、7月29日と8月1日に孵りましたが、前者は、3日目から人工育雛を初め、後者は45日目に親より離して人工育雛を開始しましたが、人工育雛が如何に勝れているかは、その体重の差が明らかに示しています。その成長曲線は、Fig.33のとおりです。
解卵器内の卵の重量変化については、1日の減少量の平均はTable 11.12.13.14のとおりです。著者は、有精卵と無精卵の間に何等かの差異があるのではないかと考えましたが、これを全卵について見ると、殆んど1定の傾向は認められません。これは孵卵条件が非常に異なるためではないかと推察しましたので、条件を同じくするもの、すなわち、同腹でしかも有精のものと無精のものとを比較してみると(Table 15)1例をのぞいて、他小ではありますが、有精卵の重量の減少率が高いことが明らかとなりました。
またFig.11.Fig.12.に現われた、最後に急にカーブで傾斜した部分では、内部のEmbryoが死亡したためと考えられます。その死因については尚明らかでないが、あるいは、湿度不足等のために死亡し、特に重量の減少が強かったのではないかとも考えられますが、この点は更に研究を要するものと思います。
雛の生長過程中の測定値については、既に発表しましたが、更に生長曲線により考察しますと、G,japonensisでは、Tarsusは50~60日の間で完成し、Middletoeは35~40日、Culmenはやや測定値が不充分ですが、おおむね80-90日には成長をとげており、Height at shoulderは、これまた測定期間が不充分ではあるが、100日前後で発育し、またWingも同様ではないかと考えられます。
Vol.Ⅲ,No.3
Fig.33.
Graph showing the growth of weight of artificially fed crane.
G.vipioについてみると、Tatsusは、1954年には孵化後67日以後は生長せず、1955年には50-60日には成育していると考えられMiddle toeは25日以後はあまり成長せず、おおむね30日で完成するものと思われ、またCulmenは割合に成長が遅そく、1954年には100日においても尚成長が認められましたが1955年には、90日頃は成長を中止し、70日以後の生長は極めて僅です。次にHeightatShoulderは、1954年は孵化後60日、1955年には第45日頃までは急カーブで生長したが、その後の成長は僅少で、大体60-70日で成長を中止しています。Wingは85-95日まで割合に急速に成長し、その後はほとんど成長せず、すなわち85日頃には完成に近いものと思われます。
A.antigoneでは、その例が極めて少ないので確言できませんが、前掲の諸図に現われているとおり、Tarsusは約60-70日、Middle toeは50-60日、Culemenは80-90日で成長するものと思われ、Wing確言できませんが約90日、Shoulder Heightは測定が不充分ですが、そのCurveより推定し、且つG.japonensisと比較して、おおむね100日前後で成長するものと推定されます。
翼の成長について特に興味あることは、翼長の伸長が止まる頃雛は飛翔が可能となることで、このことは、翼羽特にPrimary Feathersを見ると、各羽の羽弁の発育が完成して、各羽が完全に重なり合って、羽ばたきに際し、よく風を受け止めることができるのです。すなわち、G.japonensisは孵化後90-100日、G.vipioは約85日、A.antigoneではおおむねG.japonensisと、同時頃より飛能力を得るものと考えられれます。
TABLE.20.CHICKS OF G.japonensis HATCHED IN UENO ZOO
TABLE.21.CHICKS OF G.vipio HATCHED IN UENO 200
次に人工育雛中におこる曲趾や垂翼の現像は、自然孵化の場合はあまり認められませんが、著者は1種のRichetによるものと推定しています。特に急激な生長をとげるこれらの鳥類では、日光浴の励行、類及びCalcium剤の多給などに留意する要があり、特にG.japonensis及びG.vipioの1945年以後1960年に至る間の孵化1覧表に示すとおり(Table20.Table21.)、多数のG.vipioの雛が骨折により死亡していることは、正しくRichetがその原因であることを示しているもので、この点鶴のように脚が長く、しかも成長の急速な鳥では、化骨を充分にすることに特別の留置を要するものと認められます。(前記の死亡例は多摩動物公園において、1方のPrimaryを切除して、自然状態の林に放飼中に起こったものです)Table 20.Table 21.Table 22.よりG,japonensis. G.vipio. A.antigoneの孵化日数を、日数別に表示すれば、Table 23.のとおりです。すなわちG.japonensisは32日が最も多く、35日より30日にわたっていますが、平均32.5日、G.vipioは29日が最も多く、30-28日で平均は29.18日、A.antigoneは3例ですが平均31.66日でした。
Vitarnin
TABLE.22.CHICKS OF A.antigone HATCHED IN UENO ZOO
TABLE.23.INCUBATION PERIOD OF Grus jaaponensis,Grus vipioand Antigone antigone.
曲趾症、垂翼症については、前者は簡単な矯正具を利開し、後者はゴム輪等による弱いsuportを与えると共に、翼の開張の運動を行わしめると同時に、共に、Vitamin剤、Calcium剤の多給、日光浴の励行等を、初期に実施することにより、割合容易に恢復することが判明しました。
人工哺育により非常によく順致されたG.vipioの雛の1部を、多摩動物公園で飛別運動を行わせましたが、彼等は上空を飛翔、旋回して、またもとの所に帰ってくるようになりました(Fig.30)。著者はこのことより、将来、人工育雛された鶴類を動物園において展示する動合、特に飛翔訓練を行なって、その飛翔状況を観覧に供ることができると考えます。
最後に、このような採卵により、野生の鳥類からも、相当数の卵を採卵し、しかもその最後の卵は自然抱卵せしむることも可能であるので、彼等の自然繁殖をさまたげることなく、人工的に増殖をはかることの可能な鳥いるものと考えられますので、特に絶滅せんとする鳥に応用し得るものと考えます。特にアメリカに於けるHooping Crane(Grus americana)のConservationに応用されつつあります。
11.結論
著者は上野動物園において、鶴類(Gruidae)中のタンチョウ(Grus japonensis)マナヅル(G.vipio)ナベツル(G,monacha)クロヅル(G.grus)オオジル(Anigonne antigone)に関し、1936年より1960年に亘る間種々の観察及び実測等を実施して、次のような知見を得ました。
1、鶴類の飛翔羽の脱落は、1-2日間に一斉におこり、上野動物園ではG.japonensis,G.vipioでは6月上旬より7月上旬、G.monachaでは6月下旬より7月上旬、G.vipioでは6月中、下旬に行われました。
2、G.japonensisで考えると、この換羽の時期、すなわち飛翔能力を失う時期は丁度抱卵、育雛の時期と一致しているものと思われます。
3、Gruidaeの飛翔羽の換羽は、2-3年に1回行われています。そしてG.vipioの幼鳥では、孵化後3年目に、その第1回の換羽が見られました。
4、G.japonensisの抱卵については、♀が抱解の主体では補助的に抱卵するように思われ、特に♂は警戒に当たるものと思われます。
5、第1卵産卵後直ちに抱卵が初まるらしく、孵化日も、第2卵は、第1期より2-3日遅れるのが普通です。
6、このことが、野生のG.japonensisの雛が1羽しか生育しない原因ではないかと推察されます。
7、鶴類は産んだ卵を採卵することにより多数の卵を産ませることができ、G.japonensisでは年間8個、G.vipioでは16個、A.antigoneでは7個の採卵が可能でした(A.antigoneでは、普通は4個しか採卵できなかった)
8、1度(2卵)の各卵の産卵日の間隔は、G.japonensisでは3日が最も多く、その1/3は2日、稀に4日のことがあり(平均2.88日)G.vipioでは、3日が一番多く、その約半分は2日、4日は極めて稀であり(平均2.69日)、A.antigoneでは、例数が少なかったが、4日が普通で、3日もあるものと思われます。
9、1度ごとに採卵すると、各腹の産卵の間隔は、G.japonensisでは主に13-17日、G.vipioでは6-13日、A.antigoneでは21-27日でした。
TABLE.24.PARTIAL COMPLETION OF THE CHICKS OF CRANES
10、上記の場合の産卵期間は(東京において)G.japonensisでは4月上旬より6月下旬、G.vipioでは3月中旬より7月初旬、A.antigoneでは7-8月でした(A.antigoneでは輸入された初期には5月頃から産卵)
11、受精率は多産のため減小はしないものと思われ、一般に第1腹は無精が多く、G.japonensisでは第5卵のみが受精率50%以上でしたが、G.vipioでは第5一第10卵が50%以上でした。
12、初期の卵に無精卵の多いことは、♂の発情が♀より遅れていることを示しています。
13、鶴の卵の孵化日数はTable 23の通りでした。
14、自然育雛より人工育雛が雛の成育ははるかに良好で、その成長も速やかです。これは、人工の場合は雛を疾病よりまもり(主にCoccidiosis)また栄養の充分な補給が可能だからです。
15、鶴の卵を孵卵器で孵化した場合、卵の重量の減小は、G.japonensisでは1日平均0.89g-2.68g、G.vipioでは0.75g-1.5gでしたが、全卵を通じては、その減小率と受精とは関係がないように思われましたが、条件が同一の場合(同腹で同時に解卵器に入れた場合)は、有精卵の減小率がやや無精卵より高いことがわかりました。
16、中止卵ではEmbryoが死ぬと急激に卵の重量が減少しました。
17、雛の各部の測定を行ない、その成育の時期についてTable 24.のような結果を得ました。(19)
18、雛の飛翔し始める時期は、G.japonensisでは90-100日、G.vipioでは約85日で、A.antigoneではG.japonensisに近いものと推定されます。
19、飛翔が可能であるためには、飛翔羽の各羽がよく重なり合うことが必要で、それは翼長の生長とおおむね一致します。
20、G,japonensisは孵化後満4年、G.vipioは満3年で産卵を開始するものがあります。
21、雛は人工哺育中に曲趾症、垂翼症をおこすことがありますが、これはRichetの結果ではないかと考えます。
22、上記の異常は、適当の処置により治癒せしめることができました。
23、人工育雛の鶴の若鳥がしばしば骨折を起しましたが、これもRichetのためと考えられ、その飼育には特に留意する必要があります。
24、人工育雛の鶴は、動物園においてもその飛翔の状態を観覧に供することができると考えます。25、本研究の成果は、野生鳥類の増殖、ひいてはその保存に利用することができるものと考えます。
(19) Liternture 22.より少しく巾をもたせました。
最後に本研究の実施にあたっては、元上野動物園飼育係高橋峯吉氏、同園飼育課員鈴木新平、松本喬史、その他飼育課並びに多摩動物公園の多数の諸君の協力を得ました。ここに厚く感謝の意を表する次第です。
LITERATURES
1、 飯島 魁 動物学提要(1923)
2、 黒川義太郎 お目出度い鶴、動物談叢(1953)
3、清棲 幸保 日本鳥類大図鑑(1954)
4、古賀 忠道 丹頂並びに黒鴣の抱卵、動物心理第2巻、第4号(1936)
5、 〃 丹頂並びに黒鴣の抱卵、私の見た動物の生活(1940)
6、 〃 マナヅルの雛の成育について、日本動物園水族館協会、昭和29年度総会報告(1954)
7、 〃 野生鳥類の人工孵化、野鳥第19巻、第6号(1954)
8、 〃 真那鶴並に丹頂の人工繁殖、上野動物園研究報告No.1(1955)
9、 〃 トキの飼育と観察、動物と動物園 No.128(1959)
10、 〃 高橋幸吉 つる、むかしといま、上野動物園(1957)
11、高橋 峯吉 上野動物園における鶴類の飼育について、日本動物園水族館協会月報(1954.3.)
12、松本 喬史 マナヅルの雛を育てる、どうぶつと動物園Vol.11.No.4.(1959)
13、黒田 長久 世界のツル、動物と動物園Vol.12.No.3.(1960)
14、 〃 マナヅル4羽とタンチョウ1羽が人工で孵化しました。動物と動物園Vol.7.No.4(1956)
15、周 はじめ 北海道西別原野のタンチョウについて、鳥 Vol.13.No.64.(1954)
16、斎藤 春雄 タンチョウを護る、野鳥 Vol,21.No.2.(1956)
17、北海道阿寒町立中学校 鶴の日記(1960)
18、Le Miessurier,Colonel A Game,Shore and Water Birds of India,1904.
19、Evans,A.H.Birds,1904.
20、Robinson,A.H.and Chasen,The Birds of Malay Peninsula,Vol.3. 1936.
21、Allen,Amy,R.Japanese Sacred Cranes,Pheasant Fancier, 1953. 12.
22、Koga,T.On the artificial incubation and breebing of cranes in The Ueno Zoological Gardens,Tokyo,Japan,Minutes of the conference of The International Union of Directors of Zoological Gardens,1956.
23、Koga,T.On the artificial Incubation of cranes in The Ueno Zoological Gardens,Gazette,Vol.4.No.955.
24、Koga,T.Artifical incubation and breeding of cranes, Radio Talk,Series No.131.NHK,1956.
25、Koga, T.Crooked Toes, Gazette,1960,Oct.
SUMMARY
I reported on the natural incubation of Grus japonensis in 1936 and concluded that the eggs were mostly incubated by female especially at night and the male assisted the female in incubation and the male seemed to protect the female and its eggs (and chicks) against enemies.
In 1954 and 1955, I also made reports on THE ARTIFICIAL INCUBATION AND BREEDING OF CRANES and published that the cranes-Grus japonensis and Grus vipio-laid many eggs in one year instead of two if taken off from the nests after every clutch was laid and also on the method of artificial incubation and breeding and on the developement of the chicks of cranes which were hatched artificially and also on the colour change of the chicks during their developement and concluded onthe partial completion of the chicks of these cranes.
Here I report again on the above memnioned subject on the observation and studies made between 1936–1961 on the cranes (Grus japonensis, Grus vipio, Grus monacha, Grus grus and Antigone untigone) kept in. The Ueno Zoological Gardens, Tokyo which were not published in the previous reports. The
summary is as follows; : 1. The periods of the moulting of the remiges of the cranes kept in captivity in The Ueno Zoologa
ical Gardens were as follows;
Species Period of moulting
Grus japonensis First one third of June~Middle one third of July
Grus vipio Same as above
Grus monacha Last one third of June~Middle one third of July
Grus grus Middle one third of June~Last one third of June
2. The remiges of cranes moult not every year but once in 2 to 3 years.
3. The moulting season of the cranes, when the birds can not fly, coincide with the breeding season of the birds.
4. The remiges of Grus upio moulted for the first time at its third year after hatching.
5. The two eggs of one clutch of cranes hatched with 2–3 days interval and I think, this is the cause of death of one of the two chicks of Grus japonensis in the wild state in Hokkaido in Japan.
6. When every clutch of eggs were taken off from the nest, Grus japonensis laid 8 eggs (four clutches) a year, Grus vipio 16 eggs (8 clutches) and Antigone antigone 4 eggs (two clutches) respectively.
7. The intervals of first and second eggs of one clutch were 2. 88 days (mean) by Grus japonensis, 2. 69 days by Grus vipio and 3. 75 days by Antigone antigone respectively.
8. The intervals of egg-lay of side by side laid clutches were 13–17 days by Grus japoniensis, 6–13 days by Grus vipio and 21—27 days by Antigone antigone respectively.
9. The periods of egg-lay of cranes kept in Tokyo, when forced to lay many eggs were as follows;
Species Period of egg-lay
Grus juponensis First one third of April~Third one third of June
Grus vipio Middle one third of March~First one third of July
Antigone antigone July~August (usually)
10. The fertility of the 5th laid eggs only was above 50% by Grus japonensis but by Grus vipio, that of 5th-14th eggs was above 50%.
11. Most of the eggs of first clutches were sterile by Grus japonensis and Grues vipio and I think, this must be caused by the uncoincidence of heat of both sexes.
12. The artificial rearing of crane chicks is far more superior than the natural rearing by the parents, that is, the former reduces the mortality of the chicks and make the developement of the chicks more rapidly than the latter.
13. The weight of the fertile eggs of the Cranes in incubator decreased a little more rapidly than to hat of the sterile eggs when they were incubated in the same conditions.
14. By the measurement of the chicks of cranes during their developement, I conclude again on the partial completion of developement of the chicks as follows; ( ) shows estimated number Parts of the body Grus japonensis Grus vipio Antigone antigone Tarsus 50—60(days) 50—60 60—70
Middle-toe 35-40 about30 50-60
Culmen 80-90 70-80 80-90
Height at shoulder about 100 60—70 (about 100)
Wing about 100 about 85 (about 100)
15. The incubation periods of cranes were as shown by Table 23. 16. The chicks of the cranes begin to fly at about the following days after hatching;
Grus japoncnsis 90–100 days
Grus vipio about 85 days
17. Grus japonensis begin to lay eggs at 4 years of age and Grus vipio, at 3 years of age.
18. The croocked toes and dropped wings of the artificially incubated chicks of cranes were cured by the simple treatinent at the beginning stage of the abnomalities.
19. I think these abnomalities were caused by ricket and many young cranes artificially reared up died by bone break. This must be kept in mind on the breeding of cranes.
20. we can show to the public the artificially reared up cranes flying at the zoo.
21. I here again emphasize that the method of the artificial incubation and breeding of cranes may be applied to the conservation of the birds which are going to be extinct.
(付)既発表の論文よりの抜粋
(Some extracts from already published reports)
なお、既に発表したものですが、G.japonensisの抱卵について観察した♂♀別の抱卵表Table25.(1935年)とTable26.(1937年)及び、その内の観察漏れの回数が20回以下のものだけで計算した、時刻別の♂♀の抱卵比を図示したものFig.34.(1935年)Fig.35.(1957年)をかかげておきます。
また文献中にある、既発表のものからその概要を再録しますと次のようになります。
1.雛は孵化後4ー5時間で仮母器に入れ6-7日間育て、その後育雛器に移しました。
2.餌付けは孵化後12-13時間で行ない、卵黄、ミールワーム、ドジョウ、パンなどを用い、その後は主にドジョウとトウモロコシ其の他の殻類、野菜等を与えました。
3.孵化後約3週間で翼、尾等の大型の羽が発生し、黒褐色の異状となって現われました。
4.体色の変化は新らしい羽の発生、その生長及び先端部の脱落によって起りましす。
5.G.vipioは孵化後100日頃に、頸の付着部に白羽が現われ、これが次第に大きくなります。
6.白斑の生じかたには、個体により差異が認められます。
TABLE.25.INCUBATION OF Grus japonensis IN 1935.
(* Egg laid, o ♂,•♀siting,)
TABLE.26.INCUBATION OF Grus japonensis IN 1937.
(* Egg laid, o ♂,•♀siting,-not incubated)
FIG.34.INCUBATION RATE OF MALE AND FEMALE OF Grus japonensis,
1935.
FIG.35.INCUBATION RATE OF MALE AND FEMALE OF Grils japonensis, 1937.