シロボシテンジクザメの水槽内繁殖について

発行年・号

1994-36-01

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
(Reproduction of the White-spotted Bamboo Shark (Chiloscyllium plagiosum)in an Aquarium)

所 属

碧南海浜水族館

執筆者

増田元保,手島正広

ページ

20〜23

本 文

広島市安佐動シロボシテンジクザメの水槽内繁殖について

増田元保,手島正広(碧南海浜水族館)

Reproduction of the White-spotted Bamboo Shark
(Chiloscyllium plagiosum)in an Aquarium

Motoyasu Masuda and Masahiro Teshima
(Hekinan Seaside Aquarium,Aichi)

シロボシテンジクザメChiloscyllium plagiosumはテンジクザメ目テンジクザメ科のサメで南日本の太平洋沿岸から東シナ海,フィリピン,東部インド沿岸に分布していることが知られている6)9)
また,第39回水族館技術者研究会において産卵及び孵化について口頭発表がされている8).
筆者等は,碧南海浜水族館においてシロボシテンジクザメの交尾,産卵,仔魚について若干の知見をえることができたので,その概要について報告する.また,繁殖行動及び卵発生についての詳細は別に報告する予定である.

図1 胸鰭を噛み水槽内を遊泳する雌雄

材料と方法

1989年7月1日,雌雄1尾ずつの計2尾,および1990年6月3日雌1尾,6月23日雌2尾合計5尾を業者より購入した,入手時には40cm程の未成魚であったが1993年7月には全長71cm~84cm平均80.6cmにまで成長した.
飼育水槽は,水量約3.5㎥コンクリート製で,一面がアクリルガラスになっている展示水槽を用いた.展示水槽の中には,ヨスジフエダイ,アザハタ,メガネモチノウオなどが一緒に飼育されていた.また産卵個体の識別のため一時期他の水槽で1尾ずつ飼育した.
水温は自然界の季節変化に応じ加冷却装置でコントロールした.飼育水温は18.7~26.3℃の範囲であった.卵および孵化仔魚は,親魚と同じ濾過循環系の水量約0.5㎥水槽に収容した.
水質の管理は,毎月2回アンモニア態窒素,亜硝酸態窒素,Mアルカリ度,pH,塩分量を測定し適宜換水をした.

図2 水槽内で観察された交尾姿勢.左下♀・右上♂.

図3 発生中のシロボシテンジクの卵

結 果

交尾は1993年2月26日と5月22日に観察された.交尾行動は雄が雌を追尾し胸鰭に噛みつく行動から始まり,胸鰭を噛んだまま水槽内を泳ぎ回る行動が30分ほど観察された(図1).雄が胸鰭を噛んだまま体をくねらせ,クラスパーを雌の総排泄孔へ挿入し交尾が行われた(図2),約5分後,雌が雄を振り払うように大きく体を振るとクラスパーは総排泄孔から抜け交尾が終了した.
最初の産卵は1993年4月5日に確認され,翌日もう1つの卵が確認された.しかし卵黄がなく卵設も薄い未熟な卵であった.2回目の産卵は4月16日水槽内のディスプレイ用テーブルサンゴの下部に卵黄の無い卵が付着糸で巻き付けられているのが確認された.
5月12日産卵個体の識別のため個体ごとに水槽を分けて飼育したところ全ての雌が産卵していることが確認された.6月19日,34個目の産卵があり初めて正常な卵が認められた.8月9日までに合計90個の産卵があり,そのうち正常な卵は44個であった.正常な卵44個の大きさの平均は長さ99.4mm,幅43.7mm,厚さ20.4mm,重量26.6gであった.付着糸の長さは60~70cm程で最長のものは90cmを超えていた.普通,産卵は2個ずつ行なわれ産卵間隔の平均日数は6.7日であった.1個しか産卵されなかった場合も1~2日後には必ずもう1個の産卵が確認されている.
産卵された卵は,懐中電灯などで裏から光を当てると胚体のシルエットが見え,おおよその大きさと発生段階を知ることができた.
産卵直後の卵には胚の発生が認められなかった.産卵後1ヵ月目,4~5cmの胚体が確認された.2カ月目,胚体の大きさは7~8cm透明度の良い卵では体側に模様が認められた.3ヵ月目,10~12cmにまで成長し体色が黒くなりはじめた(図3).孵化直前,15~16cmまでに成長し,雄ではクラスパーが確認された.
1993年10月9日,初めての仔魚が孵化し,孵化日数は112日であった.仔魚の体色は親魚に比べ黒色で白黒のはっきりとした模様であった(図4).11月30日現在17尾が孵化し2個の卵が発生の途中にあり胚体は14~15cmにまで成長している.孵化した17個体の平均孵化日数は128.2日,平均全長163.2mm,平均体重10.3gであった.

図4 孵化直後の仔魚,

議 論

1989年と1990年にシロボシテンジクザメの未成魚を入手してから産卵までに3~4年が経過しており,全長70~80cm程に成長した4~5歳魚以上が性的成熟に達すると推察される.2月と5月に交尾が確認されたが,2例とも異なった時間に行われた.交尾行動は概ね既知のネコザメ3),トラザメ3),ドチザメ1),ネムリブカ5),オオセ3)と同様であった.また,トラザメやナヌカザメでは20~30日間隔で周年産卵することが知られている2)5)7)13).しかし,本種の産卵間隔は短く平均6.7日で産卵は4~8月に見られ春から夏にかけてが繁殖期であると推察された.
また,産卵個体を1尾ずつ別の水槽で飼育しても,4カ月以上受精卵が得られることから産卵の度に交尾するのではなくラブカ12),ヨシキリザメ10),アブラツノザメ4),ヤモリザメの仲間のGaleorhinus galeus 11),ナヌカザメなどで知られるように本種も数カ月精子を保存していると考えられる.
既知のシロボシテンジクザメ8)の報告例とは,繁殖期,孵化仔魚の重量について若干の相違が認められたが概ね一致していた.まだ発生中の卵もあり今後,孵化日数,孵化までの積算温度,孵化率,性比や仔魚の成長についてさらに調査したい.

引用文献

1) 萩原宗一,虻田 密,里見武義(1987):ドチザメの水槽内繁殖について,動水誌,30(1):29.(第32回水族館技術者研究会発表要旨)
2) 萩原宗一,蛭田 密,里見武義(1987):ナヌカザメの繁殖について,動水誌,30(1):29-30.(第32回水族館技術者研究会発表要旨)
3) 萩原宗一(1990):サメ・エイあれこれ,海のよこちょう(下田海中水族館),1988-1990(19):8-9.
4) 市川 衛(1976):新版基礎発生学概論,227pp.裳華房,東京.
5) 国営沖縄記念公園水族館(未発表):飼育下板鰓の現状把握と槽内繁殖,昭和62年度水族館技術者研究会宿題調査28pp.国営沖縄記念公園水族館,沖縄.
6) 益田 一,尼岡邦夫,上野輝彌,吉野哲夫編(1988):日本産魚類大図鑑(第2版).448pp.東海大学出版会,東京
7) 増田元保,亀蔦重範,手島正広(1992):雌のみで長期間飼育していたナヌカザメによる受精卵の産卵について.動水誌,34(1):1-3.
8) 三木 徹(1993):シロボシテンジクザメの産卵と孵化について.動水誌35(3):93-94.(第38回水族館技術者研究会発表要旨)
9) 中坊徹次編(1993):日本産魚類検索.1474pp.東海大学出版,東京.
10) Pratt,H.L.,Jr(1979):Reproduction in the blueshark,Prionace gladuca. Fishery Bulletin, 77(2): 455-470.
11) Peres,M.B.and Vooren,C.M.(1991):Sexual development reproductive cycle and fecundity of the school shark Galeorhinus galeus off southern Brazil. Fishery Blletin,89(4):566-667.
12) 鈴木克美,久保田正,田中 彰,西源二郎,塩原美敞,阿部秀直,日置勝三(1989):駿河湾産深海性軟骨魚類主としてラブカの生態学的研究,昭和63年度科学研究費補助金研究成果報告書,83pp.
13) 田坂宗一(1986):サメの卵の展示,海のよこちょう(下田海中水族館),1986(1):2-3.
〔1994年1月4日受付,1994年3月28日受理〕