動物園水族館雑誌文献

水族館技術者研究会海獣部会 第8回研究発表会

発行年・号 1983-25-01
文献名 水族館技術者研究会海獣部会 第8回研究発表会
所属 鴨川シーワールド,江ノ島水族館,南紀白浜ワールドサファリ,沖縄海洋博記念公園水族館,太地町立くじらの博物館他
執筆者 鳥羽山照夫,清水 宏,平塚賢司,毛利悦子,前田義秋,広崎芳次,高橋由紀男,本田正彦,絹田俊和,米澤正夫,林輝昭,今津孝二,林 律子,長崎 佐,内田詮三,内田達三,松井 進,〇下市昇一,白水 博東 博文,寺西敏次他
ページ 19~21
本文 水族館技術者研究会海獣部会 第8回研究発表会
Ⅰ.日時:1983年2月22日
Ⅱ.場所:京急油壺マリンパーク
Ⅲ.参加者:26園館,60名.オブザーバー2館
Ⅳ.研究発表:12題,題名,発表者,要旨は下記のとおり.
1.鴨川シーワールドにおけるシャチOrcinns Orcaの飼育について:鳥羽山照夫,清水 宏,平塚賢司,毛利悦子,前田義秋(鴨川シーワールド)
鴨川シーワールドでは,1970年に2頭のシャチを我国で初めて飼育を開始した.このシャチは約4年で死亡したが,1980年に新たに2頭を導入し現在も飼育中であるので,これら4頭のシャチの飼育についてまとめて報告した.
1)飼育個体は1970年搬入個体は,雄体長450cm,雌体長345cmで,1980年搬入個体は雄体長450cm,雌365cmである.
2)飼育には容量670tと1140tのプールを使用した.飼育中の気温と水温の平均値は19.2°Cから19.8°Cであった.なお夏季には,水温を冷却した.
3)体重維持率は,2.6%から2.8%であったので適正給餌率は3~4%であると思われた.
4)発情期については雄のペニスの勃起確認から見ると1~5月と9,10月と考えられた.
5)疾病については1970年飼育個体は,雄が肝疾患,雌が急性骨膜炎により死亡し,1980年飼育個体の雌には,輸送のスレによる筋炎が認められた.また,1980年飼育個体には条虫の排泄が認められた.
6)生理値(呼吸間隙,直腸温,心拍数,血液性状)を調査し平常値を求めたが,血液性状の月変化からみて見ると,6~8月,10~11月に貧血,肝機能障害と考えられる変化が認められた.
2.サカマタOrcinus Orca新生子の出産から死亡までの観察:広崎芳次,高橋由紀男,本田正彦,絹田俊和(江ノ島水族館)
1982年4月27日,江ノ島水族館マリンランドにおいて,サカマタの出産を観察した.母親は1982年2月12日和歌山県太地沖で捕獲されたもので,3月30日,搬入時の体長655cmであった.出産直前及び出産時には,高速の遊泳,体の捻転,尾鰭を水面上に出し,強く水面を打つ,大きな鳴音などが観察された.尾鰭の娩出から,4時間9分後に出産は終了した.哺乳行動は生後10時間頃から始まり,30時間から40時間にかけて,10数回認めた.新生仔は雄で同年5月1日死亡した(生存83時間).死亡時の体長は247cm,体重177kgであった.
3.シャチの胃腸疾患時における血液検査および,その治療例について:米澤正夫,林輝昭,今津孝二,林 律子(南紀白浜ワールドサファリ)
1981年4月29日,当館で飼育しているシャチ(名前べンケイ,雄,体長5.3m,体重3t)が突然,元気消失.食欲不振.体温上昇,粘液便等の食中毒症状を呈した.今回は,この時の治療経過と,また採血し得られた血液検査値を以前中毒症で死亡したシャチ(雌)の値,およびベンケイの捕獲,運搬時に得られた値とを比較し検討した.
ベンケイの結果からは,特に中性脂肪値,コレステロール,コレステロールテステル値,グルコース値,アミラーゼ値等に変動がみとめられたが,その他の結果からは,胃腸障害による脱水傾向,肝機能障害といえるほど数値的に差はみとめられなかった.
又,治療においては,発病後の抗生剤投与にくわえ,胃内ヘカテーテルで補液することにより,胃腸を刺激し,ぜん動運動を促進したことが,体調の好転に作用したと思われた.
4.カマイルカの生残状況について:〇長崎 佐,内田詮三(沖縄海洋博記念公園水族館)
カマイルカは行動の敏捷さ,ずばぬけたジャンプ力を持つこと,美しい体色等からショー用動物として高く評価されている.当館でも1979年2月,長崎県壱岐より3頭のカマイルカを搬入,1頭は240日で闘争死,1頭は生存,599日で代謝障害と思われる疾病にて死亡した.後者は環境不適応が原因かも知れぬという疑いがあったので,沖縄以外に立地する館における本種の生残状況を調査する必要が生じた.1981年3月より1983年1月までの1年10ヶ月間,5園館に対してカマイルカの飼育状況について電話による聞き取調査を行った.この調査結果を海外における本種の調査例とも比較しつつ報告した.調査結果によると沖縄におけるカマイルカの生残率は他館のそれと著差は認められなかった.従って今後,更にカマイルカを新規搬入して,沖縄での飼育を試みる所存である.
5.沖縄の鯨類:内田達三(沖縄海洋博記念公園水族館)
当水族館では海洋博記念公園管理財団よりの委託により1982年4月~11月に沖縄周辺海域のイルカ類の分布調査を行なった.
船舶,航空機による目視観測調査並びに聞き取り調査である.この他1975年の開館以来,偶然の捕獲,海岸へののし上げ, 名護湾におけるイルカ漁,聞き込みによる調査を続けてきた.本調査で8種,過去の調査で他の8種,計16種の鯨類を確認した.これらの調査結果について報告した.調査の結果,8種,21群,554頭を目視したが,内訳はスジイルカ外,バンドウイルカ,ハナゴンドウ,コビレゴンドウ,カズハゴンドウ,イチョウハクジラと,マッコウクジラ,ザトウクジラの8種である. この他以前の調査で,コマッコウ,オガワコマッコウ,シワハイルカ,ミナミバンドウイルカ,オキゴンドウ,シャチ,ユメゴンドウ,スナメリの8種を確認している.
6.カマイルカの出産について:松井 進,〇下市昇一,白水 博東 博文,寺西敏次(太地町立くじらの博物館)
当博物館では昭和49年3月から,現在までに12頭のカマイルカを飼育した.新生児は昭和56年6月に出産し,同11月に 132日間で死亡した.出産には約37分要し,出産後,立泳ぎをしたり金網にぶつかったりしたが,親の誘導により,安定遊泳に入った.その後順調に育っていたが,122日目頃より削痩し始め,133日目死亡した.体長140.0cm,体重33.5kgであった.死因は,網に吻部を絡めた為交又歯となり,口内炎を起こし,授乳が阻害された事による飢餓死と思われる.
胃には海藻ほかの異物が充満していた.
7.水槽内繁殖イルカの調教経過について:〇東 直人,長崎 佑,内田詮三(沖縄海洋博記念公園水族館)
昭和51年5月に搬入されたバンドウイルカが53年5月に出産した.交尾個体,種名は不明である.この水槽内繁値イルカを57年9月に母親から分離し,10月に訓練を開始した.
訓練は,握手,ツイスト,鳴き,鐘ならし,垂直ジャンプ,回転, 背泳,尾鰭振り,ハードルジャンプをこの順に開始した.他の野生のイルカとの訓練所要時間を比較すると,水槽内繁殖イルカのそれは短かく,半分以下の43%で済んでいる.回転, 背泳,尾鰭振りが特に早く終っているが,これは訓練開始以前からそれらのトリックを知っていたものと思われる.ただし訓練は通常のプロセスを踏んで行ない,偶然の機会をつかまえて条件付けたものではない.
訓練開始後,大幅な体重の減少がみられた.原因は色々と考えられるが明確には分っていない.給餌量は漸増したが効果は見られなかった.ただし訓練開始後より餌の嘔吐がみられ,実摂餌量は給餌量よりかなり下廻わると推定される.この異常行動は種々な処置にもかかわらず現在も良化していない.
8.鴨川シーワールドにおけるオーストラリアアシカの繁殖:鳥羽山照夫,清水 宏,〇荒井一利(鴨川シーワールド)
鴨川シーワールドでは昭和56年8月31日,オーストラリアアシカの雄の新生仔の出産を認め,現在順調に成育中である.この種の飼育下における繁殖としては世界で初めてのものである.この繁殖と成育経過をまとめると以下のようになる.
1.交尾は昭和55年2月22日に確認され,その後の確認が無い為,妊娠期間は18カ月と考えられる.
2.分娩は後肢より行われ,開始後4時間22分で終了し,後産は出産1時間50分後に排出された.出産17時間後に初めての授乳が行われ初摂餌は174日令であった.
3.出生時の体長は60cm,体重は7.2kgであり,17ヵ月後には,体長120cm,体重45kgに成長した.
9.カリフォルニアアシカの繁殖について:伊藤年成(新潟市立新潟水族館)
当館では1970年11月3日よりアシカの飼育を始め,1971年4月9日購入(愛称ラッキー).10年間ひとりぐらしをしていたが,1982年6月5日出産した.父親は1981年2月19日購入「1977年6月15日京都動物園で誕生,京都27号」である.
1)飼育環境:プール9.0m×5.6m×水深1.8m,水量90.72トン,地下水,水道水使用,2時間1回の戸過循還.年間最高最低気温32.5°C~0.4°C,水温30.0°C~4.5°Cである.ステージ上の産室入口巾60cm,高サ80cm,産室床60cm×180cm,面積0.0108㎡である.
2)餌料・餌料としてはホッケを主食とし,他にアジ,オオナゴ,サバ,ハタハタ,マイワシなど与え,給餌方法として一定時刻に直接手より4~20kg/日摂餌した.
3)出産と育子:6月3日午後よりステージ上の産室にはいる.
6月5日午前8時00分出産確認する(午前9時30分仔の鳴き声,5分間哺乳する)胎盤350g,性別オス.
1日令:任の臍帯とれる.4日令:仔の目開く.14日令:仔始めてプールで泳ぐ.111日令:仔,物に興味を示すようになる.192日令:仔,餌をもてあそぶようになる.213日令:生後6ヶ月目初めてホッケ1匹食べる.228日令:仔の体重41kg.254日令:仔ホッケ20匹以上食べる(1日約2.0~2.5kg).
4)離乳食:離乳食としての餌はホッケ,ニギス,ワカサギを与え,特に細かくきざんだ魚を与えなかった.今回すんなり乳離れに成功したのは母親,父親が食べるホッケを食べ残すほどに給餌し,残りの餌をもてあそびながら食べるのを覚えたためとおもわれる.
10.カルフォルニアアシカおよびアフリカオットセイの体重と給餌量について:五十嵐弘一(南紀白浜ワールドサファリ)
当園では,昭和55年3月より,アシカ,オットセイについて,毎月2回1日と16日に体重測定を行ない健康管理に役立てている.当園における,昨年1年間の体重測定の結果より,給餌量と体重の変化について報告した.
1.春から初夏と冬場に体重の増加がみられた.特に春から初夏は高い値を示した.この時期は給餌量の多少に関係なく体重増加の傾向がみられた.
2.夏場に体重の減少がみられた.この時期も給餌量の多少に関係なく減少の傾向がみられた.
3.春から初夏の増加の傾向にあるときは,給餌量を減らしても,影響はみられず,増加の傾向がみられた.
4.夏場の減少の傾向にあるときは,給餌量を減らすと,すぐに影響がみられ,多くしても,もとにはなかなかもどりにくいようである.
11.当館におけるバイカルアザラシの飼育経過について:毛利正明,三橋孝夫,木下敏玄(サンシャイン国際水族館)
1982年6月10日,♂2個体,♀2個体を購入し,飼育展示を行なう機会を得た.7月1日より一般に公開され,現在まで全頭共に健在である.これらの飼育期間を通して,バイカルアザラシの飼育経過を報告する.
●収容時4頭共状態良く,すぐ餌付づき順調に餌の増量を行なう.
●収容時の体重は20kg(♂),19kg(♀),15kg(♂),14kg(♀)であった.
●一般公開用の展示プールは5m×2m×1.1mHで水量約10t,前面アクリルガラス張りのコンクリート水槽である.
●飼育水温は15~16°C,室温20~23°C,湿度50(冬季)~80%(雨時)
●与える餌は,当初小アジのみであったが,12月13日より,アジ,サバの複合餌とした.
●摂餌率は体重増加に合せ多少の変化はあるが4~6%である.
●通常の体温(直腸温)は36°C~37.5°Cくらいと考えられる.但し,測定時の個体はそれまで水中にいたものである.
12.日和山遊園におけるゴマフアザラシの調教経過:高岡潤子(日和山遊園),鳥羽山照夫(鴨川シーワールド)
1982年12月現在トド2頭,オタリア2頭,ゴマフアザラシ4頭を飼育し,これら動物の調教も試み,1982年7月20日より,三種合同のショーを公開することができた.このショー公開するまでに完成したアザラシの種目は19種目となった.また, これら種目は種類による特徴的形態や,特有の自然行動を示した種目が,ほとんどである.アザラシのショーは十分なる馴教を試みることにより,他種動物との合同ショーを完成することも可能と考えられた.当館では比較的安定したショー公開を行なってきたが,特に他種動物や環境への馴致及び,健康管理には十分に心掛ける必要があると思われた.

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