動物園水族館雑誌文献

水族館技術者研究会海獣部会

発行年・号 1982-24-02
文献名 水族館技術者研究会海獣部会
所属 大洗水族館,江ノ島水族館,琉球大学名誉教授,鴨川シーワールド,南紀白浜ワールドサファリ,日和山遊園,鴨川シーワールド他
執筆者 吉田征紀,広崎芳次,本田正彦,瀬崎啓次郎,綿田俊和,西器昌治,鳥羽山照夫,前田義就,米倉 学, 稲垣芳雄, 鳥羽山照夫他
ページ 37~39
本文 水族館技術者研究会海獣部会
第7回研究発表抄録集
日時:昭和57年2月23日
場所:南紀白浜ワールドサファリ
参加者:32園館,67名
発表演題および抄録:
1.大洗水族館新設より大洗付近で捕獲された鯨類について
大洗水族館 吉田征紀
1970年11月より1981年12月までに,コマッコウ,スナメリ,マッコウクジラが打揚げられた.
1.マッコウクジラの体表には円型斑紋があり,イカの吸盤跡と思われる.
2.下顎先端は骨折してからある程度時間がたっていた.
3.手羽及び尾鳍先端は切断されていた.
4.舌には葉状突起が見られた.
5.下顎歯は露出してなく,上顎にソケットは見られなかった.
6.背鳍前側面の脂肪層は4cmであった.
7,消化器内には黒色のクリーム状のものが充満していた.
8.胃内にはイカロ器及び外套膜の一部があった.
9.直腸が膨大していた.
10.第1胃の容量は26ℓであった.
11.腸の長さは72mであった.
以上により体長535cmのマッコウクジラは授乳中であるが摂餌開始していたと思われる.
2.エノ島水族館におけるハンドウイルカ Tursiops truncatus とハナゴンドウ Grampus griseus との交雑種4例
江ノ島水族館 広崎芳次,本田正彦,瀬崎啓次郎,綿田俊和
江ノ島水族館で1978年より1981年の4年間に毎年1頭の交雑種が生まれた.父親はすべて同一個体のハナゴンドウであり,母親は2回交雑種を出産した1個体と1回ずつ出産した2個体である.
1978年より1980年に生まれた3個体の交雑種とその両親との関係および外部形態と歯式などについては,動水誌23巻2号(1981)で既に報じたが,1981年10月3日生まれの第4の交雑種個体(新生児No.80,体長139cm,体重28.5kg,雌)の知見を併せて報告した.
生後3年5ヶ月を経過した新生児No.72の個体は調調に成育し,1982年2月現在体長254cmに達した.過去1年間の外部形態,生態についての顕著な変化は認められない.
3.バンドウイルカとオキゴンドウの交雑種(Tursiops truncatus gilli♀xPseudoruca Crassidens♂)について
琉球大学名誉教授 西器昌治.
鴨川シーワールド 鳥羽山照夫,前田義就.
飼育下における鯨類の交雑種については,バンドウイルカとシワハイルカ,ハナゴンドウ,ゴンドウクジラの一種において報告されているが,鴨川シーワールドでもバンドウイルカとオキゴンドウの交雑種4例が認められた.この交雑種4例について分類学的調査を行った結果,下記の点にバンドウイルカとの相違が認められた.
1.吻長,吻端より手羽付け根までの長さが短く,呼吸孔頭部の体幅が広い.
2.手羽前縁の先端近くは,オキゴンドウの手羽形状と類似した凹状にへこんだ曲線を有している.
3.脊椎骨数,歯槽数はオキゴンドウとの中間値を示している.
4.正常分娩された交雑種は,初摂餌と単独行動の出現時期が当館で生まれたバンドウイルカよりも若干早いほかは,行動について相違は認められなかった.
4.コビレゴンドウの飼育と調教について
南紀白浜ワールドサファリ 米倉 学
当館では1977年から1978年にかけて太地で捕獲されたコビレゴンドウ8頭の内,生存していた2頭を搬入し飼育した.この種類は強制給餌による餌付けが必要であり,また餌付けに成功した個体でも長期間飼育する事は困難とされている.これらの個体は1977年2月に捕獲され,1978年4月に当館に搬入し,1981年4月に死亡した雄と,1977年8月に捕獲され,1979年5月に搬入し現在飼育している雌であるが,今回は主として前者についてその給餌量,演芸,疾病等の概要について報告した.
5.宮津湾で捕獲された1頭のバンドウイルカについて
日和山遊園 稲垣芳雄
鴨川シーワールド 鳥羽山照夫
昭和55年12月2日,京都府宮津市矢原で1頭のバンドウイルカが捕獲された.宮津湾近辺では,時折バンドウイルカが捕獲されることがあるが,今回捕獲されたバンドウイルカについては,紀伊半島,伊豆半島などの太平洋岸で捕獲されたバンドウイルカとは,外形・体色に若干の相違が認められた.このバンドウイルカは,体長207cm,体重118kg,性別オスで,吻長が著しく長く,体長の6%を示す.又,他の外形も日本近海のバンドウイルカより,奄美近海産のバンドウイルカに近い形が判明した.しかし,最終的には,骨格標本等の調査を行なわなければ,決定的な判断はできないと思われる.
6.和歌山県太地町で捕獲されたサカマタの飼育経過について
太地町立くじらの博物館 松井進,下市 昇,白水博,東 博文, 寺西敏次
1979年2月26日地元漁師によって5頭のサカマタが捕獲された.当館では2頭の飼育を行なう機会を得た.(♂体長7.0m,♀6.1m)そのうち雌個体は同年6月3日化膿性肺炎で死亡したが,雄個体は1982年1月現在健在である.これらの飼育期間を通してサカマタの餌付け状況,イシダイによる咬傷,発情状況,給餌量,訓練状況などについて報告した.
7.カリフォルニアアシカ,日令100日未満の個体の餌付け
京都市動物園 高井進
1980年8月に生後100日未満の個体の親が急死した為,餌付けを試みたのでその経過及び反省点を報告する.京都市動物園での餌付けは生後200日頃で,体重が減少の額向の時期に親から離し,行なった.ただし体重が増加の傾向にある個体に関しては餌付けを遅くする.今回の個体は,生後86日目であった.餌付け開始12日目に強制給餌,2日間強制を続けた後,14日目に川魚を自力摂餌するようになり,小アジ,イワシを摂餌するまでになったが,胃内に飲み込んだ小石,及び腸内に寄生していた鉤虫により,餌付け開始28日目に死亡した.強制給餌および自力摂餌の餌の中には,総合消化酵素0,25g,総合ビタミン剤1gを混入した.反省点として,胃内に飲み込んだ石が投げ込まれないようにしなければならないこと.腸内に寄生していた鉤虫に対しては,餌付け時に検査するべきであったと思う.餌付くことには,うまくいったが,若日令の個体だけに,やはり,どこかに無理があったのかもわからないので,人工哺乳の事も日頃から研究,準備をしておくべきだと思う.
8.アフリカオットセイの飼育と調教について
南紀白浜ワールドサファリ 五十世弘一
当館では,1977年11月に3頭のアフリカオットセイを購入し,翌年1月より調教を始め,1981年8月までにショーを公開することができた.その間アジを主な餌とし,病気,けがもせず順調な経過をたどる.調教を行なって感じたことは,1.餌の食いが悪い.2.当館で飼育しているアシカにくらべ,たいへん神経質である.3.芸をおしえることに関しては,アシカにくらべても苦労はなかったが,ステージへ出す,ステージへなれさせる合同で調教することには,かなり時間がかかった.4.ボールのせは,鼻先にはのりにくく,口もとでのせていることなどであった.
9.江ノ島水族館におけるカワウソショーについて
江ノ島水族館 福田智治
江ノ島水族館では,1981年4月より,東南アジア産のコツメカワウソAmbronyx cinereaのショーを一般公開している.カワウソショーの公開はわが国ではじめての試みであるので,ここにジョーの概要を報告した.
ショーに用いたコツメカワウソは雄一頭で,従来よりよく人に馴れていた個体である.この種類は,後肢と尾を支えにして直立すること,前肢を巧みに使って物をつかむこと,さらによじのぼることができることはよく知られているところである.この3つの基本的な動作を応用して,1回約5分のショーを1日に4~5回公開している.イルカやアシカに比べてはるかに小型であるが,動作や表情が非常に豊かであるために,観客とりわけ幼児の人気が集まり,十分にショー効果をあげることができたと思われる.
10.海獣類への冷凍マーキングの応用
鴨川シーワールド 鳥羽山照夫,荒井一利,清水宏,毛利悦子 新着動物の個体識別及び飼育動物の登録を目的としてバンドウイルカ,ゴマフアザラシを使用し,実験を行った.
1.バンドウイルカ(体長297cm)
ドライアイス+アルコール コテ式では実施時間15~120秒,フロンスプレー式では30~60秒で比較的明瞭な白色斑が得られた.液体窒素,笑気のスプレー式では安定した白色斑は得られなかった.
2,ゴマフアザラシ(体長170cm)
ドライアイス+アルコールコテ式,フロンスプレー式では,何の形跡も得られず,液体窒素スプレー式,コテ式及び笑気コテ式では無毛の傷は残るものの白色毛を伴う明瞭な標識は,得られなかった.
11.新施設の概要
京急油壺マリンパーク 竹内経気
昭和56年10月8日開館したイルカ,アシカのショーを主体としたインドアの施設をスライドで紹介した.

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