第38回水族館技術者会研究会

発行年・号

1994-35-03

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期

所 属

執筆者

ページ

93〜100

本 文

広島市安佐動第38回水族館技術者会研究会

Ⅰ.開催日時:1993年11月11日,12日,13日
Ⅱ.開催場所:国営沖縄記念公園水族館・万座ビーチホテル
Ⅲ.参加者:52園館102名(総裁殿下,日動水協事務局2名他)
Ⅳ.研究発表:25題,題名,発表者,要旨は下に掲載
Ⅴ.宿題調査報告:「活魚輸送について」の予定だったが実施されなかった.
Ⅵ.懇談事項:
1.ミドリイガイ調査結果について(江ノ島水族館)
2.次回宿題調査のテーマについて
「活魚輸送について」(東京都葛西臨海水族園)
3.次期開催場地について
平成6年度 登別マリンパークニクス
平成7年度 宮津エネルギー研究所水族館
Ⅶ.施設見学:国営沖縄記念公園同水族館熱帯ドリームセンター,首里城

第38回水族館技術者研究会発表演題および要旨
○印は演者を示す

1.八重山諸島黒島における造礁性サンゴの産卵について:御前 洋(串本海中公園センター)
沖縄県下は美しい珊瑚礁に囲まれており,サンゴの分類・生態について数々の報告例があるが,それらの産卵生態については沖縄本島での報告が主で八重山諸島では少ない,そこで八重山諸島の一つ黒島において,造礁性サンゴの配偶子放出について満月及び潮汐との関係について調べてみた.調査期間は1991年4月30日から1993年8月20日までの内105日間で,サンゴの産卵が予想される満月の夜の満潮時前後2時間,スキューバダイビングで行った.調査海域は2カ所,Acropora属を主体に約60種が生息する周囲150mの暗礁と,Montipora属を主体に約50種が生息する礁池内の暗礁で,産卵確認群体にはタグを装着した.
1991年から1993年までの3年間で産卵が確認できたのは28種,その内3年間継続して産卵が確認できた種は,ハナバチミドリイシ,クシハダミドリイシ,ムギノホミドリイシ,ハナガサミドリイシの4種であった.またムギノホミドリイシを除く3種はタグによるマーキングの結果,3年間同一群体が産卵していることを確認した.
さて産卵結果を満月から配偶子放出日までの経過日数.および満ち潮時から配偶子放出開始までの経過時間について調べたところ,満月の数日後の,夜の満ち潮時の前後1時間以内のものが多いこと,また八重山諸島黒島では,5月の初旬から中旬にかけての満月の後にサンゴの産卵が始まることがわかった.

2.特異な無性生殖を行うウミアザミの1種 Efflatounaria sp.(ウミトサカ目)について:
今原幸光(和歌山県立自然博物館)
ウミアザミ科のEfflatounaria属は,「分岐した枝状部と,共肉中に退縮するポプリを持つこと」を特徴として,今までにオーストラリアから3種記録されていた.最近南西諸島で採集したウミアザミ類中に,既知種と異なる3種が見つかったが,これらは,群体の増殖方法から,次の2グループに分けられた.
一つは,群体基部の周辺から伸びた走根上に,新たな嬢群体が発生する2種であり,他方は,ポプリをつけた枝状部があたかも走根のように伸長し,そこに新たな嬢群体が発生する1種である.ウミアザミ類では,前者のケースは比較的よく見られるが,後者のケースは,ほとんど知られていない.
一方,イスラエルのGoharは1939年に本属を提唱する際に,E.tottoni Goharの原記載中で,「枝状部から伸びた若い枝は,新たな嬢群体の発生につながると考えられる」と述べている.また,1985年にはオーストラリアのDinesenが,本属の1種(種不明)について,枝状部に発生した嬢群体が次々に独立して,やがて広い範囲に広がる様子を報告している.これらのことから,「枝状部から嬢群体が発生する」という繁殖形態は,本属の特徴の一つとして考えるべきである.
なお,既知種中でE.tottoni Gohar以外の2種は,この特徴が不明であるので,今回の前2種と併せてさらに検討を行い,別属を立てる必要を考えている.

3.シロボシテンジクザメの産卵と孵化について:
○三木徹・湯浅義明・津田英治(姫路市立水族館)
当館でシロボシテンジクザメの雌雄各一尾を飼育していたところ,1992年及び1993年に産卵が観察された.
卵殻の形状はゆがんだ長方形をしており,長辺の一方には柔軟で弾力性に富んだ繊維状付着系が発達していた.
水槽内に擬似海草を配置した場合には,海草基部に付着糸を巻き付けて産出し,海草が無い場合には底砂中に産出していた.卵殻の大きさは長さが約10cm,幅が約4.5cmであったが,1993年の卵殻がやや大きい傾向にあった.
産卵期間は1992年では3月4日から5月22日まで続き,計10卵が産出され,1993年では1月16日から4月12日まで続き,計26卵が産出された.産卵は6日毎に2卵ずつ産出される場合が最も多かった.
1992年の卵は全て孵化せずに終わったが,1993年の卵は26卵中13卵の発生が進み,最終的に7卵が孵化に至った.孵化日数は110~135日で,積算温度は2530~2989℃であった.孵化仔魚は平均全長15.5cm,平均体重16.6gで,孵化1日後からイカ及び貝のミンチを摂餌した.3カ月後には全長で約2倍,体重で約8倍に達した.性比は雄2,雌5であった.
本種の卵殻の形状及び孵化日数を他の卵生サメ類と比較すると,テンジクザメ目のトラフザメと共通性が示された.

4.メジロザメ類の槽内繁殖について:
内田詮三・亀井良昭・○照屋秀司(国営沖縄記念公園水族館)
国営沖縄記念公園水族館では1977年~1993年の間にメジロザメ科の3種.ネムリブカTriaenodon obesus,ヤジブカCarcharhinus plumbeus,オオメジロザメCarchartinus leucasの繁殖例を観察することができた.例数はネムリブカ8回,ヤジブカ4回オオメジロザメ2回であった.
新生子の出産体長及び1腹の産仔数はネムリブカ:5969cm,1-4尾,ヤジブカ:60-70cm,6-10尾,オオメジロザメ:62-87.5cm,7-8尾であった.
ネムリブカ,オオメジロザメについては交尾行動を観察した.分娩の状況は,ヤジブカ,オオメジロザメについて確認し,尾を先,腹側を上にした胎位が正常であることがわかった.
交尾,交接傷痕の観察からの推定妊娠期間はネムリブカ392日-405日,ヤジブカ約400日,オオメジロザメ約540日であった.
産出直後の新生仔の行動は,ネムリブカでは底面を泳ぎ,直ちに擬岩内に隠れた.ヤジブカでは直ちに水面へ上昇し,オオジロザメでは底面を泳いだ,擬岩の存在しない同一のプール内であり,この2種の新生仔の行動の差異は何を意味するか明確ではない.
ヤブジカの子はオオメジロザメに捕食され,後者の仔は前者に捕食された.産出新生仔の「正常率」はネムリブカ:84%,ヤジブカ:58%,オオメジロザメ:47%であり3年後の新生仔の生存率はネムリブカ:79%,ヤジブカ:56%であった.これらの相違は沿岸性の強いリーフ内住人のネムリブカの方がより沖合性の強い.後2者より槽内適応度が高いことを示していると思われる.

5.ハガツオの産卵と卵内発生およびふ化仔魚:
舟尾隆(東海大学海洋科学博物館)
当館の展示水槽(容量600t)に現在飼育中のサバ科魚類4種類のうち3種類の産卵行動,卵内発生,ふ化仔魚等を観察することができた.そのうちハガツオについて報告する.
産卵は1993年4月3日より同年6月15日まで1日1回観察された.産卵行動は大別すると産卵15~30分前に雄1尾が雌1尾を追従するような遊泳行動を示す.その後,雄が雌の排泄こう付近に助端を近ずけた状態の遊泳がみられるようになり,その状態での回転遊泳行動が始まる.そして,回転遊泳行動の遊泳速度が上がり,一対となっている雄をはさみこむようにして他の雄が雌を追従するようになり,放卵放精が行なわれる.そのような産卵行動がほぼ同時に数グループみられる.
受精卵は直径約1.1mmの無色透明の球形分離浮性卵で,10数個の油球が認められる.産卵後約42時間でふ化が始まった.ふ化仔魚は全長約3.4mmで,体全体が幅広い膜鰭でおおわれている.黄色素胞が卵黄のう上,体幹部,膜鰭上に多数認められる,ふ化16時間後には樹枝状黒色素胞が膜鰭の上下縁で認められるようになる,ふ化約36時間後には口・肛門が開き,眼が黒化している.以後ふ化164時間後まで観察できた.

6.天然記念物ネコキギの産卵行動及び繁殖経過について:
前畑政善(滋賀県立琵琶湖文化館)・川辺良一・佐野 淳・○里中知之(志摩マリンランド)
1992年9月に岐阜県美濃加茂市の川浦川の河川工事に伴って緊急保護されたネコキギを移管し,飼育を行ってきたが1993年6~7月にかけてホルモン剤注入による人工繁殖を試みた結果,水槽内での産卵行動と繁殖について二,三の知見を得ることができた.
産卵水槽に底面濾過装置を施し,多くの石を入れて,シェルターを造り,ここへホルモン剤注射した雌雄を収容した.産卵は雄が石の下に縄張りを保ち,そこへ雌を誘い込んで行なわれた.雌の頭部を雄が包み込み,続いて雌がその体を反転させた時に卵が放出された.放卵放精はホルモン注射後10~8時間後(多くは24~36時間後)であった.
1993年7月13日産卵水槽(90×45×45cm)にホルモン剤を注入(10UT/1g魚体重)した雌雄1ペアを収容した.7月14日夕刻,約350個(卵径約1.5m)の産卵を確認した.そのうち石に付着した卵250個をエアレーションを施した水槽(60×30×30cm)へ移動し,7月15日,160個体(全長約4.3mm)が孵化した.飼育過密を避ける為,別の3水槽(60×30×30cm)に移動したが,7月18日全て死亡した.しかし,産卵水槽に残っている卵があり,親と共に冷凍赤虫(ユスリカの幼生)を餌に飼育していたところ,7月26日稚魚が全長約1.5cmに成長しているのを確認した.全長約3cmを越えた頃より,2水槽に分散し,飼育を試みた.現在は全長5cmを越えた約40個体を飼育している.

7.メコンオオナマズの輸送と飼育経過について:
甲斐宗一郎・○田中代士郎・田中博文(長崎水族館)
メコンオオナマズPangsius gigasは,東南アジアのメコン河のみに分布し,全長3m,体重300kgに達する世界最大級の淡水魚として知られている.1992年7月1日,メコンオオナマズが6尾搬入した.全長35~110cmで,タイ政府より寄贈された.国外より大型魚を運搬したのは当館では,初めての経験であるのでその輸送と飼育について報告する.
1,輸送:全長35~75cm,4尾をパトンタニ水産センターでポリエチレン袋に酸素詰めにし,チャイナ水産センターで100~110cm,2尾をビニロンターポリン製の袋に入れて,乾電池のエアーポンプで酸素補給と簡易濾過をして運搬した.水温は30℃から25℃に下げた.輸送時間は,魚を梱包する時間も含めて,当館の水槽に収容するまでに約16時間を要した.
2,飼育:水槽は一辺2.2mの八角形,水深1.2m.水量20t.水温26~31℃.pH7.2~8.5.搬入後14日まで衝突防止用に水槽壁面の内側にポリエチレン製のシートを張った.餌はコイ用とウナギ用配合飼料を混合し,ビタミン剤を添加して水で練って団子状にしたものを与えている.現在は全個体が摂餌しているが,餌付くのに搬入後90日も掛かった個体がいた.小型魚と中型魚の成長度が良い,水槽内での活動は昼間と夜間で差は認められず通常はゆっくりと遊泳していて,水槽の底に静止することはない.

8.ウンバチイソギンチャクの生態とその被害:
内田紘臣(串本海中公園センター)・○新城安哲・富原靖博(沖縄県公害衛生研究所)・下地邦輝(沖縄県環境保全課)
ウンバチイソギンチャクPhyllodiscus semoniはカザリイソギンチャク科の1種で,Kwietniewski(1897)によって報告されているだけである.1989年沖縄県内において本種の刺傷例が発生し,大きな問題となった.
大きさは直径2.5~20cm,色は灰白に薄紫色や緑色が点在しており,一見真綿状である.上部全面を多数の褐虫藻が覆っており,光合成をするのに都合がよいと思われる.刺激すると口盤から数10本の触手がとび出る.単独で岩などに付着している場合と多数の群れになっている場合がある.下部は足盤になっており,水槽の中ではガラス面に付着して移動する.1個体だけ水中を漂っている個体が観察された.
主な生息場所はいずれも波当りの静かなリーフの内側の礁地(イノー)であり,礁縁より外側では見つかっていない.
9例の被害は沖縄島とその周辺で発生しており,5月より9月に集中している.刺傷時には激痛があり,患部の腫脹,疼痛は激しい,部位は直径2~3mmの赤色の班点状の小丘疹が多数融合し,紅斑をなす.治療期間は最長1年半であり,重症者の治療に長期を要しているのが特徴といえる.
ほとんどの被害者が気づかずに刺されており,今後も被害発生の可能性が高い,抗血清を含めた新しい治療の確立,予防,啓蒙と毒性や生態の研究が急務と思われる.

9.スナガニ科チゴガニ(Ilyoplax pusilus)の調査と展示:
○鈴木正勝・安永正・入江淳子・二見武史・三谷則子(サンシャイン国際水族館)
当館では神奈川県三浦半島江奈湾の干潟に於いて1993年5月より,毎月1回10月までの計7回スナガニ科チゴガニの調査を実施した.調査は採集で得た個体の甲幅を測定し,また雌雄の判別雌の抱卵とその発生段階を発眼卵,未発眼卵に分け観察した.その他に巣穴の形状調査や底王温度測定も実施した.今回の調査で得たデータによると,6~8月に抱卵個体の出現が多数見られ本種の繁殖期は春〜夏であると推定される.
また,5月より飼育実験を開始.飼育設備は水槽底面に多孔管を敷き,吹き上げ循環方式を採用,干潟の干潮を市販のタイマーをポンプに取り付けて再現した.
これ等の調査と飼育実験で得たデーたを基に,8月より本種の展示を開始した.

10.当館において新たに確認できたウミウシ4種の餌と飼育状況について:
西村昌純(下田海中水族館)
1978年10月より当館で飼育したウミウシ類は,12科37種437点である.そのうち計5科7種の摂餌を確認しているが,今回新たに3科4種の摂餌を確認した.ドーリス科のミアミラウミウシはザラカイメンの一種を,ハナサキウミウシ科のヒカリウミウシ・ベッコウヒカリウミウシとフジタウミウシ科のフジタウミウシは,フサコケムシを摂餌した.
ミアミラウミウシは採集される個体数が少なく,今回は詳しいデーターが取れなかったが,ベリジャー幼生は50日間も浮遊していたため,さらに研究が必要と考える.
ヒカリウミウシ・ベッコウヒカリウミウシは,フサコケムシ以外にもアミエビやオキアミ,自分の卵を摂餌する行動が観察された.この二種類は他のウミウシに比べて体が柔らかく,オーバーフローのトリカルネットの目3mm×3mmに体の一部を吸い込まれるなど事故死が目立つため,排水口などの改善が必要である.フジタウミウシは体が極端に小さく目立たないため,飼育方法の改善が必要である.
補足として,以前から重点的に飼育しているニシキウミウシは今まで29個体飼育したが,1990年5月13日に採集したNo.25の飼育日数は655日間で,今までで最高の飼育日数である.No.25は5回産卵が観察されたが,今まで飼育したニシキウミウシでは,産卵回数が0にもかかわらず飼育日数が50日にも満たない個体がいるため,産卵回数と死亡原因はあまり関係がないと考えられる.

11.淡島周辺で採集されたタテジマウミウシ科3種の食性:
○赤塚賢二(淡島マリンパーク)
アワシマオトメウミウシ,ハナオトメウミウシ,ホソジマオトメウミウシのタテジマウミウシ科の3種は,淡島周辺では,水深20m付近でよく確認される後鰓類である.1991年9月から1993年10月の間,スキューバ潜水により3種を採集し飼育展示を目的として食性などについて調査した.潜水による目視観察では,3種とも刺胞動物のヤギ類に付着している事が多く,付着部分は,共肉がなくなり,骨軸の露出が見られ,この部分を摂餌していると思われた.これらのウミウシ3種とヤギ類を水槽に収容して,観察および排泄物について検鏡し,摂餌の有無を調べた.
水槽内の観察では,ウミウシ3種の摂餌行動が見られ,排泄物からは,付着していたヤギ類の骨片が観察された.この3種のウミウシは,それぞれが,重複することなく決まったヤギ類を摂餌していると推察された.また,ハナオトメウミウシからはヤギ類に付着している海綿類とそれ以外の生物についても,摂餌の可能性があると推察された.
潜水観察によると,ウミウシ類の食害により死滅したヤギ類の群体は見られない,複数のウミウシが数種のヤギ類を食べわけているために,ウミウシの摂餌量が適正に保たれているものと考えると興味深いものがある.

12.大型水草水槽「緑のオアシス」について:
山口喜行(江ノ島水族館)
当館では本年1月より「緑のオアシス」と名付けた大型水草水槽の展示を開始した.水深が浅く,周囲と水面上方を開放した水槽は従来の水槽とは趣の異なる親しみにあふれたものとなり,老若男女を問わず幅広い観客層から好評を博している.こまめな管理を必要とする水草水槽としては,水底までピンセットが届く範囲に水深を抑えることが望ましく,そのことにより水草の成長に必要な光量が底部にまで十分到達し,また占有面積の割には水量を押さえられる為,水草栽培の重要なポイントとなる換水量と施肥料も少なくてすむというメリットをも合わせ持つことになる.
半面,適正な育成環境を与えられた水草は驚異的な成長を示し,これを管理するスタッフは浅いが故の頻繁なトリミング作業を強いられ,作業性と作業量とが反比例するという皮肉な結果を招くことにもなった.また水草の配置を考える上では水銀灯を照明装置として用いたことによる水草の巨大化や色合いの変貌に大きな戸惑いを覚え,要求光量の異なる個々の水草の組み合わせにも様々な工夫が求められた.夏季には水銀灯の持つ膨大な放熱量による水温上昇が起こり,対応に追われると同時に水槽環境の急激な変化とそれに敏感に反応する水草の脆弱さを知るところとなった.

13.屋内水槽に展示したオオウキモMacrocystis pyriferaの生長について:
桶田俊郎・○池口新一郎・幸塚久典(のとじま臨海公園水族館)
のとじま臨海公園水族館では,今春完成した新規施設「海の自然生態館」内の屋内水槽にて平成5年3月よりオオウキモ(Macrocystis pyrifera)の育成展示を行っている.今回は水槽内における本種の伸長及び水槽環境を調査した結果をまとめ報告する.屋内水槽:450㎥(12.05×5.0×6.8)は,密閉式ろ過槽(30㎥)2基を備え,130ℓ/分の自然海水を常時給水している半閉鎖式循環水槽で,循環水の回転は12回/日である.水槽の天井面はガラス張りになっていて自然光の採光が可能である.又,上部にはピストンが上下して水流を起こす造波装置があり日中,作動している.水質測定は適時行い,照度も含め記録した.搬入した10藻体は人工基盤に固定して水底等に植えつけ,その後の伸長を調べるための藻体の全長を測定した.又,6月中には水面近くの壁面等に本種の自生藻体が出現したので同様の測定を行ない,内一部を水底へ移植し伸長の違いを調べた.
搬入藻体及び自生藻体の成育は,ほぼ順調で一日当りに換算して,最高22.3cmの伸長が見られた.搬入藻体の伸長及び自生藻体の出現が見られた理由としては,自然光と人工光による採光及び水の流動,流向が適切であったこと,自然海水を常時供給できるという立地条件に恵まれたこと,さらに本種に危害を加えない同居生物の選択などを心掛けたことなどの条件が整ったためと推定している.

14.飼育下におけるマンボウMola mola体表面に確認された繊毛虫類とその処理例:
○榊原 茂・中平俊之・金銅義隆(鴨川シーワールド)
当館で1992年11月から1993年6月までの間に搬入し,飼育されたマンボウ14個体の内5個体の体表面にトリコジナ属の1種と白点病原虫様の繊毛虫の寄生を確認した.この内3個体についてゲンチアナバイオレット4%チンキの患部塗布とトリクロルホン浴治療を試みた.
トリコジナ属の1種は主に眼部に寄生し,マンボウは眼瞼を閉じる動作を頻繁に行い,やがて眼球の白濁から失明に至っている.白点病原虫様の繊毛虫症は体表のスレ部を中心に急激に増殖し体表全体に広がり,本駆除処置実施前の羅病マンボウについてはこの繊毛虫の寄生により約2週間から20日間で斃死している.
ゲンチアナバイオレット4%チンキによる患部への塗布はこれらの繊毛虫類の駆除に効果的であるが取り揚げ保定時の魚体への影響が大であった.トリクロルホン処置は0.5ppmより1ppmの使用において効果が認められた.取り揚げ時のストレスのような負担は発生しないが,毒性についてはその使用環境により異なるため充分に考慮しなければならない.
不十分な水量と過密度がIchthyobodo(=Costia),TrichodinaおよびScyphidiaのような原生動物性外部寄生虫の発生を促すと言われているが,収容密度は魚体重1.16~1.35kg/tonであり水質面,管理面の問題はないと考える.また同一循環系で飼育している他魚類には寄生虫が見られなかったことから,これらの繊毛虫はマンボウに特有の寄生虫と考えられる.
マンボウに寄生していた繊毛虫類の種同定は現在作業中であり判明していない.

15.ゴンズイのエドワジェラ症について:
葛西啓史(神戸市立須磨海浜水族園)
当園では,Edwardsiela tardaによる感染症を,ゴンズイによって初めて確認することができた.
平成3年5月に当園で産卵・孵化したゴンズイ130尾を,飼育・展示していたところ,翌年の3月上旬から死亡する個体が出始めたため,7月上旬まで3回に分け断続的に治療を行った.その結果,最終的には23尾が生存した.
死亡した個体は,外部的には肛門と鰓蓋部に発赤・点状出血・びらん・潰瘍等が,さらに内部的には,肝臓・腸等の軟化・融解が多く見られた.
生化学的性状検査と抗血清での診断の結果分離された細菌はE.tardaに同定され,これらのことから本症例は,同菌の感染によって発病したものと推定された.
治療については,試験的にニトロフラン剤やサルファー剤による薬浴と,抗生物質による経口投与を併用したところ死亡を抑える傾向が見られた.しかし,水温・収容密度・使用海水・換水量等の治療条件やゴンズイの生理的な条件も一定でなかったことから,治療については,これらの条件を統一し再検討する必要があると思われる.
なお,生存したゴンズイのペアーによる産卵が平成5年6月に認められた.

16.海水性白点病の無投薬予防と治療法について:
花崎勝司・○野中正法・戸田 実(国営沖縄記念公園水族館)
当館では,1992年7月より翌年7月までの1年間,硫酸銅,ホルマリン等の薬品を一切用いず,白点病の予防及び治療を試みたので,その方法と成果について報告する.
海水性白点病の原因となる原虫(Cryptocaryon iritans)は,水底や壁面でシスト(被嚢体)を形成することが知られている.このシストの底面への定着を防げることを目的として,「底こすり」「底砂吸出し」「底砂吹き付け」などの予備実験を試みた.実験は200ℓ(90×50×45cm)の予備水槽で,解放式(注水量17ℓ/min)にて行った.そして,底砂に海水を吹き付けて砂を撹乱する「底砂吹き付け」法が最も効果的との結果を得た.そこで,実際に展示水槽(90×50×45cm,解放式,注水量17ℓ/min)にて本実験を行った.
結果,この方法を毎日行うことにより,ミスジリュウキュウスズメ,ネズスズメ,ルリスズメ,ムラサメモンガラ,ヤマブキベラ等の魚類18種51点と,コエダミドリイシ,エダコンモンサンゴ,ヒラウミキノコ,フトユビシャコ,ハナウミシダ等の無脊椎動物17種24点を飼育しつつ,前述の1年間白点病による死魚の発生を抑えることができた.ただし,水温が21℃台に低下した1993年の1月頃から体表上の(注)白点が脱落しにくくなったので,ヒーターによる加温(22.5~23.0℃に設定)を同時に行い.4月8日には完治した.
薬品を用いない事で,魚類と無脊椎動物や植物との混合飼育が可能となり,より自然に近い環境や飼料を供給することができる事になった.今後は,展示や,飼育下での行動観察などによりよい効果が期待できそうである.
(注):死魚が出なかったため,Cryptocaryon irritansに因るものかどうかは不明,今後の課題として,生存中の魚体からの,原虫の確認方法の確立が必要である.

17.京都大学白浜水族館改修内容の概要:
○志賀忠一・田名瀬英明・太田 満・樫山嘉郎・津越健一・山本泰司(京都大学白浜水族館)
京都大学白浜水族館では平成4年10月から平成5年7月までの間に,第3・4水槽室の水槽設備更新を主とする改修工事を行い,平成5年8月1日から公開を再開した.
第3水槽室は実験的な飼育を展示に結び付けようという試みで,6槽の小型展示水槽と大小10数個の予備(実験)水槽よりなり,その合計水量は約18トンである.
第4水槽室は,前半に無脊椎動物および魚類の生態展示水槽8槽,後半に魚類の分類別展示水槽11槽よりなり,その合計水量は約112トンである.海藻類や無脊椎動物と魚類を共存させる3槽は,自然採光ができるようにした.
すべての水槽は常時循環式で維持されているが,必要に応じて開放式の併用または専用が可能である.5面の濾過槽はデイスクストレーナーを用いた重力式緩速濾過貯水槽4槽の水量89トンを加えた総水量219トンの海水循環系は,水槽の飼育目的に応じて4系統に分けられている.第1系統は冷水性動物用に周年15±1℃,第2~4系統は温帯・熱帯性動物用冬期20±1℃,夏期26±1℃の水温設定で,その加熱・冷却は空冷式ヒートポンプによる.
この改修の機会に,飼育展示動物の配置や展示方法を改め,臨海実験所の附属施設として,教育効果をより高めるように配慮した.

18.排水処理槽を通過する海水の水質変化について:
高田浩二(海の中道海洋生態科学館)
水族館における飼育海水の排水処理については,近年,沿岸海域のみならず地球環境問題ともあいまって,重要な課題となっている.また昨年度の本研究会宿題調査でも,多くの園館において「沈殿槽」「濾過」「薬品処理」等,様々な方法で処理が行われていることが報告されている.
海の中道海洋生態科学館では,平成元年4月の開館時より,186㎥(186㎡×1m)の排水沈殿槽を地下に設置し,海水排水の沈澱処理を行っている.
本研究では,平成3年4月より11月までの間,取水より排水までの間の5地点で海水採水を行った.その中で特に,排水沈殿槽内を通過する海水の水質変化に注目し,水温,pH,DO,アンモニア態窒素,硝酸態窒素,リン酸態リン,アルカリ度,塩分量等,10項目の水質検査を行った.
その結果,沈澱処理槽は,pH値を上げることはできないが,アンモニアやリン酸を分解する能力があることが確認された.また全般の水質においても,水産用水基準(日本水産資源保護協会)を下回り,加えて,環境庁の排水基準もクリアーしていた.
従ってこれらの調査から,沈殿処理槽による排水が,周辺海域の環境に影響を与えていないことが示唆された.

19.ガリバルディHypsypops rubicundusの初期飼育:
○吉田朋史・小野真由美(大阪・海遊館)
当館では,1990年7月よりガリバルディを飼育展示しており,1991年3月頃,第1回目の産卵が確認された.そのため1992年1月より繁殖を目的として飼育を試み.1993年1月26日に採卵したうちの1個体が現在でも飼育中である.今回は,その飼育期間中に得られた多少の知見と卵及び仔稚魚の形態とをあわせて報告する.受精卵は,長径約1.4mm,短径約0.8mmの沈性付着卵で長軸の一端には付着糸叢を持ち,十数個の油球が認められた.孵化直後の仔魚は,全長約4.15mm,既に口及び肛門は開口しており,黒色素胞も認められた.また,孵化翌日よりシオミズツボワムシ(以下ワムシ)の摂餌を開始した.孵化後16日目,ワムシとアルテミアのノープリウス幼生(以下アルテミア)の併用給餌を試みたが,約3日目より消化不良のため,1度アルテミアの給餌を中止し,孵化後46日目,再びアルテミアの給餌を開始した.体は一様にオレンジ色となり,鰭条数は定数に達していた.孵化後約3カ月,頭部付近が青みがかった暗色となり,ワムシ・アルテミアの他に魚卵なども与え始めた.孵化後約4カ月,頭部に青色の縦線が出現し,その後,体側に青色の斑紋も認められるようになった.餌は主に魚卵・エビの卵を与えた.現在,孵化後9ヶ月を経過し,全長約5cm,青色の縦線は分断し斑紋状となり,体側に数十個の青色スポットが出現している.

20.海産ペヘレイの飼育:
○山田一男,茶位潔(京急油壺マリンパーク)
ペヘレイは現在8種が知られ,その内淡水種の一部はわが国に移植され,増殖が行われている.ここに報告したものは海産種で,1991年10月に孵化稚魚約3000尾が入館した.200ℓの円形水槽2槽に収容して新鮮海水の注入による開放飼育とした.この内約1000尾を1992年2月に展示水槽(循環式水量2t,水温22℃)に移動した.開放式および循環式水槽の2群をA,Bとして,環境の異なる両群の飼育経過を比較した.A群は開放式のため飽食するまで投餌が可能で成長もよいが,水温が18℃以下になると動作が緩慢となり摂餌量が低下した.B群では濾過機能がやや劣るため,投餌量は抑制的であった.餌料は成長に伴い適宜変更したが,嗜好性に顕著な選択性は認められず,動物性餌料なら何でも好食した.またB群ではウーディニュウム病の発症による死亡が数例みられたが,A群では1例であった.1993年11月現在,約300尾を飼育中である.

21.アカシュモクザメの周年飼育:
○荒井 寛・富澤 隆(東京都葛西臨海水族園)
アカシュモクザメSphyrna levini(シュモクザメ科)13尾を1年以上に渡り,飼育展示している.1992年78月に小笠原諸島父島の湾内で,全長50cm前後の個体.38尾を,夜間に釣獲し,一時蓄養した後輸送した.飼育以前に輸送が難しかったが,蓋付きの専用水槽を用いたことにより,輸送成績は向上した.これは,水槽内に水をいっぱいに満たし,水面に蓋をして,輸送中の水揺れを極力防止したものである.
飼育水槽は,水量200t(15×7×2.5Hm),丸みを帯びた半円形,底は平坦で砂が薄く敷いてある.水温24-26℃.オゾンを循環水に対して0.005g-03/㎥,7.5h使用している.ヨウ素を毎週0.026ppm添加している.
餌の多くは甲殻類で(60%以上),魚,イカ,アサリなども与えている.水槽内において眼や吻端部が,壁面やアクリル面,底面に接触し,擦過症となり,それが次第に悪化することは飼育上で最も大きな問題であったが,現在ではほとんど見られなくなった.本種を攻撃する大型サメ類を出したこと,水槽内の水流を消したこと,照明の照度や向きを調節したこと,底砂を敷いたことなどがそうした問題に効果があった.しかし,現在でもサメどうし,あるいは同水槽にいるトビエイ類と摂餌時に接触し,切端を痛めており,今後の課題である.また,以前より単生類の寄生が認められているが,展示水槽内では,致死的影響を受けた個体はほとんどいない.

22.日本初記録種のアミメトビエイAetomylaeus espertilioの捕獲:
戸田 実・内田詮三・○花崎勝司(国営沖縄記念公園水族館)
1992年5月13日,沖縄本島読谷の定置網で,日本初記録種であるアミメトビエイAetomylaeus bespertilio(体盤幅3.2m)が捕獲された.その後,1993年7月30日に同島漢那で体盤幅1.95mの個体,1993年9月20日に上記の読谷で体盤幅1.6mの個体があいついで捕獲され,合計3個体を当館に搬入し,黒潮の海水槽(27m×12m×3.5m1,100t)に収容した.いずれの個体も3日間という短い飼育期間であった.水槽内における行動は,遊泳,壁面およびアクリル面への衝突,水底への沈下を繰り返していた.しかし,急激な遊泳や,それにより激しく壁面に衝突することはなく,遊泳は非常にゆっくりとしていた.
本種は台湾の,鄧火土の論文で,体盤幅1.08mの個体によって記載されており和名アミメトビエイは鄧火土の命名である.本種は背面後方に黒色の網目模様が明瞭にあり,前方では不規則な黒線が横走し,特殊な縞模様を形成する.地色は黄色である.腹面は一様に白色である.形態的な特徴としては, 1)尾棘がないこと, 2)尾部が非常に長いこと, 3)噴水孔が側面に開いているため,上方からは見えないこと, 4)顎歯は一列で,前後に相結して歯板を形成していること,5)体表に小棘が密生しているため粗雑であることなどがあげられる.

23.太地沖(熊野灘)の深海性サメ類:
○柳沢践夫(太町立くじらの博物館付設マリナリュウム)
1977年より和歌山県太地沖の熊野灘から漁獲された海性サメ類と,同時に漁獲された水深200m以浅の底層域を基盤とするサメ類を含めた13科18属24種を紹介した.他の熊野灘海域から記録されている深海性サメ類と比すると,太地沖のみから記録されている種はカグラザメ,エビスザメ,ツラナガコビトザメ,オオメコビトザメの4種であった.ヘラザメ,フジクジラ,ヘラツノザメ,ユメザメ,アイザメ,モミジザメが太地沖,阿田和沖,尾鷲沖,紀伊長島沖とに共通した出現種で,志摩半島沖を含めた5海域の共通種であるカラスザメと合わせ,この7種が熊野灘では最も一般的な種である.現在,日本近海で熊野灘のみに出現している種はコギクザメ1種で,太地産の1個体が日本初記録個体であり,その後阿田和沖から2個体が記録されている.特に太地沖と阿田和沖からの出現種が多様であるが,両海域が30km足らずと近接していること,また,水深に差こそあれ他の熊野灘海域より比較的浅所に海底が形成されていることがその要因と考えられる.太地沖からのツラナガコビトザメ属2種の記録は,ウチワエビ漁というエビ刺網を用いた漁法によるところが大きく,底延縄や一般的な底刺網といった漁法での採集は難しかったと考えられる.他の熊野灘海域では記録されているが太地沖からは未記録の種も16種程見られるが,現在行われている漁法の水深をより深くすることなどにより,時間が解決するものと思われる.

24.渥美半島におけるアカウミガメ孵化幼体の性比とその予測の可能性について:
○黒柳賢治(南知多ビーチランド),亀崎直樹(京大・人間環境)
これまでに,日本産アカウミガメにおいてもTSD(温度依存性決定)が存在する事を確認し,その臨界温度は28℃から30℃の間にある事を明らかにした.今回,そのTSDが自然界ではどの様に影響しているかを調べた.愛知県渥美町日出及び堀切海岸(約2km)において,産卵・孵化シーズン中の1991年6月から9月まで,記憶式温度計により砂中温度を連続して測定し,その間約2週間間隔で産卵された6クラッチ分の卵から孵化した幼体の性化を調べた.性は各クラッチごとに,すべての孵化個体から無作為に30個体を選び,その生殖腺で確認した.その結果,メス率は6月7,20日産卵のクラッチでそれぞれ10.0,39.3%,7月7,16,30日及び8月7日産卵のクラッチで10.0,24.1,66.7,62.1%であり,産卵日が遅くなるに従ってメス率が増加する傾向が認められた.また性比は,孵化期間の日数及び平均砂中温度との間では相関はみられなかったが,孵化期間を6分割した最も初期において,一日の平均砂中温度が臨界温度である29℃以上になった日の割合との間に有意な相関(R=0.830,p<0.05)がみられた.これらの事から,孵化期間の砂中温度を連続して測定する事で,自然界での本種の性比をある程度予測できるものと考えられた.

25.エビ類の種と名称に関する歴史的考察:
山下欣二(町立宮島水族館)
古代から近世にかけて世に出た本草書産物帳,料理本などには,様々なかたちでエビ類の記載が見られる.それらの記述から当時のエビの名称,動物学的認識さらに分布などを推定することが可能である.演者は111点の古文献からこれらエビ類に関する記述を拾い出し,当時の動物学的認識について考察した.なお今研究会では演者の知り得たすべてを発表する時間的余裕がないのでウチワエビ科のみについて言及した.