平成16年度繁殖表彰-受賞動物の記録資料

発行年・号

2005-46-01

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期

所 属

執筆者

ページ

29〜36

本 文

広島市安佐動平成16年度繁殖表彰-受賞動物の記録資料
(37件中20件掲載)

趣旨:飼育下の野生動物の繁殖に成功し,それがその種におけるわが国最初の例であった場合に表彰し,希少野生動物の繁殖技術の向上に資することを目的として,昭和31年度から実施している.

1. コタケネズミCannomys badius(自然)埼玉県こども動物自然公園管理事務所
1999年12月3日にオス1頭メス1頭を購入し,飼育を始めた.当初よりオスとメスを同居展示した.2001年2月のはじめての出産は1頭で,5日齢に行方不明となった.オスは出産前から他のケージに別居させていた.
2002年9月下旬から10月にかけて,メスの体重が著しく増加した.11月上旬にはメスが展示舎内のすみの方や,舎内の木製部分を噛み削り始めた.同時に,オスとやや激しい闘争が見られたため,メスを別のケージに移動した(11/4),前回の繁殖で仔が行方不明となったのは,メスが落ち着けなかったのが原因と考えたためである.
飼育ケージは市販の60cm水槽を使用し,内部には木製の巣箱(大きさ:20×25×20cm入り口:底辺10cm高さ7cmのアーチ型)を設置,巣箱の上部のふたは,水槽内を2層構造にするように巣箱の大きさよりも長くした.また,ふたの上部に登れるようにステップを置いた.地上面と地下の部分に分けた方が,メスが落ち着いて繁殖できるのではと考えたからである.敷材は,クリーンチップと乾草を使用,メスは水槽に移動後もしばらくは巣箱を綴り続けていた.
水槽に移動して24日後(11/27),巣箱内をのぞくと2頭の仔が確認できた.すでにうっすらと黒色の体毛が生え,目は開いていなかった.
通常親に与える飼料(煮ニンジン,煮サツマイモ,煮ジャガイモ,リンゴ,バナナ,レンコン,小松菜)にドッグフードを加え,仔の成長に合わせ量を増加させた.水は通常飼育と同様に,陶器製の鉢にて給与した.エサは給餌後すぐに巣箱内に運び入れていた.哺育中にメス親は,よく乾草を巣箱内に運び巣材として使用,繁殖確認後42日目(1/7)まで,エサを運ぶとき以外は,敷材クリーンチップや乾草,木屑でほとんど塞がれていた.
展示を止め非公開とし,内部が暗くなるような巣箱を設置したことが成功につながったと考える.

2. アイアイDaubentonia madagascariensis(自然)東京都恩賜上野動物園
オス親は,推定1993年生まれ,メス親は推定1998年5月生まれのいずれも野生捕獲個体,2001年10月にマダガスカル,チンバザザ動物園より来園した.隣り合わせの3.5×3.5×3.0mの室内展示場に1頭ずつ収容し,昼夜逆転の照明システムを採用した,展示場内には,各々幅750mm,奥行き360mm,高さ500mmの木製巣箱を設置し,空間を多様に利用できるよう木の幹や枝を複雑に組んだ,飼料は,熟した果実や野菜(おもにアボカド,パパイヤ,メロン,ライチ,キュウリ),ナッツ類(落花生クルミ,マカダミアナッツ),虫の幼虫(ミールワーム,ぶどう虫など),ハチミツなど.
2002年1月よりメスに発情兆候が表れ,1月末より同居を行った.メス陰部の形状変化により発情のピーク,妊娠の有無が判別でき,その後数回の交尾ののち,2002年12月24日に1回目の出産が見られた.仔は床上で発見され,巣箱へ戻したが,メスは再び仔を床に落としたため人工哺育へ切り替えた.しかし,仔は12月28日,頭蓋骨骨折及び脳挫傷により死亡した.
その後,2003年1月より再びメスに発情兆候が表れ,オスと同居を行った.1月31日,2月1日に交尾が確認され,3月には妊娠が判明,オスとは同居を続け,出産予定日3週間前に分離した.今回は床上に5~10cmの厚さにウッドチップを敷きつめ,予定日3日前にはメスの展示を中止した.2003年7月9日に妊娠期間158日を経て2回目の出産が行われた.生後1日目よりメス親は仔を頻繁に落下させたが,自ら拾い上げ巣に戻す行動が見られた.仔の体重は生後1日目の昼で85.4gだったが,夕方減少傾向にあったため,介添哺乳を行い巣箱に戻した.その後は,仔の扱いも段々とうまくなり,母乳により仔は自然哺育された.また,メス親は,出産後ミールワーム等の昆虫タンパクを通常の10倍以上必要とした.生後2ヶ月で自分から巣の外に出るようになり,体重も435gとなった.生後3ヶ月半より離乳が始まり,生後6ヶ月で体重1080gとなった.

3.ハヌマンラングールSemnopithecus entellus(人工)名古屋市東山総合公園事務局
本種は霊長目オナガザル科に属し,ヒマラヤ山地からインド,スリランカに至る山林に生息する.食性はリーフイーターで,適応力に富み,子殺しなどの行動で知られる.2000年5月から飼育展示し,2001年5月に第1子,2002年2月に第2子を出産したが,いずれも虐待死した.同年12月に第3子を出産するも,同様に雌親による虐待の兆候が見られたため人工哺育に切り換え,261日間生存させることができた.雄親は同年4月に日本モンキーセンターから,雌親は同年7月に常盤遊園から来園した.雌雄の相性は良く,獣舎はシュートでつなげた屋外展示場と室内展示構造で終日同居させた,飼料は,果物,根菜類野菜類に加えて食パン,サル用ペレット1日1回(1250g/頭)を与えた.12月10日未明に出産し,体重は700gであった.30℃設定の保育器に収容した直後は元気消失していたが,人用の粉ミルク(SMAS26Baby)を与えるとすぐに飲み始めた.1ヶ月間はミルクに整腸剤と乾燥木葉(ネズミモチ)の粉末を添加した.生後14日目に腸内細菌を定着させる目的で少量の雌親の糞をミルクに混ぜた.2ヶ月目からはミルクの他,果物,木葉等も少しずつ与えた.3ヶ月目以降はケージ(75cm×75cm×75cm)に移した.4ヶ月目からは10分程度の屋外日光浴を始め,徐々に時間を延ばした.5ヶ月目からは飼料に栄養強化の為にチーズを加え,6ヶ月目に離乳した.その後は順調に成育したが,9ヶ月目に40度の発熱を認めたため治療を加えるも,翌日に肺炎を併発して死亡した.死亡時の体重は1100gであった.一般にリーフイーターの人工哺育においては離乳がポイントとされる.今回のケースでは初期段階からミルクに木葉を混ぜた事や,哺乳期間を長くした事,親の糞をミルクに混ぜた事などが結果的に離乳をスムーズにできた要因と思われた.

4.ジャイアントパンダAiluropoda melanoleuca(自然)アドベンチャーワールド
絶滅の危機に瀕するジャイアントパンダの繁殖研究に取り組むため,1994年より中国成都ジャイアントパンダ繁育研究基地と共同で飼育下繁殖研究を行っている.今回繁殖に関与したのは,1992年9月に北京動物園で生まれ,1994年9月に搬入されたオスと,1994年8月に成都ジャイアントパンダ繁育研究基地で生まれ,2000年7月に搬入されたメスで,過去にメスは3回の出産例が,オスには1回の妊孕歴がある.
飼育施設は総面積1,581㎡で,うち屋内運動場221㎡と屋外運動場914㎡がある.屋内と屋外運動場の間の扉には互いの姿が確認できるよう格子窓を設置し,獣舎は10㎡(2室),7.5㎡(2室),6㎡(1室)である.産室には目隠しとなる囲いはせず,子の体重測定や健康チェック及び万が一に備え,格子幅を16cmと広くしている.
オスは2003年3月下旬,メスは5月上旬にそれぞれ発情行動が確認された.5月21日メスがオスに尾を上げる許容姿勢をとり,5月21日と22日の2日間で,6回の交尾が確認された.メスの膣スメアより精子が確認されたため,人工授精は実施しなかった.
メスは,出産25日前より睡眠時間の増加と採食時間・量の減少が認められ,9月8日にオス2頭を出産した.妊娠期間は109日で,子の体重は2日令で167g,106g,60日令で3,225g,2,690g,120日令で7,255g,6,985gに成長した.
給与飼料は,通常与えている液状餌(内容:パンダミルク,ビスケットなど),ニンジンやリンゴについては量を決め,竹は採食するだけ与えていた.竹以外の餌については,8月中旬より増量し,通常与えている餌の約2倍の熱量に増加した(竹は除く).
今回の成功は,発情行動を注意深く観察し交配適期を見極められた点と,メスが育児経験豊富であったことが考えられた.

5.カスピカイアザラシPhoca caspica(人工)鴨川シーワールド
2003年4月25日にカスピカイアザラシの出産が認められ,人工哺育を行った.その結果,生後9ヶ月で体長82cm,体重17kg,摂餌量1.5kg/日で,健康状態は良好である.
両親は,1993年に推定年令0歳でロシアより搬入され,水温,気温共に20℃以下に冷却可能な屋内施設で同居飼育されていた.1998年に新施設の建設にともない移動したが,自然光が採光不能だったため,2001年より照明点灯時間を屋外の日照時間に合わせ調節した.餌料はアジ,カラフトシシャモを主体に,両頭共に2~4kg/日ほど与えていた.2002年4月20日に交尾が確認され,2003年2月頃より母親の腹部の膨らみが顕著となり,その後胎動も確認されたため,母親単独とし出産に備えた.
2003年4月24日,23時15分に母親は陸上で分娩を開始し,翌25日,0時12分にプールに入るのと同時に子を水中で娩出した.子は遊泳不能で水底に沈んだため,係員が救出し,その後育児行動が見られなかったので,出産33時間後に母子を分離し人工哺育を開始した.
初回のみカテーテルを使用し強制哺乳をしたが,当日中に自力哺乳が可能となり,母親より乳汁を採取し3日間投与した.ミルクは市販のペット用ミルク(商品名:エスビラックパウダー・犬用)とサバすり身を混合したものを使用し植物油,肝油,総合ビタミン剤を添加した.ミルクの濃度や成分,哺乳量は本個体の体重増加や状態に合わせて随時調整し,1日の哺乳回数は2~4回)哺乳量は150~950㎖であった.12日齢で仮設のプールで水浴を開始し,15日齢でプールのある施設へ移動した.24日齢より餌付けを開始し,31日齢でアユ(活魚)を初めて摂餌し,その後はカラフトシシャモ,アジを摂餌可能となり,45日齢で哺乳を中止した.

6.バンドウイルカTursiops truncatus(人工授精)鴨川シーワールド
バンドウイルカ3頭に人工授精を行った結果,その中の1頭が2003年7月17日に雌個体を出産した.人工授精実施にあたっては合成黄体ホルモンを1ヶ月間経口投与し,投与中止後およそ3週間で発情が帰来することを利用して計画的に実施した.排卵予定日の4日前より,イルカをステージ上に寝かせて体側より超音波診断装置を用いて卵巣における卵胞の直径を経時的に測定し,排卵が近いと考えられた2003年7月1日~5日(薬剤中止後19日目からの5日間)におよそ12時間毎に計8回,内視鏡を用いて人工授精を行った.排卵は卵巣に卵胞が確認出来なくなったことにより判断し人工授精を終了した,精液は,当初は凍結精液を用いたが授精回数が増したこと及び精子運動性の不良より人工授精の後半は新鮮精液を用いた,人工授精の成功には子宮内に確実に精液を注入することが必須であるため鎮静剤(ジアゼパム)を経口投与した.作業はイルカをステージ上に寝かせた状態で約30分から1時間を要したが,実施期間後半においてはイルカが非常に落ち着いた状態で鎮静剤投与の必要はなかった.人工授精終了後は,受診動作により定期的に採血を実施し母獣の体調管理を行うと共に血中プロゲステロン値及び超音波診断装置により経過の観察を行った.また,同居個体や母体の栄養状態に配慮し,野生の群れ構造と同様の母子群の中で出産が迎えられる様に配慮した,出産に際してはプールの危険個所を改良し,事故防止のために水位を下げるなど安全に配慮した.母獣は当館での飼育歴が31年目で飼育環境ならびに作業に十分に馴れていた事,今回の出産が10回目と繁殖経験が豊富であったことも人工授精成功の要因の一つとしてあげられる.2004年1月17日(生後6ヶ月)現在,母子共健康状態は良好である.本人工授精は米国シーワールド社の協力を得て三重大学と共同で行った.

7.シロクロゲリUanellus armatus(人工)埼玉県こども動物自然公園管理事務所
1999年に4羽を導入し,パススルー式のケージにて飼育を開始した.4羽中,1羽は2000年に死亡し3羽となるが,外見からは性別判定できず不明のままであった,2003年4月11日,ケージ内の観覧通路から近い所の地上に3卵を確認した,卵はやや窪んだ土の地表面にあり,卵の色が黒斑の混じる褐色であったため,周囲と見分けづらい状況であった,抱卵は発見の翌日から開始したが,同居する他の鳥類からの影響や,産卵場所が来園者に見つけられやすい場所である事などから,人工孵化,育離を試みる事とした.
人工孵化には立体孵卵器を使用した,温湿度の設定は,サンディエゴ動物園での人工孵化記録を参考とし,温度を36.9℃,湿度を66%とした,採卵した3卵の内1卵は取り扱い上の事故により孵卵器入卵後6日目で破卵し,卵からは未熟のヒナが出て来た,残りの2卵は入卵後19日後と20日後に相次いで孵化した,孵化したヒナはすでに開眼しており,自力歩行も出来た,孵化時の体重はそれぞれ13.16gと12.84gであった,孵化日数は,親による自然抱卵が開始された日から26日と27日となる.
人工育雛には,この鳥の嗜好性を考慮しコオロギやミールワームなどの虫類を主として与えた,育雛開始当初は,なるべく小さく且つ生きているものだけを与えた,与え方はピンセットを用い促す方法と,置き餌とを同時に行なった,両方法とも孵化の翌日から採食が見られたが,12日齢以降はヒナが怖がり始めたため置き餌のみとした,ヒナの成長に伴い与える餌も大きい物に変えていき,ジャンボミールワームや最終齢コオロギなども使用した,体重は順調に増加していたが30日齢時に1羽のヒナが肢を痛めたため,体重測定は中止した,この時点での体重は106.45gと98.52gであり,体色も親とはまだ差が大きかった,親とほぼ同じ体色になるのにはおよそ90日かかった.

8.ライラックニシブッポウソウCoracias caudate(自然)埼玉県こども動物自然公園管理事務所
1999年,6羽を導入し飼育を開始したが,同年中に3羽が死亡した,残りの3羽は2000年6月より展示を開始,2001年さらに1羽が死亡したため,2羽のみとなった,この2羽を飼育している禽舎には,コサンケイがペアで同居していた,この時点では,2羽の性別は不明であったが,2003年5月下旬に求愛給餌行動やマウント行動が見られ,ペアであることの可能性が伺われた,同年6月初旬には,以前より設けてあった巣箱に出入りしているのが確認され,コサンケイとの同居展示を中止した.
2羽はその後も巣箱に出入りし,時には2羽とも巣箱へ入ることもあったため,2003年6月19日,箱内を確認したところ3卵を認めた.6月29日,2羽のヒナを確認した.残り1卵は7月6日に孵化を確認したため,産卵した3卵は全て孵った.
エサはドライドックフード,マイナーフード,新世界サル用ペレットのふやかしたものを用い,補足的にミールワームやジャンボミールワームなども与えた.ヒナの確認以降はコオロギも追加し,不断給餌した.
7月24,25日と1羽づつ相次いで巣立ったが,最後に孵ったヒナは行方不明となった.巣立ち直後のヒナはややくすんではいるものの,親と同様のカラフルな羽に覆われており,体の大きさも親よりも若干小さい程度にまで成長していた.ヒナは次第に虫類だけでなくペレットも採食するようになり,これに伴い虫類の給餌量は徐々に減らしていき,現在では繁殖する前の親と同様に補足的に与える程度に留めている.
巣立ちから約6ヶ月後には燕尾状の尾羽,体色,大きさのいずれも親と遜色ない程に成長した.

9.セグロコサイチョウTockus deckeni(自然)埼玉県こども動物自然公園管理事務所
1999年7月31日にオス・メス各2羽(以下繁殖に成功したメスをA,しなかったメスをBとする)の合計4羽を導入したが,8月4日にオス1羽が死亡した.
同年9月20日にパス・スルー式のフライングケージで他9種と同居飼育を開始した.現在は10種と同居している.
2001年にメスBが営巣したが,繁殖には至らなかった.同居しているカンムリコサイチョウが優位であったため,本種の繁殖を優先する目的から,2003年3月にカンムリコサイチョウの繁殖ペアを隔離した.
2003年4月よりオスはメス2羽に求愛給餌を始めたが,5月になるとメスAが巣箱に出入りするようになり,5月22日より巣箱に入ったままとなった.その後,メスBがオスに追われるようになったため,非公開ケージに隔離した.

親鳥の飼料は,マイナーフードとドライドッグフードをふやかしたもの,ズーソーセージ,リンゴ,バナナ,ブドウと,ミールワーム,ジャンボミールワーム,コオロギである.果物は1日2回,虫は1日4回給餌した.
7月1日,雛の声を確認した.7月16日,腐敗した雛を課外で確認した.この時メスも巣箱から出てきたため,巣箱を確認したところ,大きさの違う雛が3羽確認できた.メスが出てきたとき巣箱の入口のシーリングは壊されたが,すぐに中の雛がシーリングをして塞いだ.
その後は,オス,メスともに雛への給餌を行なった.8月16日に2羽,9月10日に1羽巣立った.
限られたスペースでの混合飼育であるため,繁殖期にはサイチョウ間での争いが起こり,優位な種類しか繁殖できないようである.繁殖期前に優位であったカンムリコサイチョウの繁殖ペアを隔離したことが,今回の繁殖に成功したポイントと思われた.

10.ムジエボシドリTuraco corythaix persa(人工)
埼玉県こども動物自然公園管理事務所
1999年12月3日にオス1羽メス3羽の合計4羽を導入した.2000年にはこのうち1ペアが形成され,自然繁殖に成功し2羽のヒナが無事巣立った.ペア形成できなかったメス2羽(以下メスA,Bとする)は非公開施設で飼育していたが,2000年11月にメスBが死亡した.2002年5月まで繁殖した個体とペアは同居していたが,1羽が闘争により死亡し,残りの1羽もペアから追われるようになったため,メスAとの同居を開始した.同年10月にツキノワテリムク1羽も同居させ,合計3羽で飼育した.
親鳥の飼料は,マイナーフードとドライドッグフードをふやかしたものと,リンゴ,バナナ,ブドウ,マンゴーである.
2003年2月に2卵を確認したが,抱卵せずに破卵した.その後も何度か産卵し巣ごもりはするものの,放棄してしまうため,6月21日より巣ごもりし6月24日で放棄した1卵を人工孵卵へ切り替えた,孵卵は立体孵卵器を使用し,温度は37.2℃,湿度は60%とした.放冷は1日1回15分間行なった.孵化日数は24日,孵化時の体重は17.62gであった.
本種は果実食のため,育雛飼料は,インコの育雛用飼料であるラディブッシュ社(米)の「フォーミュラー3」とネクトン社(独)の「ネクトンローリー」にビタミン,ミネラルを微量添加したものを与えた.16日齢からはガーバー社の人用ベビーフード「ミックスフルーツ(うらごし)」を主体とした配合へ変更した.18日齢からは置き餌として果物(バナナ,ブドウ,マンゴー)を単体で与え始めたが,自力採食は確認できなかった.給餌回数は,2日齢までは3時間おきに7回,3日齢からは6回23日齢からは5回,27日齢から4回,36日齢から3回にし,40日齢で差し餌を終了とし完全自力採食とした.40日齢の体重は167.74gであった.

11.アカガシラカラスバトColumba janthina nitens(自然)東京都恩賜上野動物園
平成13年3月に小笠原にて,東京都の保護増殖事業に基づき,野生個体3羽(うち1羽は幼鳥)を捕獲・導入し,当園の非展示施設にて飼育を開始した.
雌1,雄2羽であることがPCR法により確定した4月より,成鳥同士の同居を始めたが,その年には繁殖行動はみられなかった.
他の雄との同居,別亜種であるカラスバトの繁殖しているペアを近くで飼育するなどの変化・刺激を与えてみたところ,翌年10月21日に,雄が雌を頻繁に追い回す行動が認められ,翌日にマウントを確認した.
その後,27日より180cmの高さに設置した巣箱(46cm×46cm×46cm)に出入りを始め,孵化推定日より逆算して30日頃に産卵したものと推測された.
11月19日に,白色の卵殻が巣箱外に出されていたため,孵化したと判断した.
11月26日になって,初めて雛を確認した.その際,体重測定を行わなかった.初めて測定したのは17日目で,276gであった.48日目には424gとなった.
雛が巣の外に出たのは12月12日で,翌年1月4日に親子を分離した.
資料によると,本種は10月頃より年1~2回繁殖すると言われている.
しかし,当園で飼育してみた結果,その後,引き続き繁殖行動が観察され,平成14年から平成15年10月までの間に計6回の産卵,5回の孵化(1卵は破卵),4羽の自然育離に成功している.
餌はハト用の配合飼料(大豆・コーリャン・サフラワー・小麦粒等の混合)と刻んだ小松菜を与えている.

12.ムギワラトキの人工ふ化・育雛(人工)東京都多摩動物公園
採卵経過;1985年より本種の飼育を開始した.1991年に自然繁殖に成功し,2003年12月31日までに26羽が繁殖により増加した.2003年にオーストラリア・タロンガ動物園由来の雄と,当園でふ化した雌がペアになった.このペアは営巣,交尾,産卵などの繁殖行動まで確認できたが,第1卵を産卵後に巣を放棄したため同年6月23日に採卵した.
ふ化条件;採卵した卵は昭和フランキ社製の立体型ふ卵器P-0003型に入卵した.ふ化の条件は温度37.2℃,湿度60±5%,1時間1回の自動転卵に設定した.ふ化日数は25日で,初生雛の体重は38.1gであった.
育離施設;ふ化後の育雛は0~14日齢まで昭和フランキ社製の育雛箱を使用し,育雛温度は34℃から状況に応じて27℃まで徐々に下げていった.15~63日齢までは室内の寝室及び屋外放飼場に収容した.寝室上部から赤外灯を点灯し保温した.63日齢以降現在まで当園のトキ飼育舎内隔離施設に収容している.日光浴は孵化後3日齢より実施して,成育に合わせて時間を変更していった.飼料内容:育離用の飼料(基本飼料)として4種類の飼料(トキ飼料,犬猫用缶詰,小松菜,ペット用粉ミルク)を水で溶いたものを与えた.基本飼料の配合割合は7日齢ごとに変え,飼料への加水量を段階的に低くした.ドジョウは9日齢,ワカサギは17日齢より給餌を開始した.18日齢より自力での採餌が確認できたので,28日齢以降は基本飼料の給餌を中止した.
体重の推移;体重はふ化時の38.1gから14日齢まで440gと急激な増加を示したが,その後は63日齢まで1200gと緩やかな増加傾向であった.

13.アカミミコンゴウAra rubrogenys(自然)千葉市動物公園
両親は,1986年11月にボリビア政府より寄贈された.出生・年令は不明で来園時には成鳥であった.ケージ飼育をしていたが,1993年に高さ2.4m直径2.0mの1/4円形の展示室に移し,1999年と2000年に繁殖行動と産卵がみられたが孵化には至らなかった.2001年9月新築した繁殖用展示室に移動した.
繁殖した展示室は屋外(幅2.5m奥行3.0m高さ約3.1m)と屋内(幅2.5m奥行2.0m高さ2.5m)に分かれている.屋内には暖房のため家畜用コルツヒーター2灯があり,厚さ1.5cmの合板製の巣箱(高さ90cm幅36cm奥行約37cm巣穴直径12cm)も設置した,飼料は1日1羽当りバナナ等の果実80gとヒマワリと殻付落花生20g,トマト・キャベツ各10g,干しブドウ少々,ミルクに浸したパン1/9枚塩土・カトルボーン適量,同居個体は同種の雌が1羽いたが,抱卵中に攻撃されたため以降別居した.2003年1月中旬頃より営巣が観察され,以降入室を極力控え,日中屋内と屋外の間の扉を開いた状態で展示した.2月3日,3個の産卵を確認した.主に雌親が抱卵していた.2月21日2羽の孵化を確認するが,24日に1羽が行方不明となった.3月に入り雌親も巣箱より出て採食するようになったため給餌量を1.5倍程度増量し,蛋白質補強のためドッグフードを10g程度添加した.雛は3月4日に綿羽が生え始め,7日には完全に開眼した.3月中旬に羽根が生え始め,雌親も巣箱の外にいる時間が増えてきた.5月3日には雛の体重は560g,5月上旬には巣箱より顔を出すようになり,落下事故防止のため床に家畜用のチップを敷き屋外にある水飲みの水を抜いた.14日に巣立ち,7月14日には自力採食が確認された.
繁殖成功の最大ポイントは,広い展示室に収容できたことが考えられる.大きな巣箱が設置でき,人間の作業箇所から距離も取れるようになり,落ち着いて抱卵育離ができたものと考えられる.

14.ヒバリAauda avensis(人工)豊橋総合動植物公園
コジュケイ,アトリとの混合飼育を行っていたが,コジュケイの妨害により抱卵を放棄したため,全3卵を立体孵卵器(設定温度37.8℃,湿度65~68%)に入れた.10日目の6月17日に3羽孵化した.直ちにヒナを平面孵卵器(孵化温度に近い37.4℃,湿度70~75%)に入れた.孵化4時間後,口を頻繁に開き,頭の持ち上げ方がしっかりしてきたため,給餌を開始した.餌の配合は卵黄10g,クモ20匹(幼生),コオロギ20匹(幼生),トマト50gをすり鉢でよく揺り,水50㎖を加えたもので,高濃度の餌を与えると消化不良を起こし胃内に停滞してしまうため,初期は脱水を防ぎ消化しやすいよう水分を多くした(1時間間隔で全3回),その後7日間は,すり餌(6分餌)にビタミン剤を少々加えたものと,クモ(全長1cm程)を30分間隔で交互に与えた.<6分餌>きな粉1.5(9.3%),米粉2.5(15.6%),ヌカ6(37.5%),魚粉6(37.5%)
2日齢,4日齢と1羽ずつ衰弱死した.原因として温度,湿度が高いと判断し,徐々に下げ,同時に餌の水分も少なくしていった,給餌量はヒナの様子を見ながら徐々に増やしていった.7日齢では体のほとんどに鞘毛の発生が見られた.8日齢で保温を中止した.10日齢で巣立ちをし,ヒバリ籠に移し替えた.20日齢で自力採食が始まり,24日齢では完全自力採食になった.26日齢ですり餌と同時に小鳥飼料を与え始めた.<小鳥飼料の配合割合>ヒエ6,アワ4,カナリーシード1
成育に至ったポイントは,次の3つが考えられる.①育雛器の温度,湿度をヒナの状態を見ながら下げていくこと,②餌の水分は初期段階では多く,温度を下げて行くに従い減らしていくこと,③量はヒナの餌に対する反応を見ながら,無理に与えすぎないように注意し,徐々に増やしていくこと.

15.ツグミTurdus naumanni(自然)豊橋総合動植物公園
山地,平地,海岸地で越冬する3タイプのうち1,2月の平地で越冬するタイプを捕獲し,4月上旬に雄2羽.雌1羽を同居させ,ペアが出来た時点であぶれ雄を取り除いた.ツグミなどの冬鳥の繁殖地に合わせ,北緯60度の日照時間になるように,100wの電球を4灯設置した.すり餌は6分餌を使用し更に卵黄,ミルワームも使用してタンパク質の強化を行った.
<6分餌>きな粉1.5(9.3%),米粉2.5(15.6%),ヌカ6(37.5%),魚粉6(37.5%)すり餌にはリンゴ,山東菜,小松菜,大根菜,ニンジン,トマトをジューサーで攪拌したものを混ぜた.
巣材として,シュロ,小枝を地上に撒き,2.5mの高さに巣箱を設置した.6月22日に数回の地上交尾を確認できた.25日には営業を開始し,同時に雄の高鳴きも観察した.26日には雌の行動から産卵が始まったと判断した.28日,雌が単に平均20分位座り込むことが見られ,抱卵を開始したと推測した.7月11日,雄も頻繁に果に出入りするようになり,孵化したと判断し,ミミズ,コオロギ,ミルワームを切らさず与えた.12日には雌雄での餌運びが頻繁に見られ,16日には雛を4羽確認できた.7月21日には4羽とも巣立ちし,同居のオシドリが雛を追い回すため取り上げた,九官鳥籠に2羽ずつ入れ,6分のすり餌を給与した,8月2日には自力採食が始まり,23日には予備禽舎に4羽とも移動した.
本種の繁殖のため,本種より縄張りへの執着が強いユリカモメ,オオヨシキリは事前に他に移動した.更に,本種の縄張りへの執着を高めるために,最初に雄2羽雌1羽を同居させた後,あぶれ雄を取り除いたことが成功につながったと考えられる.
雌のみの抱卵,雌雄での子育て,親鳥による雛の食糞が観察された.また営巣から抱卵までが4日程と短く,営巣前からの交尾が見られた.

16.オオルリCyanoptila cyanomelana(人工)豊橋綜合動植物公園
冬季は単独飼育をし,5月3日にペアリング,6月1日に第2回目の営業行動,10日に抱卵確認をして,18日に人工繁殖に切り替え,全3卵(有精卵)を立体孵卵器(37.8℃,65~68%)に入れ,6日目の6月23日に3羽孵化しヒナを平面孵卵器に入れ,孵化温度に近い37.4℃,湿度70~75%で育雛した.
孵化直後は,卵黄10g,クモ(20匹),コオロギ20匹(幼生),トマト50g,水50㎖,をジューサーで撹拌したものを,1時間間隔にてすり餌(6分)にビタミン剤を少々加えたものと,クモ,コオロギ(幼生)を交互に食べるだけ与え,20日齢以降は,時間を決めず,ヒナの鳴き声に対してすり餌(6分)コオロギ(幼生)を給餌した.3日齢,6日齢と1羽ずつ衰弱死し,その原因として温度が高いと判断し,6日齢で35.6℃,14日齢で33~28℃にして,ヒナの様子を見た.10日齢で羽ばたき始め,14日齢で巣立ちをし,竹かごに移したが成長が遅れ気味のため60日齢まですり餌(6分)を差し餌し,70日齢以降には自力採食に移行させた.
ヒナのすり餌の配合(6分餌):きな粉1.5(9.3%),米粉2.5(15.6%),いりぬか6(37.5%),魚粉6(37.5%)
これまでは,孵化後7日齢までの餌の内容と給餌量および温度が課題になっていた.以前はすり餌に浸したクモ,ミルワーム,コオロギを与えていたが,今回の改良点として,の孵化直後は急いで栄養のある餌を与えず,脱水を防ぐための水分補給程度の給餌に抑えたこと,2給餌量はヒナの反応を見て食滞を起こさないように注意し,温度もヒナの状態と糞便を見ながら下げていったことがあげられる.

17.アオボウシインコAmazona aestive(人工)岡崎市東公園動物園
昭和54年から飼育していた雌と思われる個体(本種は通常1腹3卵と言われているが,平成8年に5個の産卵があり,当時飼育していた2羽とも雌と推察した.)と平成12年に購入した雄でペア形成を図った.ペアの相性は良好,給餌内容を繁殖期には動物性蛋白質の餌を増やし非繁殖期との変化を付けた.巣箱は舎内奥,高さ2mのところに幅1.5m,高さ1m,奥行き1.5mの壁に埋め込み型,平成14年5月上旬にペア形成後初めての産卵がみられたが,抱卵を放棄したので温度38℃,湿度68%の孵卵器にて孵化させた.3卵中1卵は孵化したが,発育不良で死亡,平成15年5月上旬も産卵がみられたが,1週間で抱卵を放棄したので温度38℃,湿度68%,転卵を60分に1回に設定した孵卵器に移した.卵は2個,全て有精卵であった.抱卵期間も含めて孵化日数は約24日であった.孵化後から40日齢までは孵卵器で飼育し,設定温度を33℃まで徐々に下げ,室温にならし,保温のため発泡スチロール箱に移し,体表が羽毛に覆われ保温の必要がなくなった時点でコンテナに移し,飛行可能になった時点でケージ飼育にした.人工育雛の飼料は,エスビラックリキッド(犬用)と,ラウディブッシュ社のフォーミュラー3をリンゲル液にて規定倍率で薄め注射筒にて給与した.リンゲル液を使用することで消化吸収を容易にし,食滞を防ぐと考えた.他にマズリー社のパロットメンテナンスをオレンジ果汁でふやかしたもの,茹でた人参,リンゴのペーストを嘴型に変形させたスプーンにて給与し,スムーズな固形飼料への移行を図った.
繁殖に至った要因としては,飼育環境の変化や飼料に変化をつけたこと,また,同舎内,別室のルリコンゴウインコがアオボウシインコから見えるところで自然繁殖しており,鳥類は近縁の鳥の発情に影響されると言われていることから,ルリコンゴウインコの発情が影響したと考えられる.

18.ゴシキセイガイインコTrichoglossus haematodus(人工)アドベンチャーワールド
繁殖に関与した親は,2000年にニュージーランドより搬入した飼育下繁殖個体で,搬入時年齢は1~2才であった.
床面積53㎡,高さ4mの金網フェンスで囲まれた展示場で飼育しており,繁殖のために,大小2種類の巣箱(W50cmXD40cm×H40cm4個,W23cm×D20cm×H20cm3個)を外周金網フェンスの高さ2mの場所に設置した.
2003年5月17日に,展示場内の土の部分に穴(直径15cm程度)を掘り1個産卵した.抱卵や育雛は困難と判断し,同日卵を取り上げ,東洋孵卵機(TS15型)を使用し(温度36℃,湿度60%,1日3回180度手動転卵),人工孵化を試みた.32日目に孵化し,人工育雛を開始した.
孵化後,乳幼児用アトム保育器(V-85)内で温度35℃,湿度70%前後に保ち,成長に伴い徐々に温度を下げた.給餌には,シリンジ(成長に合わせて1~20㎖を使用)と18ゲージの留置針の外筒を約2cmに切ったものを,カテーテルとして使用した,餌は,成鳥に与えているロリネクター®(アベスプロダクト社製)を温湯で規定濃度に希釈したものを与えた.給餌回数及び採餌量は,9回/日及び3.0㎖/平均日量から開始し,成長とともに給餌回数の減少と採餌量の増加を行った.69日令からは,成鳥に与えているハリソンマッシュ(ハリソン社製)も添加し,86日令より置き餌とした.
孵化直後の体重は4.6gだったが,89日令で最大124g,その後120g前後で安定した.孵化直後の雛白色の綿羽がまばらに生えていたが,80日令頃で体のほぼすべての羽が生えそろい,半年で成鳥の群れと一緒にした.
今回人工育雛に成功した要因として,毎回給餌前後に雛の体重測定を行い,体重の伸びや消化の程度を見ながら餌の量を変更(1日採餌量は体重の55%~67%の範囲)した点が考えられた.

19.セネガルショウノガンEupodotis senegalensis(人工)高知県立のいち動物公園
1996年10月よりタンザニア北西部にて捕獲されたセネガルショウノガン(33,42)とクロハラチュウノガン群の混合飼育を開始した.木造の寝室(3.8m×2.9m×2.1m)は通気窓のみで外界の影響は少なく,床面(コンクリート製)には人工芝を敷いた.展示場(8.0m×16.0m)は自然土にパンパスグラス,ユッカなど多数の植裁を配置した.展示場への放飼は日中にフサホロホロチョウ群(寝室は別)と交互に日替わりで実施し,夜間は寝室内に収容した.餌はドッグフード,成鶏用配合飼料,昆虫類を主体とし,繁殖期も特に変更はしなかった.2002年6月に寝室内にて初めて産卵が認められ,いずれも抱卵しなかったため人工孵卵としたが,全て無精卵であった.同年12月より本種の単独飼育となり,2003年8/26~9/10に産卵された4卵は孵化に至った.孵化日数は22±0日であった.孵卵器の設定は,温度37.2℃,湿度60%,2時間毎の自動転卵であった.人工育雛は空調設備の整った屋内施設で行い,成長に合わせ育雛箱,自家製飼育箱(20日齢),サークルケージ(35日齢)と順次移動し,温度を下げていった,給餌は1日齢より開始し,ドッグフード,マイナーフードや昆虫類を主体とし,煮ニンジン,コマツナなどの植物性飼料も徐々に加えていった他,総合ビタミン剤,ミネラル剤を添加した.給餌回数は一日8回より開始し,5回(10日齢),4回(25日齢),3回(45日齢),2回(71日齢)と徐々に減らしていったが,45日齢頃までは全て差し餌で与え,完全自力摂餌に至るには約70日を要した.今回の繁殖について,交尾,産卵は単独種で静かな寝室を占有できたことにより促進された可能性がある.人工育雛において,体調や増体との関連を考えると,温度調節と栄養の管理が重要であった.特に本種の習性から,差し餌の時期が長く,飼料の栄養面への影響が大きかったため,ビタミン,ミネラルとタンパク質の強化はヒナの良好な成育へ有効であったと思われる.

20.オウギバトGoura victoria(人工)福岡市動物園
2001年10月より3羽のオウギバト(雄1羽;シンガポール産,雌2羽;フィリピン産)を飼育している.導入早々に冬を迎えるため,極楽鳥舎の空き部屋(2.5m×4m×3m)で飼育を開始した.
親鳥の飼料は,穀類(家禽用),1cm前後のさいの目に切った果物(バナナ,パパイヤ,リンゴ,ミカン等),青菜の他に,動物性タンパク質としてドッグフード,ミルワーム,牛ミンチ肉等を少量与えた.2002年8月に雛1羽が自然孵化し,親鳥によって成育したが,その後は産卵するものの抱卵中止が続いた.原因として,雛と親の計4羽を同居飼育していたこと,当時獣舎付近で工事があり,親鳥が落ち着いて抱卵できる環境ではなかったことが考えられる.
そこで,抱卵中止した卵を取り上げ人工孵化を試みた,孵卵器は温度37.8℃,相対湿度60~70%に設定し,転卵は自動と手動で行った.放冷は転卵時に5分程度行った.孵化日数は28~30日で4例とも孵化したが,3例目までは33日齢以内に死亡し,4例目で初めて成育した.
雛の成長に合わせて,ふごや手製の育雛箱,市販の育雛箱を使用した.温度は育雛当初の37℃から徐々に下げて,54日目に外気温と同じにした.他園の事例や当園のソデグロバト人工育雛例を参考にして,ミルクと果物を主体としたオリジナルのピジョンミルク(犬用ミルクにすりつぶしたバナナを加え,卵黄,ビタミン,カルシウムを少量添加したもの)を作って給餌した.
しかしながら,ミルクがクリームチーズ状に固化してそ嚢部に滞留し,雛の食欲が低下する状況が続いたため,バナナをパパイヤに切り替えたところ,3例目以降ではそ嚢停滞は見られなくなった.これはパパイヤに含まれるパパイン酵素が消化を助け,ミルクが固化しにくくなったものと考える.育離経過は,自然繁殖に比べるとやや成長が遅いものの,現在も順調に成育している.